INTERVIEWEE

株式会社テレコムスクエア コンタクトセンター部門統括マネージャー
松尾一大氏

大学卒業後、カナダ NWT準州イエローナイフにてオーロラ、Alberta州バンフにてカナディアンロッキーのツアーガイドとして5年間就業し、帰国。2007年からTNT Express にてCS Leaderとして拠点立上げなどを経験後、Marketing AnalystとしてDBを活用した分析や需要予測、改善活動業務などに従事。2014年からDeAgostini JapanにてContact Center Controllerとしてセンターマネジメントに携わり、新規事業の立上げ、収益化をおこなう。2016年後半から現職として部門運営を担当。現在、多摩大学大学院にて経営学修士(MBA)取得中。

「私が入った時は、同じ部なのに忘年会を別々でやっていました。このバラバラなチームをどうまとめるか、必死になった2年間でした」

そう振り返るのは株式会社テレコムスクエア、コンタクトセンター部門統括マネージャーの松尾一大さん。松尾さんは201611月にテレコムスクエアに入社し、コンタクトセンター部門のマネージャーに着任すると、ビジョン運営を掲げ大幅な組織改善を実施しました。その結果、成長したチームは201810月にコンタクトセンター・アワード2018の「審査員特別賞」「リーダー・オブ・ザ・イヤー賞」をW受賞するという成果を残しました。

飛躍的な成長を可能にしたビジョン運営、松尾さんのリーダーとしての奮闘、メンバーの努力などコンタクトセンター部門の2年間に迫ります。

コミュニケーション不足が当たり前になっていた

今日はテレコムスクエアのコンタクトセンター部門が、アワードを受賞するチームにまで成長した過程をお聞きしたいと思います。まずは、業務内容を教えて下さい

コンタクトセンター部門ではテレコムスクエアが提供する渡航者向けのポケットWi-Fi端末や携帯端末レンタルサービス、法人向けの海外モバイルソリューションなどのお客様のサポートを行っています。

部門の中でも2つのグループが存在し、1つが購入前の方を対象としたSOG(セールスオペレーショングループ)、もう1つがテクニカルサポートを担当するMSG(マルチリンガルサポートグループ)です。MSGは海外の協力会社やInbound顧客とのやり取りが発生するため、マルチリンガルのスタッフが多く在籍しています。2つのグループを合わせて全体で約50名程度の部門です。

マルチリンガルスタッフの中ではどのような言語を使う方が多いのでしょうか?

多いのは日中韓を話せる方ですね。あとは中国人で英語と日本語が喋れる人。多い人だと8カ国語をしゃべる人もいます。取り扱う端末は中国や韓国製のものが多いので、端末に関する問い合わせが発生した場合は、マルチリンガルのスタッフが海外の協力会社に連絡を入れて対応をしています。

なるほど。そんなユニークな部署のマネージャーに松尾さんは201611月に着任します。コンタクトセンター部門に対する最初の印象はいかがでしたか?

長年我流で運営を行っていたようで、色々と整理が必要だと感じました。まず、何よりもチーム内でのコミュニケーションが圧倒的に不足していました。特にSOGMSG間は必要最低限の業務連絡をメールでするだけ、という状況だったんです。一番驚いたのが、忘年会をSOGMSGとで、別々で行っていたことです。

そうした雰囲気が影響してか離職率も高い傾向にあり、まずは部門内のコミュニケーション不足を解決していく必要がありました。

課題を解決するために、何から着手したのでしょうか?

まずSOGMSGのマネージャー同士のコミュニケーションを増やすことから始めました。私を含めた3人で打ち合わせを重ね、飲みに行ったり、ボクシングを一緒にはじめたり(笑)とにかくコミュニケーションをたくさんとるようにしました。

そんな中で、2人から「1年前に策定したが、機能していないビジョンがある。それを改めて掲げて部門を1つにできないか」という案が出てきたのです。

どのようなビジョンなのですか?

「真実のコミュニケーションを実現し、顧客、企業、従業員に対して満足を提供し続けます」というビジョンです。ビジョン自体はすごくいいと思ったのですが、個々人が理解して、実践しようという段階までは進んでいなかった。真実のコミュニケーションとは何なのか、それによってどのように顧客、企業、従業員に対して満足を提供するのか。

そういったことを整理し、SOGMSGが団結できる組織づくりの方針をたて、ビジョン運営と名付けました。

マネージャーの育成に着手

メンバーにはどのようにビジョン運営について説明したのでしょうか?

私が入社して2カ月後の20171月、全社の社員が集まるキックオフMTGの場でいきなり発表しました。ビジョンだけでなく、それにひもづく顧客、企業、従業員へのアプローチ戦略など具体的な指針についても話しています。あえて、全社の前で発表することで、やらざるを得ない状況を作りたかったのです。

メンバーは驚いたのではないでしょうか。

そうだと思います。何が起きるんだろう? と思っていたでしょうね(笑)。発表は熱意が伝わるように、身振り手振りを大きくして、全員の顔を見渡しながら話すのを意識しました。「何だかわからないけど、本気なんだな」というのは伝わったと思います。

発表後はどのようなアクションを起こしたのでしょうか?

