INTERVIEWEE

株式会社クリスプ 代表取締役社長 兼 CEO 宮野浩史氏

1981年千葉県生まれ。15歳で渡米、18歳のときに現地で飲食業にて起業。22歳で帰国、タリーズコーヒージャパンでの勤務を経て、2009年にブリトー&タコス専門店「フリホーレス ブリトー&タコス」を立ち上げる。2014年に「熱狂的なファンをつくる」ため株式会社クリスプを設立。カスタムサラダ専門店「クリスプ・サラダワークス」を立ち上げ、麻布十番・六本木など東京都心にて16店舗を展開している。既存の飲食業界にはない新しい考え方で、これまでにない価値を持つキャッシュレスセルフレジやモバイルオーダーなどの注文ソリューション「PLATFORM」を展開中。

3月25日から、クリスプ・サラダワークスが開始した医療従事者を支援するために、無償でサラダを届けるプロジェクト「CRISP CONNECT」。代表の宮野浩史さんが発起人となり始まったこのプロジェクトは、またたく間にその輪を広げ、5月29日現在で32箇所の病院に、延べ16,770個のサラダを提供。20,376,810円の寄付が集まり、400人を超えるボランティアサポーターが活動に参加するなど大きな反響を呼んでいます。クリスプ・サラダワークスは過去にもDIOでチームビルディングについて語っていただいたように、組織づくりにも精力的に取り組む企業。今回、再度忙しい合間を縫って、宮野さんにCRISP CONNECTが生まれ発展した背景、コロナ禍においてもなお成長する組織について、そして飲食ビジネスの未来についてまで思いの丈を語っていただきました。

誰かをハッピーにする力が飲食にはある

―医療従事者に無償でサラダを提供する「CRISP CONNECT」は非常に素晴らしいプロジェクトですね。特設サイトや動画を拝見して、胸が熱くなりました。

ありがとうございます。正直、ここまで大きく輪が広がるとは思っていませんでしたが、多くの人のサポートもあり、今も継続して医療従事者の方々へ支援を続けられています。

オンラインでの取材に対応していただいた代表の宮野浩史さん。熱量のこもった受け答えに、我々も胸を打たれた。

―CRISP CONNECTが始まった背景について教えてください。

2月、3月と新型コロナウイルスの問題が日に日に深刻になり、我々も営業をどういう形で行えばいいのか日々考えていました。幸いにも、クリスプ・サラダワークスはデリバリーやテイクアウトがもともと多かったので、売り上げへの影響が小さい状態が続いていたんです。しかし、3月下旬から自粛要請が強くなり、緊急事態宣言も視野に入ってきたところで、「この先は分からないぞ」と次第に危機感は大きくなっていった。

同時に「なぜ飲食業を営んでいるのか」という本質的なことも、よく考えるようになったんです。いろいろな思考を巡らす中で、「飲食業はただお腹を満たしてもらったり、栄養を取得してもらったりするために行っているのではない。誰かをハッピーにする力が飲食にはある」という思いがふつふつと湧き上がってきました。

もともと自分が飲食業を始めたのも、元気になれるパワーを飲食店からもらっていた原体験があるからなんです。落ち込んだときや疲れたなってときに、お気に入りのカフェで店員と何気ない会話をしながら、コーヒーを飲む。それだけで、気分が切り替わるし、ハッピーになれますよね。「自分が飲食業を行っているのは、こういう体験をみんなに提供したいからだ」と、初心に返ることができたんです。

―そうした思いがどのように医療従事者への支援に繋がったのでしょうか?

もともとクリスプ・サラダワークスのお客さんの中には、医療従事者の方が多くいました。ファンでいてくれる人たちが、今医療現場の最前線にいる姿を想像したときに、彼・彼女たちに何かできることはないか、と思ったのが大きな理由の1つです。

もう1つ、私は一時期海外に住んでいたのですが、向こうだとこうした非常事態になったとき、当たり前のように医療従事者への支援活動が行われているんです。日本でも様々な分野、領域の方々が医療従事者への支援を行っていますが、我々も何かできるのではないのか、という思いを抱いたのも大きかったです。

それで、医療従事者へ我々の商品であるサラダを無償で提供する支援活動はできないか、と思い立ったのです。

―そこから、どのようにプロジェクトが動き出したのですか?

