INTERVIEWEE

株式会社アドバンテッジリスクマネジメント マーケット開発部部長
菊田卓氏

2004年より株式会社ライフバランスマネジメント(2008年にアドバンテッジリスクマネジメント社に統合)にてメンタルヘルス対策事業の営業・マーケティング・商品開発領域を担当し、大手から中堅中小企業においてメンタルヘルスケア対策の支援にあたる。その後アドバンテッジリスクマネジメントでは、採用・人材開発事業の責任者として、メンタルヘルス不調リスクを見抜く適性検査の商品開発・営業活動、また従業員の対人関係力を向上させるEQ研修の商品開発・営業活動に従事。現在はマーケット開発部責任者として、企業のリスクマネジメント及び生産性向上に向けメンタルヘルス対策の支援に従事。

「企業に未来基準の元気を!」をコーポレートメッセージに据え、ストレスチェックサービスやエンゲージメント向上サービス、採用時にメンタルの強さを見極める適性検査など企業のリスクマネジメントならびに生産性向上を支援している株式会社アドバンテッジリスクマネジメント。同社のメンタリティマネジメント事業の営業機能の一部署を担うマーケット開発部部長の菊田卓(きくたすぐる)さんは、改革の担い手を増やすために営業メンバーのエンゲージメント向上施策をうち、成果を出しています。エンゲージメントに着目した背景にある思いは「メンバーに自主性を求めつつも、管理職は特に自主性を発揮しメンバーを引っ張る、加えて日々メンバーに業務を指示している。一見矛盾しているように見えるが、両方満たすためには何か必要なことがある」と感じたところから生まれたと話す。営業職のマネージャー必見のインタビューをどうぞ!

 営業職のエンゲージメント向上を阻害する2つのボトルネック

ー初めに、菊田さんのチームがどのような業務を担当されているか教えてください。

私が担当しているマーケット開発部はメンタリティマネジメント事業領域の営業機能の一部を担っており、人事・総務・健康管理部門を対象に企業のリスクマネジメントならびに生産性向上、健康経営を切り口にストレスチェックやエンゲージメント向上ソリューションなどをご支援しております。

HR領域のビジネスは今注目度も高いです。企業からの要求度も年々高まっているのではないでしょうか?

そうですね、特にストレスチェックは50名以上の事業所において実施が法律で義務化されたことを受けて、お取引社数は非常に増えました。最近多くいただくのは、「ストレスチェックはやっているけど、その結果を受けてどうすればいいか」というご相談です。経営層へのご報告、管理職へのストレスチェック結果のフィードバックを含めた組織改善研修やコンサルティングサービスを始め、お客様の課題に適したソリューションをご提供しています。

ー営業は、お客様のご要望に対するご提案をする役割ということですね。

はい。営業職はお客様と共に成功も失敗も両方経験しながら、お客様に適した情報やサービスを提供し続ける存在だと私は思っています。それが、営業職のやりがいでもあります。特にメンタリティマネジメント事業は、30年前には世の中にほとんど存在すらしていない事業です。弊社は2002年から企業のメンタルヘルス対策を支援していますが、世の中ではストレスチェックが義務化となりまだ3年ちょっとですし、法律で必要とされる対策はあくまで最小限。もっと踏み込んだ対策はお客様の経営層とディスカッションしながら、何が必要なのかを一緒に考えていくことがとても重要です。

ーなるほど。とはいえ、営業職は「売上目標のプレッシャーが強い」というイメージが根強いものとしてあると思います。

そうですね。私の主観的な意見ですが、営業経営と似ているところがあって、「前年の売上を上回ること、そして生産性を上げ、顧客満足度も高めていくこと」が前提にあります。昔でいうと、三方よし(顧客良し、自社良し、世の中よし)という考えでしょうか。このすべてを満たすためには、多少なりとも業務の改革が必要となります。

ーどういうことでしょうか?