発表はややセンセーショナルなスタイルで行いましたが、その後のアクションは段階を踏んで丁寧に行っています。まず着手したのは、マネージャー2人のマネジメント意識を高めることです。

正直なところ、私が入社した当初は2人のマネジメントに対する意識が低かった。業務遂行能力はとても高いんです。でも、他のメンバーをマネジメントするという考え自体があまりなかった。だから、まずはマネジメントの重要性を何度も伝えることから始めました。

どのようなことを伝えたのでしょう。

主には

・マネージャーは人を育てるポジション、人を育てて組織として強くしていく役割

・各自に対して期待値を伝え、一つひとつのプロジェクトにおいて自主性を引き出す

・業務スキルの高さとマネジメントスキルは別物

・マネージャーの時間はみんなの時間。公人のような存在

といったことを伝えました。

マネージャーたちの反応はどうでしたか。

最初は抵抗感を抱いていました。「どうして自分の方がスキルもあって、うまく対応できるのに、他のメンバーに仕事を振らなきゃいけないんだ」という意識が強かったんです。だから話し合いの場で何度もぶつかりました。

けど、そこは地道に伝えて行く他に術はありません。「受け入れられないのであれば、マネージャーを降りてほしい」と率直に伝えたこともあります。

それから、アシスタントマネージャーという役割も新設しました。これは、各マネージャーがマネジメント業務に専念できるように、実務サポートを行うポジションです。SOGMSG1人ずつ、着任してもらいました。

まずは、コアとなるメンバーのマネジメントに対する意識を高めていったということですね。

そうです。さらに、アシスタントマネージャーには将来のマネージャー候補として、マネジメントスキルを高めるワークショップなども行っています。例えば、私とアシスタントマネージャーで同じ本を読んで、その内容を説明してもらう、というもの。

これは、情報を処理して説明する能力の向上を狙っています。コンタクトセンターの仕事にも当然活かせますし、マネジネントにおいてうまく説明するスキルは必須です。

本の内容を曖昧な解釈のまま説明しようとするとすぐわかるんですよね。そこを突っ込むと一気にロジックが崩れていく。「じゃあもう一度読み込んで、来週もう一度説明ね」と宿題にする。そうしたやり取りを繰り返す中で説明能力を鍛えていくのです。

なるほど。かなり実践的な成長支援です。

はい。そうやって、コアメンバーのマネジメントに対する意識、スキルを高めていきながら、ビジョンについての議論も何度も行いました。各自が思う真実のコミュニケーションとは何か、それを実現するために必要なこととは何か。打ち合わせであったり、飲みの場であったり、あらゆる場で話しましたね。

そうした壁打ちを繰り返すことによって、マネージャー、アシスタントマネージャーの中でビジョンの輪郭が明確になり、達成するために必要なことが見えてくる。

それから、マネージャー教育以外にも、フィリピンのニアショア拠点を沖縄に全て移管したり、CRMFAQを導入したりとインフラストラクチャーの部分にもかなり手を入れました。これもビジョンを達成するために必要な変革です。メンバーの業務にも大きく影響を与えるものですが、ビジョン運営と最初に掲げていたので、みんな納得感を持って受け入れてくれました。

このように1年目はマネージャーの育成とインフラストラクチャーの改善に力を尽くしました。

劇的に改善された人間関係。そして、アワード受賞

-2年目からはどのようなアクションをされたのでしょうか?

期初に年間戦略を私と各マネージャー、アシスタントマネージャーの5人で考えました。みんな、自分なりの意見をたくさん出してくれて、とても中身の濃い議論になりました。

松尾さんが入りたての頃であれば、そうしたミーティングは成り立たなかったかもしれません。それを思うと1年での大きな変化を感じられます。

そうですね。いいチームになってきているな、と感じました。年間戦略を考えていく中で、クライアント対応のクオリティを高めるためCRMの整備を進めよう、お客様からの声を全社に共有して組織としてのプロセス改善に貢献しよう、メンバーの状態を把握するための「wevox」を導入してエンゲージメントスコアの計測を始めよう、などいろいろな施策を考えました。

それから、マネージャーとアシスタントマネージャーが各メンバーとの1on1weeklyの頻度で始めたことも大きな変化です。1年目でマネジメントに対する考え方と行動に変化が生じ、ビジョンに対しての考えも固まり、今度はそれをメンバーに伝えていける段階にまできている証拠です。

-2年目にして、全く違う組織のようですね。SOGMSGの関係性も大きく改善されたのでしょうか?

