「自分たちが明日への活力に」早稲田大学ア式蹴球部が駆け抜けたコロナ禍の1年

2020年、コロナ禍によって生活様式が大きく変わるなか、大学生たちもこれまでにない学生生活を強いられることになりました。「誰も正解を知らない。この環境のなかで最善を尽くすことだけを考えていた」。そう語るのは、大学サッカーの強豪、早稲田大学ア式蹴球部でチームづくりの活動を支えた坂本寛之さん(取材当時4年生)です。

「大変なときだからこそ」と、ビジョン・カルチャーを重視し、エンゲージメントに着目したチームづくりを実践。地域の店舗を応援する動画制作など、「明日への活力」となる存在であるように、サッカー以外の活動にも精力的に取り組みました。伝統である「サッカー選手としても人としても一番であれ」という教えを貫こうと、懸命に駆け抜けたア式蹴球部の1年を、坂本さんに振り返ってもらいました。

シーズン前にビジョンの浸透を徹底

―2020年は、コロナ禍によって大学スポーツも様々な影響を受けたと思います。大会日程が変わったり、チームで集まった練習が制限されたりと、大変だったのではないでしょうか?

そうですね。2020年の3月から5月ぐらいにかけて、グラウンドを使ったチームでの練習ができませんでした。例年であれば、4月に開幕するリーグに向けて、自分たちがこの1年どのようなサッカーをしていくのかを、実践練習やミーティングを重ねて構築していくための大事な時期です。

私個人としても、「4年生として最後の1年になるぞ」と意気込んでいた矢先の出来事で、戸惑いはありました。

―活動自粛中は、何をしていたのでしょう?

フィジカル面で言えば、個々人でトレーニングを行いながら整えていくようにしました。チームでの練習はできませんでしたが、それぞれで走り込みをしたり、体幹を鍛えたりと個人でできるトレーニングは続けていたんです。

一方で、フィジカル面以外にシーズンをスタートさせるにあたって大事になってくるのが「ビジョンとミッションの理解、浸透」です。早稲田大学ア式蹴球部では、毎年4年生がそのシーズンのビジョン、ミッションを考えて、1〜3年生に理解してもらいながらチームの一体感を高めていきます。

―大学サッカーのチームで、ビジョンとミッションを大事にするのは珍しいですよね。

これは、早稲田大学ア式蹴球部の伝統なんです。ベースに「早稲田 the 1st」という哲学があります。これは、「サッカー選手としても人としても一番であれ」という意味です。このベースとなる哲学をもとに、毎年自分たちなりの言葉に落とし込んで、シーズンを通したビジョン・ミッションにしています。

―2020年度のビジョン・ミッションはどういう言葉だったのですか?

ビジョンが「日本をリードする存在」、ミッションが「究極の当事者意識、明日への活力になる」ですね。例年であれば、対面でのミーティングで1〜3年生とじっくり話し合いながら、このビジョン・ミッションを理解してもらうのですが、2020年はリモートで行いました。

―話し合いはどのような方法で行ったのでしょう。

1〜4年生がそれぞれ6人程度のグループに分かれてディスカッションをするんです。事前に用意したテーマに沿って「自分たちだったらどう行動するか」、といったことを議論してもらいます。その話し合いを通じながら、ビジョン・ミッションを自分ごと化してもらうのが狙いです。

私のグループでは、発言があれば「いい意見だね」と受け入れて話しやすい雰囲気をつくるように意識はしていました。3年生以上になれば意見を言えるようになりますが、1〜2年生はやっぱり言いづらかったりするので。

―すごいですね…。組織づくりに力を入れている企業と同じようなことをしています。

それから、ちょうど1年生が新しく入部する時期でもあり、事前に「ビジョンシート」というものを渡して、それぞれの考えを記入してもらうようにもしました。このシートを通して、練習生として仮入部している新入生の考えや価値観を把握しました。ア式蹴球部には入部制度というものがあり、その参考の1つにもなりました。

―入部時点からビジョン・ミッションを重視しているんですね。リモートでも、問題なく話し合いはできましたか?