シンプルな話ではあるのですが、お客様に有益な情報をお伝えして、施策をご提案する。そういう密なコミュニケーションは担当社数が少ない方が、当然やりやすいわけですよね。一方で売上を上げるために、営業一人あたりの担当社数を増やして生産性を上げるケースも実際にあります。お客様の数が増えながらも、ちゃんとお客様の役に立つ存在として成り立つよう、業務の仕方や時間の使い方を変えていかなければなりません。お客様との接点の在り方を考えるには、過去を否定し、改革をしていく必要があるのです。

ーその改革をメンバーに担ってもらうために、エンゲージメント施策に取り組んでいるんですね。ちなみに取り組むときにボトルネックになりやすい要素ってなんでしょう?

営業職に限らないかもしれませんが、メンバーのエンゲージメントを高めるためにボトルネックとなる要素は大きく2つあると私は考えています。

1.裁量を感じられない.

2.自己成長の場だと実感しづらい

逆に言うと「裁量感を感じ、ここで働くことが自分の成長につながる」と実感できれば、エンゲージメントが高まり、生産性向上につながると考えました。

鍵を握るのは、管理職

ーあくまで一般論としてですが、管理職から仕事はむしろ振られることが多々あると思いますがそのあたりはいかがでしょう。

はい、ありますね。メンバーに自主性を求めながらも、業務においては管理職がメンバーに「この仕事をいつまでにしてほしい」といったことも当然ながら発生します。責任ややりがいをもってもらう領域を創ることが鍵だと思います。部門の生産性をあげる業務改革において、まずは管理職が骨子を作り、その中でメンバーに担ってもらう領域を創る。そしてその領域においては「裁量」を最大限もたせてあげること。そして一年間その領域を手掛け続けていくためには、少し定性的な表現になりますが「走り続けるエネルギー」に注目し、エネルギーを創る場所や時間やコミュニケーションを取ることが大切だと考えています。

ー「走り続けるエネルギーですか。

そうです。数字を追いかけながら、お客様とも向き合う。さらに業務改革もしていく。ものすごいエネルギーがいります。日々メンバーは仕事でエネルギーが削られます。週末リフレッシュしてまた仕事に励むわけですが、徐々にその回復がおそくなったりしがちです。持続性があるエネルギーを高める一つの要素に、仕事で大切にしている価値観があります。一人一人が仕事やキャリアで大切にしていることを理解し、日々のコミュニケーションや仕事のアサインに活かすことが大切です。私は新年度がはじまるタイミングに、一人一人にインタビューをします。仕事で何を大切にしているか、なぜこの会社に入ったのかを教えてもらい、日々のコミュニケーションに最大限活かしています。また期の途中からwevoxの結果をメンバー全員に開示し、みんなでどの指標を変えていくことが生産性につながるかを議論し、取り組みました。

その時に挙がった項目は承認という項目でした。月次の部門会議があるのですが、その会議の半分を月次の振り返りとメンバー同士のフィードバックに充てています。メンバーが互いにフィードバックし合うことは非常に大きなエネルギーになります。管理職の価値観だけではなく、様々な価値観のもとフィードバックをもらえることで、メンバーが自分の強みを理解し、“もっと成長したい”という思いに至りやすくなります。

ー管理職とメンバーのラインだけでなく、メンバー同士のコミュニケーションのラインも重要ということですね。こうした意識は昔からあったんでしょうか。

私は、比較的いろいろと新しい企画をどんどんと立ち上げ、実施していくことが好きで、それが自分の強みだと思っています。一方でメンバーがついてきてくれるかというとそんなこともなく、ついてこなかった過去も経験しています。お恥ずかしいお話ですが、数年前に私が担当していた部門のストレスチェック結果で管理職(つまり私)に課題ありという結果が出ました。

弊社が企業様にご提供しているストレスチェックを自社でも活用しているわけですが、世の中一般のストレスチェックとは異なり、弊社のストレスチェックは課題が明確にわかる設問が用意されています(ハラスメント、エンゲージメント、メンタルタフネス度(=ストレス対処スキルなど))。この経験から自分のマネジメント方法を変えていこうと思ったこともひとつ背景にあります。

