INTERVIEWEE

株式会社QUICK イノベーションセンター長 渡辺徳生氏

1994年、ネットワーク技術者として同社へ入社、以降、先端技術の検証や経営企画等に従事し、2008年には金融オンラインサービスでは国内初となる大規模な仮想化IT基盤を実現する。現職ではオープンイノベーションや新規事業開発を目的とした様々な取組みに従事。最近の関心事は少子高齢化と先端IT。趣味はゴルフ、肉、日本酒、チワワ。

実践的な組織づくり戦略やエンゲージメント解析ツール「wevox」の活用方法を紹介する「DIO PLAN」。今回お話を伺ったのは、株式会社QUICKの渡辺徳生さんです。同社は日本経済新聞社グループの一員として、世界中から株式、債券、為替、コモディティ、デリバティブ、企業情報など膨大な金融デー タやニュースを集め、金融・資本市場に関わるプロフェッショナルから個人の方まで幅広いシーンに金融情報サービスを提供している。その中でイノベーションセンター長を務める渡辺さん。そのチームは軒並み高いwevoxスコアを誇っています。中でも「自己成長」のスコアは驚異の「95」!その秘訣は、リーダーである渡辺さんの考え方にありました。「自律的な働き方がチームを強くする」と語る渡辺さんのリーダーシップ論をたっぷりお届けします!

未知の領域に挑戦する組織の在り方とは?

 ー渡辺さんがリーダーを務めるイノベーションセンターについて教えて下さい。

弊社は、1971年の創業以来、日本の証券・金融市場を支える情報インフラとしての役割を担ってきました。公正・中立な立場から、付加価値の高いグローバルなマーケット情報を迅速にお客さまに提供することをミッションとして、時代に先駆けたさまざまなサービスを展開してきました。一方、インターネットやスマートフォンの普及により、近年では金融情報サービスのコモディティ化が急速に進んでいます。そのような中、私のイノベーションセンターは、全社イノベーション体制の実現と先端技術の活用を目的に設立されました。具体的にはオープンイノベーションや様々な実証実験を行い、将来の売上・利益に結びつけることが私たちのミッションです。またそのプロセスの中で得た様々な知見やノウハウを、社内にフィードバックすることも重要なミッションのひとつです。

ー最近の取組み事例を教えて下さい。

現在、様々な取組みを行っています。面白いテーマのひとつとして、「金融」×「アート」があります。一般的な金融商品として株や債券、投資信託などがありますが、欧米やアジアの富裕層ではこれらに加え、アート作品を資産ポートフォリオに入れていることが一般的です。実際Forbes 400に出てくる顔ぶれは、欧米のアートコレクター層とほぼ同じだったりします。現在我々のチームでは「日本でもアートを金融資産に組み込めるのではないか」というテーマでチャレンジをしています。

ーアートを金融資産に…?詳しく教えてください。

アートの売買市場では、売り手と買い手に大きな情報格差があります。売り手が多くの情報を有している一方、買い手には適正な販売価格を判断する情報が不足しているのが状況です。所謂、「情報の非対称性」がアート市場にはあり、そこには情報ビジネスのチャンスがあるわけです。

弊社は約50年に渡り、日経平均株価の算出や企業分析をするための様々な情報を金融業界に提供してきました。私のチームが今挑戦しているのは、アートの世界にも「日経平均株価」のような基準や関連情報を中立公正な立場で整備することです。株取引の世界では、企業株価を様々な情報をもとに適宜判断して売買を行います。これは日経平均株価や企業価値を判断する情報があるからこそ投資判断できるわけですね。同様の判断軸を新たに作ることで市場を更に成長させ、新たなビジネスチャンスを掴みたいと考えています。

文化庁の調査では、世界のアート市場は17年時点で約6兆7,500億円である一方、日本国内は2,500億円弱です。因みにバブル時代には国内でも約1兆円を超える市場規模がありました。これだけ見ても日本におけるアート市場はまだまだ成長できる分野のひとつと言えます。国内の金融機関でもアート投資の有用性に注目しているところも出てきており、既に具体的な話も始まっています。