活動自粛になって最初の頃は、リモートでちゃんとコミュニケーションができるか、不安な面もありました。でも、振り返ってみるとリモートでも十分コミュニケーションはできたし、むしろ活動が制限されている分、ビジョン・ミッションの理解にはじっくり時間をかけられたと思います。

ディスカッションの効果がエンゲージメントスコアに好影響

―wevoxも2020年から使っていますね。どういう目的で使いはじめたのですか?

就職活動中にアトラエの社員と話す機会があって、その方からwevoxを紹介していただきました。その方も大学サッカーの経験者で、チームづくりに役に立つのではないか、という話をしてくれて、興味が湧きました。ビジョン・ミッションがどうチームに浸透しているか、後輩が何を感じているかを知りたいとは思っていたので、導入を決めました。

―実際にエンゲージメントスコア(※wevoxのサーベイで計測されるエンゲージメントを数値化したスコア。以下、スコア)を計測していかがでしたか?

自粛前の3月と自粛後の6月に計測した数値を比べると、ビジョン、ミッションへの共感に関するスコアが上がっていたんです。それを見たときに、「あのディスカッションは効果があったんだ」と実感できました。こういうことは、なかなか数値化して効果を知ることができないので、サーベイをしてよかったと思いました。

―どのように運用したのですか?

スコアは4年生だけが見られるようにして、定期的に4年生が集まるミーティングで結果を見ながら話し合いをしました。ミーティング前に、私がスコアを見ながら気になる点をWordに記入してから共有し、どうすればいいかを議論するという形ですね。

―すごい、スコアの分析までしていたんですね。

分析というほど大げさなことではないかもしれませんが…(笑)。せっかくサーベイに協力してくれているし、エンゲージメントという概念はすごく大事だと考えていたので、チームの課題と向き合う機会をおろそかにしないようにはしていました。

実際にスコアを見ていて気付いたのが、カテゴリーが下の人たちが窮屈な思いをしているかもしれない、ということです。私たちのチームはマネージャーなど含めて全体で90人程度います。その中で、カテゴリーA、B、Cと設定されていて、その時々のパフォーマンスによってどのカテゴリーに属するかは変動します。カテゴリーAはいわゆるレギュラークラスになるのですが、B、Cに属する人たちのスコアが低い傾向にあることがわかりました。

―そこは、結果がはっきり出るスポーツの厳しい部分ですね。

部員一人ひとりが試合に出て勝利することを目指して練習に取り組んでいるので、カテゴリーが下だとエンゲージメントがある程度低くなるのは仕方がないとは思います。でも、例えば下のカテゴリーだからチームに対して意見が言えないとか、気を使わなきゃいけない、というのは違うと思うんです。

下のカテゴリーの人たちもどんどん意見を言えるようにして、高いエンゲージメントで練習に取り組むことで、チーム全体のパフォーマンスも底上げされるはず。そういう気付きから、「カテゴリー関係なく本音を言えるような雰囲気にしていこう」と、4年生で話し合ったんです。そこから「カテゴリーが下だからと言って気にしないで、意見を出していいよ」と声かけをするなど、言動面を意識して変えていきました。

―すばらしいですね。スコアをもとに、どこに課題があるかを見つけて、すぐに行動に移す。

4年生の中でも役割があって、僕は寮長とwevox運用がメインでしたし、さっき話したチームづくりについては主務や主将がちゃんと意見をまとめてくれました。何がなんでも、僕1人でスコアを見て考えたわけではありません。スコアレポートは僕が作りましたが、そこから先どうするかはやっぱり主将とか主務を担う人間がまとめたほうが上手くいきます。ミッションに「究極の当事者意識」という言葉がある通り、チームづくりにおいても自然と役割分担ができていましたね。

―エンゲージメントはチームのパフォーマンスに影響を及ぼすと思いますか?

