INTERVIEWEE

厚生労働省 大臣官房人事課 課長補佐 久米隼人氏

11月22日(金)、東京ミッドタウンタワーで【第24回慶應義塾大学 SFC Open Research Forum 2019「働き方改革とワーク・エンゲイジメント」セッション】が行なわれました。今の時代は働き方改革が進み、多様な人材の活用、柔軟な働き方が求められています。どうすれば働く人々が健康で活き活きと働けるか、「ワーク・エンゲージメント」をキーワードに研究者、省庁職員、大企業やベンチャー企業の社員など、様々な領域の実践者でトークセッションを行ないました。働き方の最前線を知れる、トークセッションのレポートを4回に分けてお届けします!

国民の期待に応えられる組織にならなければいけない

2009年8月に厚生労働省(以下、厚労省)の若手チームが中心となって、働き方改革の提言を行いました。今日はこの提言について、「厚労省を変えるために若手チームが大事にしてきたこと。」というテーマでお話しさせていただきます。

実はこの提言を行う前は、世間のみなさんから「税金をもらっているんだから、こんなこと言ってないでしっかり働け」ともっとお叱りを受けると思っていたのです。でも、予想に反して、好意的な意見を多くいただきました。「厚労省でもこうやって行き詰まっているんだ。同じような悩みを抱えているんだ。自分たちも頑張っていこう」といった、前向きな声をSNSなどでいただいたんです。

今日、まずは、そもそもなぜ今回の提言を行ったのか、その背景を説明したいと思います。厚労省というのは、医療や年金などの社会保障整備、高齢社会対策、雇用・労働問題への対応から少子化対策など国民の生活に密着した政策に関わる業務が多く、国民の皆様から非常に高い期待を寄せられています。その分業務量は多く、例えば2018年度の「国会答弁回数」や「審議会の開催回数」など、様々な業務量が、他省庁に比べて圧倒的に多いというデータがあります。一方、公務員が多すぎるということで職員数を減らす流れもあり、働き方改革は喫緊の課題となっていました。

業務過多となることで、チェック体制も十分確保できなくなってしまい、事務手続きなどでのミス・不祥事がここ十数年続いていました。最近では、資料のデータを間違えたり、調査データの不適切な取り扱いがあったりといったことです。とにかく人手が足りないという中で、業務の前例踏襲が増え、ミスや不祥事が発生。不祥事対応で業務がさらに増え、モチベーションの低下や健康不調、離職の増加など負のスパイラルに陥っています。残った職員の労働環境は悪化の一途で、政策検討に十分なリソースも割けず、このままでは国民の期待に応えられない状態になってしまっています。

こうした状態を脱却し、職員一人ひとりが活き活きと働いて、国民の期待に応えられるようにしなければいけない。こうした話が盛り上がってきたときに、小泉進次郎先生が発端となって具体的に動き出すことになります。小泉先生に、平成31年2月4日の衆議院予算委員会で厚労省の組織改革の必要性について言及していただき、それに応える形で当時の厚生労働大臣だった根本匠先生に「若手の意見を聴いて、厚生労働省改革をしたいと思います」と答弁していただいたのです。これらの発言が、若手チームの結成と提言に繋がっていきました。

特定の誰かではなく、全ての職員のための改革に

提言を出すにあたって、我々は「結果を大切にしよう」という目標を立てました。今回の提言はメディアにも注目をされたのですが、実は過去10年毎年のように改革の提言は行われています。これらの提言によって、変わったこと変わらなかったことがありましたが、現状は先ほど話したように負のスパイラルから抜けきれていません。ですので、今回の提言で最後になるように、しっかりと結果に結びつけることを大きな目標として掲げたのです。

チームを立ち上げるにあたって気をつけたことは、結成時の38名を厚労省内にある18の全人事グループから構成したことです。厚労省には医療や労働などそれぞれの専門職種ごとに、人事グループがあります。これらの人事グループから必ず1人に参加してもらうようにお願いをしました。これまでは一部の人たちが提言をしていたので、議論に参加していない職種の職員からは、「どうしてやらなければいけないの?」と、納得感を得られにくいという課題がありました。ですので、全ての職種の人事グループから参加してもらうことで、みんなで進める一体感を醸成しようとしたのです。

省内ヒアリングも幹部・若手どちらにも行い、どちらか一方だけの意見に偏らないようにしました。とにかく、「厚労省みんなで取り組むんだ」という雰囲気を作っていきました。