弊社が運営する金融情報サイト「QUICK Money World」にもアート市場に関する記事を掲載していますので、ご興味あれば是非ご覧ください。

オークション市場情報の事例

大変面白いですね。渡辺さんがイノベーションセンター長になられた経緯も教えて下さい。

一番大きなターニングポイントは、2013年から約3年間在籍した経営企画部門での経験でしょうか。そこでは金融市場の将来性や社内外の様々な課題、経営上の重要情報に触れる機会が多く、オープンイノベーションの重要性が話題となることも多々ありました。16年から古巣に戻り、IT基盤を統括する部長としてクラウド化計画などの社内プロジェクトを推進しながら、イノベーションセンターの立ち上げにも関わったことが、今につながっていると思います。

「イノベーション」にも種類がある

ー近年「イノベーション」という言葉が日本中で使われるようになっています。具体的な取り組みをしている企業も多いと思うのですが、QUICKの取組みと他社との違いはありますか?

「イノベーション」という言葉は、近年大変注目されていますね。我々は「イノベーション」といっても、様々な種類があって取り組み方もそれぞれ異なることを意識しています。

ーイノベーションの種類、ですか。

そうです。例えばオーストリアの経済学者であるシュンペーターが唱える分類方法もそのうちのひとつです。彼は、①プロダクトイノベーション(新たな新製品・サービスの開発)、②マーケットイノベーション(新たな市場開拓)、③サプライチェーンイノベーション(資源・原料・製品など新たな買付先の開拓)、④プロセスイノベーション(新たな生産方式の導入や生産の効率化)、⑤組織イノベーション(新たな組織・人材の創出)の5つにイノベーションを分類しています。いかがですか?これだけ見ても様々な領域でイノベーションがあることを理解できると思います。

QUICKのイノベーションへの取組み

その観点では弊社は比較的バランスよく取り組めているように思います。既存の事業部門や様々なプロジェクトが既存領域から挑戦しつつ、私のチームのような新しい部門が少し飛び地から攻めるような感じですね。また攻め方によって組織を分けることも重要な戦略と言えます。具体的な成果はこれからですが、DXや働き方改革では既に効果を出しつつあります。

ー新たな領域に挑戦する上で意識していることはありますか?

私のチームでは、その領域を更に分類して仕事を進めるようにしています。例えば顧客層や利用シーンなど最終顧客が誰なのか?既に市場があるのか、ないのか?などを意識して物事を進めるようにしています。特に成熟市場を狙ったレッドオーシャン型と潜在市場を狙ったブルーオーシャン型では、戦略や必要な個人のスキルも大きく変わってきます。その点は非常に意識しているところですね。

社員のモチベーション・エンゲージメントを維持することが最も大切

ー社員の士気についてどのようにお考えですか?

特に新たなことに挑戦する場合、社員が次々現れる壁に挑戦し続けられるモチベーション維持が重要な課題となります。リーダーやプロダクトオーナーは、次にとるべきアクションを可視化するとともに、チームメンバーが最短ルートでコトを進められるよう選択肢を提唱しなければなりません。そして、それが現場に腹落ちしていることが最も大切です。そういう観点では、wevoxはそれらを可視化してくれるツールと言えますね。

-QUICKでは、いつからwevoxを導入されているんですか?最初の印象は?