思い立ってすぐ、社内で構想を話しました。「今そんなことしている場合じゃないでしょ」なんて言われるかなと思っていたんですけど、みんなすぐに「いいですね!やりましょう!」と賛同してくれて。それで急ピッチで準備を進めて、思い立ってから2〜3日後には医療従事者へのサラダの無償提供を開始しました。

―他のパートナーも含めて、決断力と行動力が素晴らしいですね。

弊社はCRISP WAYとして、「熱狂的なファンをつくる。」「笑顔を広げる。」「好きになる。」と3つの約束ごとをお客様、そして一緒に働くパートナー(社員、アルバイトの呼称)と結んでいます。我々のパートナーはこうした理念に強く共感しているので、今回のプロジェクトも前向きに受け入れて動いてくれたのだと思います。

急速に広がった善意の輪

―現在では、16,000個以上のサラダを提供し寄付金も2千万円を超えるなど大きく輪が広がっています。

正直、ここまで大きな輪になるとは思っていませんでした。もともとプランニングやマーケティングといった戦略的なことは一切考えずに、本当に想いだけで動き出したプロジェクトだったんです。

(活動の様子を伝えるハイクオリティな動画もYoutubeで公開されている)

当初は、1日あたり50個、多くて100個ぐらい提供できればと思っていたのですが、結果的には6日間で2,296個のサラダを提供できたんです。さらには、「この活動に寄付したい」といったありがたいお言葉も多くいただきました。それ以外にも多くの人から様々な問い合わせがあり、店舗に受け取りに来るのではなく病院まで届けられるといいんじゃないか、などいろいろな広がりが1週間でどんどん出てきたんです。

そこで、社内外様々な人から協力をいただき、特設サイトの開設、寄付制度の整備、サポートしてくださる方々専用のSlackチャンネルの開設、デリバリーリソースの確保などがすごいスピードで動いていきました。

配られるサラダには、手書きのメッセージカードが添えられている。

―すごいですね。寄付も最初から募るつもりではなく、周囲の声から始まったんですね。

そうです。寄付は今まで自分で募ったことがないので、初めてCAMPFIREでクラウドファンディングを立ち上げたり、特設サイトで寄付をできるシステムを整えたり、多くの人の協力を得ながらプロジェクトが発展していきました。

サポーターも今は400人を超えており、Slack上で日々いろいろなアイデアや支援の動きが生まれています。これも、もともとはメールなどでいろいろな問い合わせや意見をいただいていたのですが、「協力してくれそうな人を全員同じSlackチャンネルで繋げちゃおう」という発想から作ったチャンネルです。みなさんもともとクリスプ・サラダワークスのファンでいてくださって、本当にありがたいことにボランティアで参加していただいているんです。

医療従事者はもちろん、こうしてサポートしてくださる方々、クリスプ・サラダワークスのファンでいてくださるみなさんを繋げて、少しでもハッピーになってもらいたい。そういう想いが「CRSIP CONNECT」というプロジェクト名には込められています。

利用してくださった医療従事者の方からも、ありがたいことに忙しい中お礼のメールや手紙を送っていただいています。ある看護師チームのリーダーの方からは「クリスプ・サラダワークスさんからサラダが届くとみんなに伝えたら、すごく喜んでくれました。久しぶりに、みんなの笑顔を見ることができました」と本当にうれしいメッセージをいただいて、このプロジェクトをスタートして良かったと実感しました。

(「CRISP CONNECT」のwebサイトでは活動の記録を詳細に発信している)

飲食業のビジネスモデルを見直すタイミング

―飲食業は今回のコロナ禍でも大きな打撃を受けた業種の1つです。そうした中でも、このように社会に価値を生み出す取り組みが生まれていることは本当に素晴らしいです。

ありがとうございます。だた、今は何が正解か分からないので、組織運営という点においても、本当に難しい時期です。4月と5月上旬までは、社員、アルバイト含め店舗パートナーは出勤するか、しないかの判断は各々にまかせています。そのうえで、給与はどちらの場合でも100%保証しています。