間違いなく影響あると思います。実際に、スコアが上がるとチームの調子も良くなるんですよ。テクニックやフィジカルだけでは、いいパフォーマンスにならないと実感しています。

もっと言うと、エンゲージメントが高いということは「なぜサッカーをしているのか?」が明確になっている状態だと思うんです。自分たちの場合は、チームのために、そして応援してくれているサポーターや地域の人たちのために、「当事者意識を持って、明日への活力となるプレイ」をすることがサッカーをする理由です。

この考えをチーム全体で持てているから、泥臭いプレイもいとわないですし、あと一歩を踏み出す力も生まれる。これが、エンゲージメントが高いチームの姿なのだと思います。このあたりは、副将が練習や試合前のミーティングで毎度のごとく激を入れてくれたおかげもあります。ものすごく熱くて、名物的な副将なのですが、彼のおかげで「なぜ自分たちがサッカーをするのか」を、常に胸に刻みながら活動ができたと思います。

ビジョンを達成する場は試合だけではない

ーそこも、役割分担ができているんですね。本当にすばらしいチームだということが、話を通じて伝わってきます。

これで、結果も伴えばもっといいのですが…残念ながら2020年は大事な試合で勝てないことが続き、苦い思いをしました。リーグ戦である『JR東日本カップ2020 第94回関東大学サッカーリーグ戦 1部』では優勝がかかった試合で、『「アミノバイタル®」カップ2020 第9回関東大学サッカートーナメント大会』では決勝戦で、どちらも敗れてしまったんです。コロナ禍でいろいろ大変な思いはしましたが、やっぱりあの2つの敗戦は、2020年でも最も苦しかった瞬間でしたね。

でも、この1年間を振り返ってやりきったという思いはあります。正解もないなかで、試行錯誤しながら戦い続けることができました。

―ビジョン・ミッションについてはどのくらい実現できたと感じていますか?

そこについては、自信を持って実現できたと言えますね。あのビジョン・ミッションはコロナ禍が起きる前に掲げたものなんです。でも、コロナ禍だからこそ、真価を発揮したビジョン・ミッションだったと思います。

例えばミッションで掲げた、「当事者意識を持って、明日への活力になる」ということについては、地域のお店の応援をするとともに、手洗いを推奨する動画「Wash Your Hands」を制作してTwitterなどで発信しました。

―サッカーチームが動画を作ったんですか?

実は、我々のチームには動画を作りたい人とか、サッカー以外で活躍したいという人もたくさんいるんです。そこも独特なカルチャーかもしれませんね。「サッカーの活動が例年通りいかないのであれば、サッカー以外で『明日への活力』となる方法はないか」と議論するなかで、いつも私たちを応援してくれている地域の人たちを、今度は自分たちが応援する動画を作ろうというアイデアが出てきたんです。

それで手洗いを推奨する歌とともに、地域のお店を紹介する動画を社会貢献チームが作成してくれました。

あとは、他大学とのサッカーゲームの「ウイニングイレブン」を用いたeスポーツ大会を主催するメンバーもいました。自主企画だったのですが、最終的にゲームの制作元と協力し、とても盛り上がるイベントになりました。

監督ももの凄く柔軟な人で、私たちのアイデアを「いいよ」と受け入れてくれたので、すごく動きやすかったですね。

―動画にeスポーツ大会ですか…すごい。ビジョン・ミッションをチーム全員が実現しようと精力的に活動したんですね。

最終的にビジョンで掲げた「日本をリードする存在」には、近づけたのかなと思います。サッカーで結果を出すことが、もちろん一番大事ではありますが、ビジョン・ミッションを実現していく方法はそれだけではありません。競技の結果だけにとらわれると視野が狭くなるし、何のためにサッカーをしているのか、を見失ってしまいがちです。そうなると、きっとエンゲージメントが低いチームになってしまうでしょう。

広い視野で、何のために自分たちはここにいるのか。それを理解し、実践するためにビジョン・ミッションは必要ですし、チーム状態を把握してコミュニケーションを調整していくうえで、エンゲージメントスコアは重要だと学びました。

―まさに、駆け抜けたような1年でしたね。

置かれた環境のなかで最善を尽くす。当事者として、主体的に取り組む。そんな自分たちのチームの強みを、より実感できた1年でした。これだけ困難な状況でも、そういう強みを維持できるんだ、というのはこれからのチームにとっても自信になるはずです。

来年もwevoxを使ったエンゲージメントサーベイは続ける予定で、今引き継ぎをしている真っ最中です。後輩たちが、エンゲージメントを高める活動により注力できるように、しっかりと今回の経験を伝えていきたいと思います。

―他の大学スポーツチームはもちろん、企業にとっても参考になる話だったと思います。貴重なお話をありがとうございました!

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