2年前から全社で導入しています。正直、最初は懐疑的でした(笑)。「社員エンゲージメントの調査はいいけど、それ以降どうするの?」と思っていましたね。しかし、実際に運用してみると、チームの状態が下のようなグラフや項目毎に可視化されるのは凄く良いことだと気づきました。特に個別のスコアの中でも「理念戦略への共感」のような、普段の働く姿を見ているだけでは把握できない気持ちの部分、もう少し言えば「腹落ち感」を可視化してくれるのはすごく良いことだと思います。

イノベーションセンターのスコア

ー渡辺さんのチームの総合スコアは「91」とかなり高いですね。

まず、リーダーである私自身のエンゲージメントが高いです(笑)。経営企画時代の経験が活きていて、「今の経営課題は何なのか」「今何にどれくらいお金がかかっているか」「何をすればどのくらいの数字が動くのか」といったことが頭の中に入っていることは大きいです。数字を把握すると取るべきアクションが明確になり、士気が高くなります。

メンバー全員とは言いませんが、きちんと数字を理解した上で仕事するよう日頃から指導しています。「上席の○○さん指示だからこれをやってくれないか?」という指示の出し方ではなく、「なぜそれをするのか?これを変えるためにこうしよう!」という問いかけを常にすることで、みんな仕事に前向きになれるのだと思います。あと付け加えると社内外の仲間からたくさん協力を頂けることも大きいですね。

ーその中でも自己成長スコアはなんと「95」!かなり高いスコアですが、このスコアを実現できている理由は?

私のチームは様々な仲間を巻き込んで新たな領域に挑戦するので、自己成長の機会は多いと思います。ただ正直、私はリーダーとして成長を実感させるような取り組みをしているわけではなく、どちらかというと、メンバーが挑戦し続ける環境を常に整備することを意識しています。

メンバーが走りやすくなるよう、最大限の支援をする

ー挑戦し続けられる環境を常に整備、ですか?

そうです。リーダーに求められる役割は業務の性質によって大きく異なります。既存事業で戦うチームは、リーダーが何をやるべきかわかっています。それを各メンバーの業務内容に落とし込んで、進捗をマネジメントすることで成功確率を上げるわけです。

一方、新事業や新たな領域に挑戦するチームの場合、リーダー自身も正直何が正解かわかりません。その中で成功確率を上げるには、取り組むべきテーマや領域の定義と、そこに投げる「球数」が肝になります。「闇夜に鉄砲」にならないよう最低限方向性や方針を示す必要はありますが、あとはメンバーが「球数」を出し続けられるよう、環境を整備することが重要だと考えています。軍隊で例えるなら、最前線に燃料や食料を絶え間なく供給する後方支援部隊のような感じでしょうか。最近で言う「Teal組織」や「逆ピラミッド型組織」なんかも同じだと思います。

最近は「VUCA」という言葉が注目されるように、我々がいる世界は今後の姿を予見できない時代に入りました。その中でリーダーが本来すべきことは、チームメンバーの「管理」ではなく「解放」だと考えています。お金が足りないなら予算がなくてもなんとかする。人が足りないなら社外から仲間を巻き込むなど、そうした行動をリーダーが取ることでメンバーは働きやすくなり、より自律して自走するようになると思います。

ー素晴らしいリーダーですね。最後にチームの今後の展望を教えてください。

イノベーションセンターのビジョンは明確でQUICKにおける変革の起点となることです。

小さな成功体験を積み重ね、社員一人ひとりが新サービスや新たな取組みを自律的に発案し、実行、発展させる企業文化を醸成したいと考えています。今の企業文化も十分良いのですが、もっと社員一人ひとりが積極的に新しいことにチャレンジできるようになると良いと思います。全員と言わなくとも、1-2割の社員が新しい行動を自発的にするようになったら成功ですね。

とはいえ、「僕たちはこうやっている!君たちもやれ!」と言っても人はなかなか動きません。我々が触媒となり、小さな成功体験をどんどん起こしていくことが大切だと考えています。その取組みをどんどん発信して、社員一人ひとりに「自分達も新しい取組みをやりたい!」と思ってもらえるよう、引き続き挑戦していきたいですね。

ABOUT COMPANY企業情報

株式会社QUICK

主な事業: 日本経済新聞社グループの金融情報サービス会社として、世界の証券・金融情報をはじめ、政治・経済情報をリアルタイムで配信。資産運用支援、注文執行業務の支援、情報ネットワーク構築支援サービスなど、証券・金融市場に関連する総合的なソリューションの提供。
設立年月日: 1971年10月1日

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