パートナーの判断はそれぞれです。出勤する人もいれば、自宅待機をする人もいる。それぞれの価値観に基づいて行動を決めてもらっているのですが、まさにダイバーシティとはこのことだと、経営者としては痛感しています。いかにこうした各人の価値観を尊重しながら、インクルードしていくかが、これからの組織経営には問われていくのだと感じています。

―コロナへの感染対策は長期化する可能性が高く、新しい生活様式やビジネスモデルを構築し実践する、「ニューノーマル」が必要だという識者もいます。

自分たちのビジネスモデルを見直す時期に来ているのだと思います。店舗があって、お客さんが来て、食事をしてもらう。それにデリバリーやテイクアウトが付随しているというビジネスモデルが今までのものだとすれば、これからはその発想を根本から変えていく必要があるのではないでしょうか。

社内でも、「そもそも飲食業ってなんだろう」「外食ってこれからどうなっていくんだろう」といった本質的な会話が増えてきました。そうした議論の中で、いろいろと新しいアイデアも生まれているんですよ。

例えば「オンラインで接客して、サラダを届ける」ことが当たり前になるのでは、という話が出てきました。でも、ただオンラインのビデオ通話で注文を受けるだけだったらただの機能で終わってしまうので、店員とお客さんがオンラインで「今日は午後から大事なプレゼンなんです」「だったらこんなサラダどうですか?」なんて会話をしながら、裏側でカスタマイズされたサラダが注文されて、自宅やオフィスに届く。そういう体験を生むのも飲食業の役割なんじゃないかとか、いろいろと議論しているんです。

―既存の枠組みにとらわれずに、新たなビジネスモデルを模索しているんですね。

正直なところ私自身は、オンラインだけでお客さんと深い関係を構築する、心を動かす体験を提供することって難しいと思っていました。ただ、ある体験をして考えが変わったんです。

―ぜひ、その体験を教えてください。

最近、「Uber Eats」でよく食事を注文するんですね。お気に入りのお店があって、よく頼むんですけど、実店舗には行ったことないんです。だから、どういう店で、どういう人が作っているかは分からない。

でも、何かしらお礼は伝えたかったので、ある時期から注文するとき、備考欄に「おいしいです」「いつもありがとうございます」とか何気ないメッセージを記入していたんですよ。そうしたら、ある日商品と一緒に、手書きで「本当にありがとうございます。頑張ります」って書かかれた手紙が入っていたんです。

僕、それを見て心が動いたんですよ。行ったことも見たこともないお店の人と心が繋がったと思ったんです。こういう体験こそが飲食業が生み出せる価値なんじゃないかと気付きました。店員とお客さんは、一度も会っていなくても繋がることはできるのではないか。

視点を変えてみれば店員とお客さんだけでなく、同じ組織で働くパートナー同士も離れていても繋がれる、心を動かしあえることでもあります。エンゲージメントとはまさにこれだ、とも感じました。

オンラインの利点を最大限に活かすコミュニケーション

―大きな体験ですね。今、組織内のコミュニケーションはどのように行っているのですか?

これまでは本社と各店舗で朝礼と終礼という形で別々でMTGを行っていたのですが、今はオンラインで全員を繋いで行っています。朝礼は15分くらいで、ラジオ体操をしたり、簡単な申し送りをして、終礼ではその日あったことや困りごとなどがあれば共有をする。今までは、オフィスや各店舗で閉じていたコミュニケーションが、オンラインで全員が繋がるようになりました。今までもやろうと思えばできたことなんですけど、コロナ禍がきっかけとなって生まれたコミュニケーションスタイルですね。

それから、オンラインでアイデアソンをやってみたり、読書会をやったり。「ひろしチャンネル」というオンラインセミナーを僕が毎週1回開催していて、アルバイトも含めて参加してもらって、さっき話したようなビジネスモデルの考えなどを共有する場も作っています。こういったことは、今までもオフラインの場でやっていたんですけど、オンラインにすることで、場所にとらわれないで参加しやすくなりましたね。