それから、これまでの提言で初めて、退職者にもヒアリングを行いました。これまでは、人事課で、退職者全体の退職理由などが管理されておらず、組織を振り返るためのデータが残っていないようなひどい状況でした。これではダメだと、まずは若手の退職者14人にヒアリングを行い、退職理由を話してもらいました。他にも、他省庁や、外部企業、大学教授の声も取り入れながら、徹底的に改革すべき点を洗い出したのです。

その結果、見えてきた厚労省の現状が以下の図になります。

多くの民間企業でも同じような課題を抱えているのではないでしょうか。ただ、先ほどお話ししたように、省内や外部へのヒアリングなどを通して、多くの人を巻き込みながら、これらの課題を洗い出すプロセスに力を入れたというのが、今回の提言の特徴だと思います。

こうした課題を踏まえて、改革の目指す方向性を定めました。まずは前提として、職員数を増やすというのは政府全体の議論になるので、我々ができる範囲で最善を尽くそうという考えがベースになります。そのうえで、「1.生産性の徹底的な向上のための業務改善」「2.意欲と能力を最大限発揮できる人事制度」「3.『暑い、狭い、暗い、汚い』オフィス環境の改善」の3つを柱に進めていくことを決めました。

職員の共感がなければ、改革は進まない

今回の提言を出すに当たって、気をつけていたことが3つあります。1つは、「組織全体の共感を得られる提案でないといけない」ということです。過去にあった提案では、特定の業務をやっている人にしかメリットがないという内容のものがあり、納得感を得づらい状況にありました。

今回の提言では、例えば、コールセンター改革などを盛り込みました。現在コールセンターには対応者が4人しかおらず、ほとんどの電話に対応できないため、職員が電話を取ることが常態化しています。このため、全ての部局・職種の若手が、電話に頻繁に出ることで業務が進まない、という組織全体に影響する課題に発展していました。なので、コールセンターの増員というのは、組織全体から共感を得られる業務改善策なのです。また、個別の業務プロセスをバラバラと改善させるだけでなく、先ほどの3本の柱を一体的、有機的に改革していると理解してもらうことも大切だと思っています。

2つ目が「実現への工程を意識したこと」です。ただ提言するだけでなく、若手チームが継続的に関与するような実施体制の確保を強く求めていること。そして、どの部局がいつまでに、何を、どの程度行うかについても、具体化し提言に盛り込んでいます。

3つ目のポイントは、「世論の喚起に期待すること」です。厚労省の至らない点を包み隠さずさらけ出すことで、世論のみなさまから、今後も継続的にチェックしてもらい、いろいろなご意見をいただく。こうしたプロセスも非常に大切だと思っています。そのためにも、提言資料の概要については、誰にでも分かりやすく伝わるようデザインにも工夫を凝らしました。実際の提言資料でも、「人生の墓場」という言葉が目に飛び込みやすいようにしています。この言葉は多くのメディアにも取り上げられて、注目を浴びるきっかけにもなりました。

提案だけで終わらせないよう、実行に移していく段階

では、最後に、具体的に今、どのような改革が進んでいるのかについても、お話しさせていただきます。厚労省では、我々の提言を踏まえ、事務次官をトップとする「改革実行チーム」という組織ができました。今、若手チームはこの実行チームの改革プロジェクトに参加し、提言を実現していくための改革工程表づくりを進めています。体制としては、この図のような形ですね。

ただ、形だけ整えても意味がなく、具体的に実行に移さなければいけません。まずは、すぐにできるちょっとしたことから変えていく、ということをやっています。例えば、「エアコンの温度を下げる」というのは、大臣のご関心も高く、すぐに実行しました。このように、ちょっとしたことから「職場が変わるっていいことだね」と感じてもらうことを意識しています。

さらに、改革が進むごとに、改革できた点について若手チームから職員全体にメールでお知らせするなど、省内の情報発信にも力を入れています。言えば変わるんだ、という実感を持ってもらうためです。他には1on1やランチミーティングなどコミュニケーションを増やす仕掛けを取り入れたり、幹部や管理職の努力も目に見えるようにして相互理解が進めたり、といったことも大事だと思っています。

以上、厚労省の若手チームの提言にまつわる考え、そしてその後にどのように取り組んでいるか、お話しさせていただきました。我々が率先して働き方改革を行い、職員が幸せになることで、国民に提供する行政の価値を高めていくというサイクルを目指して、今後も頑張っていきたいと思います。ありがとうございました。

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