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株式会社トライアンフ 代表取締役 樋口弘和氏

日本ヒューレット・パッカードにて、20年近く採用・教育・給与システムなどの人事部門に勤務し、コンピュータ事業部の人事部門を統括。米国本社でキャリア採用やダイバーシティ、ワークライフバランスといった最先端の人事を学ぶ機会に恵まれる。1998年に株式会社トライアンフを設立。自ら中小企業の経営者として、採用、定着、育成に関して 実践を重ねる。

組織、人事、採用領域のソリューションを提供する株式会社トライアンフは、経営陣が主導し2018年度より「wevox」を用いたエンゲージメントスコアの計測をスタート。代表取締役であり、人事関連の多数の著書もある人事施策のスペシャリスト樋口弘和さんは「エンゲージメントは今の経営者にとって最も必要な指標」と語ります。経営者がエンゲージメントと向き合う意味や現代の組織マネジメントに求められていることなど、樋口さんに最新の組織論を伺いました。

既存指標への懐疑心

トライアンフでは、2018年よりwevoxを用いたエンゲージメントスコアの計測をスタートさせています。樋口さんが、エンゲージメントという概念に興味を持ったのはなぜでしょうか?

トライアンフでは必ず自社でトライアルをして納得のいったソリューションだけをお客様に提供しています。

その過程で、数多くのソリューションを試しましたが、個人的にはこれまで組織マネジメントにおいて重要な指標とされてきた「モチベーション」や「従業員満足度」に懐疑心を持つようになってきていました。

そんな折、エンゲージメントという言葉を知人から聞きました。最初は「また新しい流行り言葉が出てきたか」程度に思っていたのですが、調べていくうちにその概念がすごく腑に落ちたんです。

モチベーションや従業員満足度という言葉に対して抱いていた懐疑心とはどのようなものでしょうか?

モチベーションを抱けるかどうかは、結局先天的なものが大きくて、人によって違いがあります。ハイモチベーターって極少数なんですよ。それ以外の人たちは頑張ればモチベーションを上げられるかもしれないけど、それを無理に長続きさせるのもどうなんだろう? と思っていたんですね。

従業員満足度はどうしても社員に寄りすぎてしまって、ある種「ごきげん調査」みたいになる傾向にある。どちらも経営者の言葉ではないな、と感じていました。

一方でエンゲージメントは経営者こそが使う言葉だ、と感じたんですね。この概念をもとに経営をしたら面白そうだし、双方にとってメリットがあるんじゃないか、という期待がありました。

実際にwevoxでエンゲージメントスコアを計測していかがですか?

数値化されるのは、やはり面白いですね。それに指標が「承認」「成長支援」など行動に結びついていて、点数の意味が明確なので納得感もある。

計測をして、断トツでスコアが高かったチームが2つあったので、マネージャーを役員会に呼んで秘訣を聞いたこともありました。古株の役員たちが一生懸命メモを取っていましたね。事前に私からも言っていたんです。「彼らから学ぶのは何も恥ずかしいことじゃないから」と。

その2人はどういった秘訣があってスコアが高かったのでしょうか?

話を聞くと「特別なことはしていない言うんですよね。色々聞いても、確かに何か特徴的な取り組みをしているわけではないんです。それに2人ともすごく元気があって、明るくみんなを引っ張るというキャラクターでもない。月1面談をやっているというけど、それはみんなもやっている。

ますます高スコアの理由が気になります。

その役員会が終わった後、出席者みんなで話したのですが「クライアントよりも部下との時間を優先しているから」という結論になりました。それが、言葉の節々から伝わったんです。彼らは、クライアントとの打ち合わせよりも部下と話す時間を優先している。

だからと言って、ベタベタ部下にくっつくわけではないし、常にニコニコしているとか、そういうわけでもないんです。絶妙な距離感で、誠実にチームメンバーと接している。それから、あまり感情的にならない。いわゆるクールなリーダーシップのスタイルです。

部下の時間を優先することで、生産性や仕事のクオリティは落ちないのでしょうか?

スコアが高い2チームのうちの1チームは、給与計算のソリューションを提供しているのですが、この2年間お客様満足度が最高位から落ちてないんですね。こんなこと、20年で初めてです。20人ぐらいで30社ほどの会社の給与計算をしているので、ハードなはずなのですが、エンゲージメントも高いしパフォーマンスも高い。

まさに、理想的な状態です。

彼らみたいなクールなリーダーシップの取り方もあるんだ、というのは私も含め役員たちからすれば大きな発見でしたね。私たちの時代はリーダーと言えば熱血漢という印象が強かったですから。

45歳以上の人は高度成長期の中で育ってきたので、圧倒的に会社が強い時代に現役を経験しています。会社の常識に染まることに疑いを持たなかった。長く同じ会社で働いて、出世すれば給料も上がっていくという認識がすごく強い。

そういう世代からすれば、部下や若い人に合わせるのは抵抗感が強いはずなんですよね。現に、我々は上司から面談をしてもらったことはないですからね。

 

エンゲージメントという言葉は、経営者こそが使う言葉

今は、会社と個が対等、あるいは個の方が強くなっているとも言われています。

このような変化を感じることは、クライアントと接していても多いですね。実際、採用から定着を会社中心にやろうとしているところは、若い人がどんどん辞めています。会社と個の力学を理解できていないと、この現象は続くのではないでしょうか。

そうした変化にまだ気づかず、会社本意で考えている経営者の方が多いように感じます。

先ほど樋口さんは「エンゲージメントという言葉は経営者こそが使う言葉だ」と言いました。その真意を詳しく教えてください。

会社が強かった時代にはエンゲージメントという言葉は経営者には必要なかったのだと思います。それよりも、従順性や継続性が重要だった。それが、先が見えない時代になり、人口も減少してきている中で会社が弱まり、相対的に個が強くなってきた。

こうした背景を踏まえると、この先会社は「その会社にいる人に合わせて事業を変えていく」ことが必要になってくると思います。例えば弊社の場合、生真面目でコツコツやる人が多くなれば、アウトソーシングやBPO事業を伸ばしていくでしょう。

そうではなく、尖っていて成長意欲が高い人が多くなればハイエンドのコンサルティングを伸ばしていくことになる。

これまでのマーケティングの考え方とも違ってくるのでしょうか?