ーマネジメントスタイルが大きく変わってきていらっしゃるんですね。ちなみに裁量を高く感じてもらう取り組みについても、詳しく教えていただけますでしょうか。

管理職の仕事は、未来を創る仕事と足元の仕事をメンバーと取り組んでいく両面があります。メンバーの成長につながるためにはどのように仕事を進めるべきか、ここ数年よく考えていました。

「自分が責任を持つ領域を創り、意思決定の経験を増やすことが自主性につながり、それが成長へ、そして生産性につながるのでは」という仮説です。その仮説をもとに、20184月から始めたのが「社長制度」です。

流れも非常に重要なので時間軸をもって、ご紹介します。

新年度がはじまる前に、メンバーを全員集め、一年を通じて取り組む改革のテーマを、私から発表します。そして、そのテーマについて取り組む内容をペアで検討してもらい、メンバーから発表してもらいます。そして改めてどのテーマのプロジェクトを自分が担当し、オーナーとなりたいか希望を募ります。発表した内容と同じでなくても構いません。そのプロジェクトオーナーのことを「社長」と呼ぶことにしたため、「社長制度」という名前にしています。「社長」という呼び名はメンバーからのリクエストで決まりました。「取締役」と呼ぶのが良いかなと思っていた私も、このときはメンバーの意思を優先しました。でも改めて、そうしてよかったと思っています。大切なのは意思決定する経験を多く積ませることです。

日々の活動では、そのプロジェクトの進捗等を定例会議で議論を交わしながら推進してもらうわけですが、もちろん改善も必要になります。皆の意見をもとに、最終的にどうするかを意思決定してもらいます。ただし、意思決定する経験がまだ不足しているので、迷っているときや意思決定が甘いと感じたときは、何回かに一回に留める前提で、私から「意思決定はこんな視点ですることがあるよ」とアドバイスするようにしています。言い過ぎもよくなく、言わな過ぎるのもよくないので。また「管理職の意見を否定しても良い。決めるのはあなたです」というスタンスを続けています。2019年1月のwevoxの結果では、「職務」というカテゴリーにある「裁量」という小項目の値は、最大値の“100です。最初は信じられず、メンバーに「本当?」と思わず聞いてしまいましたが、「業務の役割において裁量感は十分感じている」と回答をもらえました。

ーなるほど、それで最終的に決めるのは「社長」であるメンバー、ということですね。そのプロジェクトにおいては、菊田さんは上長として振る舞うのではなく、一人のメンバーとして振舞っている。

はい、そういう接し方になるよう、意識しています。そうやって、メンバーが自分で意思決定をする機会を創る。そうすると、「自分が主人公だ」という気持ちが生まれ、それが走るエネルギーに転換される。あるいは、責任感が生じることでエネルギーに転換される、という人もいます。こうしたプロジェクトを続けることで、成長も実感できるでしょう。そういう仕組みとしての「社長制度」です。

ー従来の営業活動と並行して、自分が全て意思決定するプロジェクトを用意する。それによって、裁量を増やし、やりがい、成長実感を醸成する。すごく理にかなった仕組みだと思います。その他、実感している成果はありますか?

一番変わったのがメンバー同士の関係ですね。プロジェクトを進める中で、何かアイデアが必要なとき、すぐに他のメンバーに相談し、意見を求めるようになりました。「社長制度」があることで、メンバーは「みんなを巻き込むこと」が気兼ねなくできるようになりました。些細なことのようで、これが自然とできるとできないとでは、チーム力においては大きな違いです。特に「困難時の支援」のエンゲージメントスコアは97と非常に高い状態になりました。

ー素晴らしい結果ですね。

あと少し話は逸れますが、エンゲージメントという観点で、上司である私との関係性で一つ気付きがありました。

ーなんでしょうか?

