7月5日(金)、渋谷ヒカリエで行われた世界最大規模のチームカンファレンス「PxTX」。業界を越境し、豪華ゲストたちが多様な視点で「これからのチーム」を語り合ったこのイベントでは、数々の記憶に残るセッションが行われました。この貴重なセッションをもっと多くの人に届けるべく、今回特別にDIO編集部がセッションの内容を“ほぼ”完全レポートしちゃいます!第2弾のテーマは「Well-being × Team」。生き生きと働くために大切にすべき考え方やスタンスについて、研究者や企業人など多様性あるメンバーに話し合ってもらいました! 最新の理論から改革を進める現場まで、様々な視点から見たウェルビーイングの実現方法が分かる充実したトークセッションの全容をお届けします!

SPEAKER

石川 善樹氏

1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。(株)Campus for H共同創業者 「人がよりよく生きる(Well-being)とは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。 専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学など。

 

島津 明人氏

2000年早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程修了,博士(文学)。公認心理師,臨床心理士。早稲田大学文学部心理学教室・助手, 広島大学大学院教育学研究科心理学講座・専任講師,同助教授,オランダ ユトレヒト大学社会科学部社会・組織心理学科客員研究員,東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野・准教授,北里大学一般教育部人間科学教育センター・教授を経て 2019年4月より,慶應義塾大学総合政策学部・教授(現職)。専門は精神保健学,行動科学。主な著書に「Q&Aで学ぶワーク・エンゲイジメント:できる職場のつくりかた」(金剛出版, 2018)など。

 

永山 晋氏

法政大学経営学部 准教授 兼 楽天ピープル&カルチャー研究所アドバイザリー・ボード・メンバー。1982年広島県生まれ。早稲田大学商学部を卒業後、同大学より修士号および博士号を取得。 2018年4月より現職。 組織論を専門とし、「創造性が発揮されるチームや組織のメカニズムとは何か」をテーマに研究を行っている。

 

和田 有子氏

1989年,外資系広告代理店に入社、アカウントプランナーを経て、1998年,株式会社電通入社。 生活者のライフスタイルや消費行動について調査・研究。その後、クライアント担当のマーケティング部門にて、飲料、食品、化粧品、トイレタリー、流通等々のクライアント業務や、ヘルスケア・ウェルネス分野におけるビジネス開発に携わる。 2016年10月より人事局。労働環境改革推進室を兼務、バイタリティ・デザイン・プロジェクトのプロデューサーとして、社員の健康・ウェルビーイング施策を展開。

持続可能な働き方とは?

石川:まずは、簡単な自己紹介を島津先生からお願いできますか?

島津:島津と申します。僕は「3つのHP」をテーマに、研究を行っています。3つのHPというのは「“Health Promotion”健康の増進」「“Human Performance”生産性の向上」「“HaPpiness”、幸福」のことを言います。この3つのHPの実現を目指し、働く人を幸せにするべく日々研究と実践を行なっています。

石川:こういう研究をされていると「島津先生自身のHPはどうなんですか」と聞かれることも多いと思うのですが、いかがですか?

島津:そうですよね(笑)。僕は『3つのHPを実践している存在でありたいな』と思って研究をやっています。

「3つのHP」に到達するために押さえておきたいことが3つあります。まずは、ストレスの問題で、セーフティーネットとして働く人のストレス、メンタルをどのように維持、増進するかですね。そしてWork Engagement(ワーク・エンゲイジメント)、いかに組織そして仕事に前向きに、活き活きと働いていくか。そして最後に、仕事以外の時間の過ごし方、健康。これらをテーマに研究をしています。

石川:最近は、働き方改革と休み方改革といった話もありますからね。

島津:そうですね。働き方と休み方は表裏一体です。

石川:今日は、そういったところをお伺いしていこうと思います。次は、永山さんお願いします。

永山:僕の研究テーマは、創造性、すなわちクリエイティビティです。「イノベーションが起きない」と嘆く企業も多いのですが、そのイノベーションのもとにあるクリエティビティをどう発揮させるかを研究しています。例えば、オリコンのデータを使って早稲田大学の入山先生と研究したりですとか、ラップミュージックのデータを使って、同じく早稲田大学の三橋先生と一緒に研究したりしています。あとはSansanと一緒に、『人生が変わる出会いとは何か』をテーマにネットワークについて研究しています。

石川:これすごく面白そうですね。人生が変わる出会い!