―複数店舗を展開する飲食業だと、それぞれの店舗間のコミュニケーション、店舗と本社のコミュニケーションがボトルネックになりやすいと聞きます。

そうですね。僕も、今までのように店舗を回っているだけだと2週間ぐらい顔合わせないパートナーがいたりしたんですけど、今はオンラインで毎日顔を合わせています。

本社と店舗のパートナー同士も、これを機会にあまり話したことない人同士でオンラインランチ会を開くことを推奨しているんです。ランチ代として1,500円をそれぞれに提供していて、好きなものを食べながら、オンラインで会話してもらう企画です。これまで、ほとんど会話できなかった本社のエンジニアと店舗スタッフがランチをしたり、今までにないコミュニケーションが生まれています。会社としては3,000円でこうしたセッションを生み出せるなら、コスパとしてはかなりいい。経営者としては、こうした発見を日々している最中です。

ー少しずつ、組織が新しいスタイルに適応しているんですね。

まさに、変わっている最中ですね。だから、マネージャー層の中では、いい意味で衝突が増えたんですよ。先程も言いましたが、こうした先が見えない状況になると、それぞれの価値観の違いが明確になります。一方では、店舗を増やすという意見が出て、一方ではもっと新しい戦略を練ったほうがいいんじゃないか、という意見が出る。

これまでだったらどうしても既存の枠組みで考えてしまうので、そういう本質的な議論って難しかったと思うんです。でも、今は枠を取っ払った議論ができるし、当然そこでは意見の衝突は起きます。こうして衝突しながら交わされる議論は、今後の我々にとって、大きな資産になるはずです。

―貴社には、wevoxも活用いただいています。

wevoxのエンゲージメントスコアは経営陣やマネージャーにとっての「通信簿」だととらえています。つまり、計測されるスコアはそれまでに行なった我々の取り組みへの評価である、という考え方です。だから、エンゲージメントスコアが出てから焦って何かをするのは遅いんです。

僕は、マネージャーには「北風と太陽」を例にしてマネジメントの考え方について話をよくします。この寓話は、北風と太陽が旅人の上着をどちらが脱がせられるか勝負をする話で、北風は風を吹かせて無理やり脱がせようとします。でも、旅人は風が冷たいからさらに服を重ねて来てしまう。一方の太陽は、暖かくすることで、自然と旅人の上着を脱がせることに成功します。

この寓話をwevoxにあてはめて、焦って何かしら圧をかけてエンゲージメントスコアを上げようとする北風のやり方ではなく、太陽のように自然とエンゲージメントスコアが上がる環境をつくるのがマネージャーの役割だ、と伝えているんです。その結果が数値として表れるツールがwevoxだ、という認識は常に持てるようにしています。

―北風だったのか、太陽だったのかを知るための通信簿としてwevoxをとらえるのは、面白い考え方です。これからは、太陽であり続けながら、新しいビジネスモデルに適応する組織をつくっていくと。

はい、新しいビジネスモデルはこれからの挑戦になりますし、それに適した組織になるのもこれからです。だから、今は失敗をするべき時期なのだと考えていますし、パートナーにも伝えています。むしろ、今失敗しないで、いつするんだ。今、何も課題感が起きないような仕事をしていてどうするんだと。

先が見えないんだから、石橋を叩いて渡るんじゃなくて、渡って落ちて、また登ってから進んでいくほうが絶対に早いんですよ。そのために、落ちたときにしっかりもう一度登れるようなセーフティネットを経営陣やマネージャーが用意する。そういうスタンスも、太陽であり続けるための重要なポイントだと思います。

CRISP CONNECTはおかげさまで多くの人にサポートをしていただいていますので、これからも医療従事者への支援は可能な限り続けていきます。今後は違う形でも支援の輪を広げられるように、このプロジェクトがどんどん発展していきたいと考えているんです。

そして、飲食業の新たなビジネスモデルを模索し、組織も新しい社会に適応していく。一筋縄ではいきませんが、楽しんで取り組んでいきたいと思います。

―前向きなお話ばかりで、こちらも元気をいただきました。CRISP CONNECT、そしてクリスプ・サラダワークスの新しい挑戦を応援しています。本日はありがとうございました!