実は、私が少し前にプライベート中のゴルフで骨折してしまい、2か月ほど出社ができず、自宅からリモートで会議や進捗確認など諸々のコミュニケーションを行うことになりました。オンライン通話やメールなどで仕事をしていましたが、ほとんど支障がなく仕事することができました。その間のエンゲージメントスコアも下がることはありませんでした。「あ、エンゲージメントって耐久性があるものなんだ。決して一時的に高まってすぐしぼんでしまうようなものじゃないんだな」っていうのを実感したんです。遠隔で仕事をしても、これまで一緒に作ってきたエンゲージメントが高い組織であれば、多少困難な状況があってもすぐに乗り越えられる力強いものだと感じました。

ーそもそものエンゲージメントの価値にも気付いたんですね。

私自身、「社長制度」を始めたり、リモートでの仕事を経験したり、メンバーとの接し方を改めて考え直す大きな意味を持った一年になっています。

ー他の企業が参考するとして、どういうポイントに気を付ければいいでしょうか? 社内プロジェクトのリーダーにメンバーをアサインする、という取り組み自体は比較的多くの会社が実践していますが、うまくいかないという話もよく聞きます。

「いかに主役の領域をつくってあげられるかどうか」に尽きると思います。おそらく、プロジェクトリーダーに任命してもうまく機能しないのは、実質的な決定権は別の誰かが持っているという場合のはず。それでは名目だけリーダーになっているだけです。意思決定もできないのであれば、本人からすれば何の意味があるのか実感できない。どうすればその人が主役になれるのか。この観点は「社長制度」を導入するときに、一番心がけていたことです。

ーなるほど。「管理職が人を通じて生産性をあげることいる」を意思決定し、実際の運用では「メンバーが主役になれるように仕事を進められるか」が大切なのですね。

私も、ついいろいろと指摘したくなるときがあります。多くの管理職もそういう経験をしているでしょう。まずはその指摘する割合を減らします。ただし、意見をいうべきこともあります。そうしたときは、メンバーが意思決定する直前に「こんな視点があるけど、どうかな?」と投げかけるようにしています。意思決定したことは耐久性、つまり、反対意見があったときでも乗り越えられるロジックが必要です。このことを理解してもらうために私がアイデアを出すときは、「自分への反対意見がでるとしたらこんな意見で、それに対してはこういう観点からこんな風に考えた」と私が考えていることを言葉にして伝えるようにしています。

耐久性の高いアイデアをつくる力が高まると、意思決定の内容の質が上がります。アイデアが変わるか変わらないかはそう大きな問題ではありません。大切なことはメンバーの意思決定の経験を多く積ませ、成長につなげることです。そして、改めて「この視点をどうとらえるか、社長であるあなたに任せます」と伝えるようにしています。

ーそうした細かいメッセージ一つひとつに、メンバーが主役になれるかどうか決まってくるんですね。その結果、高いエンゲージメントにつながっている。

まだまだ始めたばかりで、それぞれのプロジェクトはスムーズに進むときもあれば、停滞するときもあります。この制度を活かしながら、営業職もエンゲージメント高く働ける、ということを証明できるように、メンバーと一緒に成長していきたいと思います。

今後は、仕事の生産性向上につながるメンバー同士のエンゲージメントを高め合える取り組みに関心があります。

また、今日のお話はまだごく一部で、エンゲージメントは会社との関係性も非常に重要です。管理職の考えではなく、経営層の考えをどう現場に翻訳するかなどかなり意識して取り組んでいます。もし反響があれば、ぜひともお話しさせていただきます。個人的には、月一回ぐらいのペースで自分が担当している部門のエンゲージメントの変化や取組み、振り返りなどを発信していくのも面白いかなと感じています。そうしたご要望があれば、アトラエさんお声掛けください。

ー営業職のマネージャーの方々にとっては、菊田さんの経験はとても参考になると思います。本日は貴重なお話をありがとうございました!