永山:まだ何もできていないんですけどね(笑)。他には、石川さんと「JINS MEME」というメガネ型のウェアラブルデバイスを使って、眼球の動きを追跡して、どういうときにフロー状態、つまり超集中状態に入り、創造性が一番高まるかを研究しています。

石川:面白いですね。創造性も研究テーマになる時代なんですね。

永山:そうです。特に経営学の分野で、創造性が会社のパフォーマンスにいかに役立てるかに注力しています。経営における創造性って、そこまでまだたくさん研究があるわけじゃないんです。

石川:今日、気が早い方もいらっしゃると思うんですよ。「どうやったらクリエイティビティを上げられるんだ!」と。

永山:みなさん知りたいですか(笑)?

石川:気が早い方のためにですね、結論!

永山:結論はですね、「孤独になったほうがいい」です。

石川:孤独になったほうがいい? 避けたほうがいいと言われる孤独をむしろしたほうがいいということですか?

永山:そうですね、今日はチームのカンファレンスですけども、チームになっちゃダメです。

石川:ダメなの(笑)!? 孤独な状態がベースにあった上で、チームを組むからいいんだ、ということですよね?

永山:そうですね。

石川:なるほど。そこは働き方、休み方の話に近いかもですね。チームと孤独の表裏一体という。

永山:そうです。ですので、今日は、夜ご飯は1人で食べてください(笑)。

石川:ありがとうございます(笑)。それでは、和田さんお願いします。

和田:ありがとうございます。電通の和田と申します。私からは手短に、なんで今日ここにお邪魔させていただけたか、ということを紹介させていただこうかと思います。

電通は2016年に労働基準法違反で、是正勧告を受けました。その後、22時の一斉消灯スタートをはじめとする労働環境改革を、2017年より社を挙げて進めてまいりました。社長が自ら音頭を取って、2017年から丸々2年間改革を進めていて、今もまだ継続して定着を図っているという状況です。

この改革の中で時間の効率をどうやって上げるかなど、様々な分野で施策を実行し、検証してきました。2年間で250個に渡る施策に取り組んでいます。

私自身は、複数あるプロジェクトの中の1つである「バイタリティデザインプロジェクト」にプロデューサーとして参画しました。このプロジェクトのオーナーは役員です。石川先生にも参画していただいております。元々は「健康経営プロジェクト」と呼んでいました。すなわち、社員が心身ともに健康で働ける会社を目指すプロジェクトです。もっと分かりやすい名前にしようと、バイタリティという言葉を使いました。

電通は「お客様のためにいい仕事」という意識が非常に強い社風でした。無理をしてでもとにかくいい仕事を、それが個人の成長にも繋がると考えていたので、ハードな働き方をする人が多かったと思います。しかしこれでは、サステイナブルな働き方はできません。個人の成長、会社の成長という意味でも変えなくてはいけないと、サステイナブルにパフォーマンスを上げることを考えるチームを目指すことになりました。

そこで、コンディショニングの意識やスキルを研究し、継続的に力を発揮できるよう改革を始めました。社員みんなに、生き生きと前向きに仕事をしてほしいという想いで取り組んでいます。

健康とパフォーマンスを両立させるために考える“仕事の意義”

石川:これは島津先生が先ほどおっしゃっていた、Work Engagementですね。仕事のパフォーマンスと健康の両立のことです。ここで、専門家のご知見を伺いたいです。健康とパフォーマンスって対立構造、トレードオフ構造のように捉えられることもありますが、いかがでしょうか?

