INTERVIEWEE

株式会社トライバルメディアハウス 人事部長 前川浩樹氏

1971年大阪出身。大学卒業後に大手通信会社へ入社し、法人営業と広告宣伝部門を経験。2006年にマーケティングPR専門のブルーカレント・ジャパン立ち上げに参画し「戦略PR」というコンセプト確立に従事。2013年よりトライバルメディアハウスにてマーケティングデザイン事業部長を務め、全社の人材育成と社内エンゲージメント向上に注力するべく2018年4月より人事部長を務める。

人事の現場 #︎3

“マーケティングでワクワクした未来をつくる”をミッションに掲げ、ブランディングやPR、メディア運営など幅広いデジタルマーケティング事業を手掛けるトライバルメディアハウス(以下、トライバル)。現在、約100名のスタッフが所属しています。

2016年に、フラットな自律型組織を目指す一環で、サービスごとに分かれていたチームを統合し、プロジェクトごとにチームを組む組織体制に変更したのですが、「若手のキャリア形成の面で課題が生まれた」と人事部長の前川浩樹さんは言います。

同時に、「リーダーを育成する機会の損失にも繋がっている」ことに気づいた前川さんは、2018年度より各スタッフのマネジメントを目的としたチーム体制を敷きました。トライバルの組織づくりから、自律型組織を作る過程で発生しやすい課題や自律型組織に求められるマネジメントをひも解きます。

自律型組織へと舵を切った最初の2年間

トライバルの人事部長を務めている前川です。今日は、我々が自律型組織を目指す中で直面した課題や対策についてお話しします。

2016年まで、営業や開発行う部署のほかに、各ソリューションを提供する複数の部署があったのですが、2016年に大きな組織改革を行いました。
共創マーケティング事業部やマーケティングデザイン事業部、グローバル&データマーケティング事業部などのソリューションを提供する部署をひとまとめにし、プロジェクトごとにチームを組む体制にしたのです。

組織改革を実施した理由は2つあります。1つ目は「自分たちのやりたいことを、自分たちでやれるようになる」自律型の組織としてさらなる成長を遂げたかったこと。もう1つは事業コンセプトとして2016年に掲げた「熱狂ブランドマーケティング」を実現に携わるスタッフが手を組んで、プロジェクトに取り組む必要があったためです。

体制を変えたことにより、自ら手をあげてプロジェクトに参加するなど、主体的に仕事に関わる社員が増加。
また、ソリューションごとに細かくチームが分かれていた頃よりも、社内で関わる人数が増え、社内コミュニケーションが活性化されるといった効果も出てきました。

しかし、担当するプロジェクトに集中するあまり、新規の「熱狂ブランドマーケティング」事業やこれまで提供していた「ソーシャルメディアマーケティング」が推進されづらい、というデメリットが見えてきました。新しいサービスや今後の事業展開を考える機会が減ってしまったのです。

そこで、2017年に「熱狂ブランドマーケティング」や「ソーシャルメディアマーケティング」、新たにスタートしたメディア「Funmee!!」などの事業を推進するMBU(ミッションビジネスユニット)を組み、プロジェクトとは別に職種を横断して社員を配置する人事施策を行いました。

この施策により一定の効果はあったのですが、新たな課題に突き当たることになります。それぞれの部署には部長がいて、MBUにもリーダーがいる「ツーボス」状態となってしまったことでマネジメントが分散し、戸惑うスタッフが増えてしまったんです。特に、これからキャリアを築いていく若手スタッフへの影響は大きいと感じました。

自律型組織の中で生まれた課題

少し複雑な組織体制について話しましたが、要するに自律型の組織を進める過程において、「若手スタッフのキャリア育成や支援」をする体制がぽっかりと抜けてしまっていたのです。

もちろんプロジェクトで先輩から教わることや各部署の部長に相談をすることもありました。
ただ、私が部長を務めていたマーケティングデザイン事業部を例にあげると、部署には50人ものスタッフが在籍していたため、全員の相談に乗ることに限界があったのです。

もっと親身に相談に乗りたいけど、なかなか時間が取れずに歯がゆい思いをたくさんしました。
事前に察知することができず、問題が発生したところに“蓋”をすることに精一杯になっている状態に危機感を抱きました。