クライアント、ユーザーのニーズに合わせるマーケティング的な観点はもちろん必要です。ですが、私はそれ以前に「人がいなきゃできないじゃん」と思うです。個が強くなっていくなかで、人を基準に事業を考える重要性は増していくでしょう。

そして、経営者が人に合わせた事業を考えていくときに、エンゲージメントという概念が非常に重要になってくる。wevoxのように数値化できるソリューションを駆使しながら、社員が最も活躍できて、楽しく働ける、かつ生産性も高く収益を見込める事業を考えていく。そうしたことをこれからの経営者は考えていく必要があるのではないでしょうか。

樋口さんご自身が経営者として、そのような考えを持ったきっかけはなんだったのでしょうか?

以前は私もよくある中小企業のオーナー社長そのもので「なんでも俺に言ってこい。全部解決してやる」というタイプでした。公私かかわらずトラブルシューティングにいくのが大好きだったんです。

ですが、5年前に大きな転機が訪れます。ちょうどその頃、社員数が100人を超えるかどうかという時期で、そのあたりから逆風が吹き始めたんです。社員のために良かれと思ってやっていることが裏目に出るし、クライアントからも誤解を受ける始末。辛辣なメールを社員から受け取ることもありました。

会社の規模が大きくなるにつれて「なんでも言ってこい」というスタイルが通用しなくなってきたのでしょうか。

そうです。1人でやる限界が来ていたのでしょう。それで、自分でなんでもやるのはキッパリやめようと思い、若い人たちを役員やマネージャーに抜擢して極力口を出さないようにしたんです。そうしたら、会社の雰囲気も良くなってきたんですよね。

逆風が吹いていたときは「悪いことはしてないのに、なんでこんな目にあうんだ」とも思いましたが、最終的には自分のせいだと考えたのが良かったのかもしれません。その出来事があって、経営者としての考え方も大きく変わりました。ゴルフもお酒もタバコも全部やめたんですよ。

それは、大きな変化です。

はい。さらに、2年前には社員総会の場で「これからの私の役割はみんなのハピネスを最大化することです」と宣言しました。「HR make people happy」という標語を作って、これが俺の仕事だから頑張るよ言ったんです。そうした流れの中で、エンゲージメントという言葉に出会い、「まさしく、自分のやろうとしていることはこれだ」と腑に落ちたわけです。

 

樋口さんのように、苦境に立たされる中で、考えを変えていく経営者もいる一方で、なかなか変われない経営者もいます。

確かに私自身は変われたのですが、他の企業に対しても「経営者が変わるべき」と急ぎすぎるのはどうかと思います。やっぱりリスクは大きいんですよ、経営は。私の周りにも変わらなければいけないと感じながらもどうしていいかわからない経営者はたくさんいます。私もそうですが、経営者はリスクを知っているからこそ臆病になるものなんです。

変わらなきゃ、と思っている経営者に対してはどのような話をしているのでしょうか?

変わりたい、と思っている人は、私の経験談やエンゲージメントの概念などを紹介しながらアドバイスをして背中を押すようにしています。

一方で変わりたくない、あるいは変われないんじゃないか、と思っている人には「変わらなくていいから、若い人を人事役員にして、自分は組織づくりからは距離を置きなさい」とアドバイスしています。

それから、抜擢する人は人事の専門家でなくてもいいから、上から目線にならずに、若い人とも共感しながら話せる人が向いているということも言いますね。

なるほど。変わるのも痛みを伴います。であれば、組織づくりを若い人にまかせちゃうということですね。

そうです。そして、若い人にまかせた上で社長としては社員を幸せにすることを考える。幸せと言っても曖昧ですが、私はエンゲージメントを高めることが社員の幸せに繋がると思ってこれからは経営をしていこうと思っています。だから、繰り返しになりますが「エンゲージメントという言葉は、今の経営者に必要な言葉」なんです。

今、トライアンフの役員には30代の社員もいます。私がいなくなっても彼らがトライアンフを継いでもっといい会社にしていってほしい。今はその下地作りを進めているところです。「若い人たちが新しいビジョンを考えて、自ら動き出せるような会社に私が引退するまでにするぞ」。そんな気概を持って、これからも努力していきます。

ABOUT COMPANY企業情報

株式会社トライアンフ

主な事業:
1. 人事コンサルティング(人事制度設計、評価制度設計、組織診断など)
2.人事アウトソーシング(給与計算アウトソーシング、年末調整アウトソーシングなど)
3. 採用コンサルティング(人材像設計、選考プロセス設計、面接官トレーニングなど)
4. 採用アウトソーシング(新卒採用、中途採用、アルバイト採用)
5. 適性検査(適性検査ツールの導入、販売及び活用サポート)
6. 社員研修(新入社員研修、若手社員研修、管理職研修など)
設立年月日:1998年6月1日
従業員数:149人

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