劇的に改善しました。会話も増えましたし、昨年の忘年会は、一緒にやりましたから(笑)。顧客対応においてつまずいたときには、それまでは責任のなすり付け合いになりがちだったのが、協力しあって解決にあたるようにもなり、対応スピード、精度が向上したと感じています。また、年間戦略における施策の推進をSOGとMSGで連携して行うといった、協同関係が構築されました。

-10月には、コンタクトセンター・アワード2018で「審査員特別賞」と「リーダー・オブ・ザ・イヤー賞」を受賞しました。

「審査員特別賞」については、この2年間で、人材育成やCRM導入など大小様々な施策を行ったことを評価いただいたようです。コンタクトセンターの部門がここまで大きく変革を行うことは滅多にないことなので、珍しかったのかもしれません。

「リーダー・オブ・ザ・イヤー」ではどのような点が評価されたのでしょうか。

これは、MSGに所属する徐鳳花さんが受賞したものです。彼女の功績は、中国の協力会社と折衝をして端末の状態を即座に確認できるダッシュボードを使用できるようにしたこと。これまでは協力会社しかダッシュボードを確認できず、端末に不具合が発生したときの対応が遅くなる傾向にあったんです。ダッシュボードが使えるようになったことで、解決率、スピートが飛躍的に上がりました。

この結果もビジョン運営が影響しているのでしょうか?

そうですね、彼女はこの2年間で大きく開花した1人と言っていいと思います。というのも、そもそも彼女は私が入社してきた時に辞めようとしていたんです。でも、業務遂行能力、言語能力はすごく高かったので、どうしても残ってほしかった。

だから「これからこのチームを変えるから、もう少しだけ残ってほしい」と必死で慰留した背景があったんです。

まさか、そこから受賞に至るような活躍をするなんて、本人も夢にも思わなかったでしょうね。

ビジョン運営を掲げて、チーム内のコミュニケーションを活性化していなかったら、この成果は残せなかったかもしれません。

というのも、ダッシュボードを使えないか、コールセンター部門としてはかねて課題として認識はしていたのです。しかし、商品を仕入れている部門とうまくコミュニケーションができておらず、解決への具体的なプランは考えられずにいた。

それを徐さんがマネージャーと話す中で、仕入れ部門に働きかけができないか、さらには協力会社に直接交渉に行けないか、と段階的に解決への糸口をつかんでいったんです。

彼女がこうした動きをしようと思えたのは、コミュニケーションが円滑になり心理的安全性が生まれ、自発的な動きが生まれやすくなっていたからだと思います。MSGのマネージャーも徐さんを懸命にサポートし、一緒に中国まで行き交渉に臨んでくれました。

人は怒っている時ほど本音を言う

コミュニケーション不足を課題にしている企業は数多く存在しますが、組織改善を成功させるにはどうすればいいのでしょうか?

対立しあっているチームがある場合、正対して向き合わせるのが何よりも重要なアクションです。まずは、思い切ってぶつかってみる。当たり前のように聞こえるかもしれませんが、それができていないからコミュニケーション不足に陥ってしまうんです。

ただ、当事者同士だけでぶつかり合っても解決しないことが多いので、中立的なファシリテーションが同席するといいと思います。この2年間でも、私がファシリテーションを担う場面は多々ありました。

ファシリテーションをするのもかなり難易度が高いと思うのですが

そうですね。険悪なムードが流れやすいですし、最悪、お互い怒鳴りあう場面に立ち会ったりするかもしれません。でも、人は「怒っている時ほど本音を言う」ものです。実際、私もマネージャーの2人と何度もぶつかりました。でも、そういう時こそ人の本音が見えてくる。そこをうまくひっくり返すと一気にプラスになることもあるんです。

一番いけないのは「あいつ何もわかってない」と斜に構えて、他責にしちゃうこと。これは自分の哲学でもあるのですが、うまくいっている人は最終的には自分の責任で物事を考えています。

「怒りをプラス」にというのはなかなか考え付かないです。

コンタクトセンターはまさにそういう場なんです。お客様の「怒り=本音」が一番集まる場所。クレームにうまく対応し、最終的にはプラスに思ってもらうのが、コンタクトセンターの理想的なあり方です。そうした場で長年経験を積んできたことが、今活かされていると感じています。

コンタクトセンターの仕事というと、キャリア形成しづらく、他に活かせるスキルが身につかないというイメージが強いと思います。でも、私はそうは思っていません。

だからコンタクトセンターという仕事を通して、キャリアを築けるスキルを身につけられるように20189月から「PEG(Performance Enhancement Group)」という人材開発専門のグループも立ち上げたんです。

何をするのでしょうか?

先ほど話したように、コンタクトセンター業務で磨かれるコミュニケーション技術はファシリテーションや交渉、マネジメント、コーチングといったものに転用できると私は考えています。

そうやって、普段の業務が将来何かの役に立つとイメージができれば、やりがいも大きくなるし、より自発的に働いてくれるでしょう。結果的には、他の部署に行って活躍したり、あるいは自分で手に職をつけて自立したりという選択肢を取ってもいいとも思っています。それぐらい能力のある人が集まる組織だったら強いに決まっている。

松尾さんとコンタクトセンター部門の新しいチャレンジが始まっているんですね。

はい、ビジョン運営を掲げて、団結力が高まり、受賞するにまで成長しました。これからは、従来のコンタクトセンターのイメージをいい意味で覆す、夢のある部門になるように頑張っていきたいです。