また、「若手スタッフのキャリア育成や支援」が機能していないということは、「リーダー人材の育成」にも影響が出てきます。
プロジェクトごとに「仕事」を仕切れるプロジェクトマネージャーに育てることはできても、後輩のキャリアをフォローしたり、相談に乗ったりといったマネジメントができるリーダーが育ちにくい環境になっていたのです。

3年目の“試行錯誤”「マイクロマネジメントリーダー」

そこで、2018年4月に各スタッフのマネジメントやキャリア育成・支援を目的とした組織に再度変更しました。
なかでも、50名ものスタッフを抱えるマーケティングデザイン事業部は細かくチーム分けを行い、それぞれのチームリーダーが若手スタッフをマネジメントすることにしました。

各チームのリーダーは「マイクロマネジメントリーダー」と名付け、中堅社員を中心に任命。
一方で、マネジメント経験がほとんどないスタッフが多かったため、マネジメントスキルを磨くために、私と外部のコーチで1年間の「リーダー育成プログラム」を用意しました。そのプログラムについても、少しお話ししましょう。

まずは、リーダーとして最低限の心構えを教えるリーダー研修を四半期に一度行います。
講義では「トライバルメディアハウスのリーダーはこうでなければならない」という話というより、コミュニケーションデザインやコーチングスキルを中心に学びます。リーダーシップの取り方は人それぞれですから、1つのリーダー像を押しつける、ということは極力避けたかったのです。

同時に、継続的なプログラムとして、2人1組のチームを組み、月に一度お互いのマネジメントの仕方についてコーチングし合う「ピアコーチング」を行っています。「wevox」で計測したエンゲージメントスコアを参考資料とし、メンバーに対して適切なマネジメントができているか、またそれぞれが抱える課題を話し合いながら、自分なりのリーダーシップ像を描いてもらうのです。

それから、リーダーがいつでも悩みを相談できるように、社内のオンラインコミュニケーションツールを使った「リーダーコミュニティ」を用意しています。リーダーが書き込んだ投稿に対して私や外部コーチがアドバイスし、リーダーを常にサポートしているのです。
そこでは、伸び悩んでいる部下への接し方、やる気がなさそうに見える部下への声のかけ方など、具体的なアドバイスを行っています。

私は「リーダーは実践の中でしか育たない」と考えているので、なるべく実践に寄り添う形でサポートをしながら、リーダーを育成していく年間プログラムにしています。

リーダーの時間はみんなの時間

マイクロマネジメントリーダーになった人たちは、戸惑いながらもリーダーとして懸命にチームを引っ張ってくれています。

私はよく「リーダーの時間は、みんなの時間」という話をします。リーダーも自分の仕事がありますが、メンバーから相談をされたら何よりも優先して対応をして欲しいと伝えているのです。

また、リーダーによっては「メンバーの悩みを解決できているか不安」という声があがりますが、「自分の中でぶれない判断軸を持つこと」をアドバイスしています。確固たる判断軸を持っていればメンバーの信頼も高まると考えています。

このプログラムはスタートしてから半年程度なので、成果が現れるのはまだ先でしょう。人事が中長期的にリーダーに“寄り添う”ことで、きっと大きな効果を生み出すと信じています。

目指すは「全員が代表取締役社員」な組織

正直なところ、2016年に組織体制を変更して以降、組織づくりの難しさを痛感しています。「チーム分けをなくしたのに、またチームを作ったのか」と思った方もいらっしゃるでしょう。実際、少し自律型組織にすることを急ぎすぎた感はあるかもしれません。

でも、決して後退しているとは思っていません。2016年に思い切って体制を変えたことで、若手のキャリア育成や支援、リーダー育成の重要性に改めて気付き、2018年から具体的なプランを実行できています。また、我々のこうしたチャレンジが、これからフラットな自律型組織に取り組もうとする企業にとって、少しでも参考になればいいなと思います。

目指す理想の組織像は、スタッフがトライバルの11訓の1つである「全員がトライバルメディアハウス代表取締役社員!」と胸を張って言える組織。まだまだ時間はかかるかもしれませんが、スタッフ全員が自律しながら、高いエンゲージメントを持って働ける会社となるように、これからも頑張っていきます。