島津:おっしゃる通りです。従来のマネジメントでは、パフォーマンスを上げるためには健康を犠牲にしないといけない、という考え方が強くありました。でも今は、いいパフォーマンスを上げるためには、その原資としての健康も必要で、車の両輪と同じく、健康とパフォーマンスという両輪を同時に回すことが大事だという考え方に変わってきています。

石川:両方を上手く回すためのコツやポイントってあるんですか?

島津:仕事に対しての向き合い方が大事です。仕事を「やらなければいけない」といった、追われる対象として受け止めるのではなく、「仕事の意義」を突き詰めて向き合うのです。

石川:仕事の大義や目的を考える、と。

島津:そうです。電通さんの場合は、「お客様のために」という考えがあるとおっしゃっていましたが、「その先に何があるの?」というところまで考えていくことが大切です。

石川:ありがとうございます。実際電通の中では、このバイタリティという言葉を出したとき、どういう反応がありましたか?

和田:バイタリティという言葉は、受け手によって色々捉え方が変わってくるので、定義書を作ったうえで、社員とコミュニケーションを取りました。バイタリティといっても、「根性があれば何でもできる!」や「気合いで全て乗り切る!」「体力が続く限り勝負する!」といったことを言っているわけではありません。新しいことへの興味を失わない、好奇心に溢れている、変化を楽しむ、前向きに挑戦する。こういった働き方を目指していると伝えました。

石川:バイタリティを定義し、伝えたんですね。実際この後どういう施策をしていったんですか? 具体的な事例を教えてください。

和田:コンディショニングについては、「バイタリティノート」というアンケートシステムを作りました。社内のイントラを開くと、「最近の生活満足度はどうですか?」のような質問が出ます。それに対して、6段階のニコちゃんマークが出てきます。その日の状態に自分にあてはまるものを選んで「今日はこれ」とボタンを押すと、回答が溜まっていく仕組みです。質問内容は石川先生と一緒に作らせてもらいました。睡眠状態、日頃笑っているかどうか、生活満足度はどうなのか、あとは仕事でフローの状態を作り出せているか、つまり夢中になっているか、などですね。他にも人間関係ややりがい、成長実感などもあります。こういった質問を1日1個聞いています。これによって、自分の調子を後から可視化できて、セルフコンディショニングができるようになります。今は、データをどんどん溜めているところですね。

石川:合計10問あるんですけど、毎日10問に答えるわけではないですよね。

和田:毎日10問だと、多分社員に怒られます(笑)。1日1個だから答えてくれていますね。

石川:私も最初にこのプロジェクトに入らせてもらったときに、電通さんからいただいたお題が「毎日社員にアンケートを取りたい」といったものだったんですよ。「前代未聞の試みだな」と思ったのと、あともう1つ私が感じたのは「本気なんだな」ということでした。データを取るのは、何事においても基本です。質問内容の候補はいっぱいあったんですけど、絞って決めていきました。島津先生は、こういった施策についていかが思われますか?

島津:これはいい試みだと思います。毎日アンケートに答えて、フィードバックができるわけじゃないですか。セルフモニタリングといった形で、自分自身の生活を振り返る。そして行動変容に繋げていくことができます。

電通さんってけっこうイケイケの職場かなとは思いながらも、「思いやり」の質問項目が入っているのが興味深いと思います。というのも、成果主義の組織だと、自分1人がプレイヤーとして目立つことに集中してしまうと思うんですけど、「思いやり」は利他的な行動ですよね。そうした行動をきちんと尊重するのは、大事な要素だと思いました。

石川:この10項目を使って、全国の会社員を対象に、1万人調査をやってみました。1万人って多いなと思ったんですけど(笑)。

和田:石川先生が1万人やろうって言い出しましたよ!(笑)。

石川:そうでしたっけ?(笑)。でもまあ1万人やってみて驚いたのが、外から見ると広告代理店はきっと激務で、睡眠も少なくて大変なんだろうなと思ったんですけど、10項目全てで電通社員は全国平均を上回っていました。働き方改革がある程度進んだ後に取ったのも大きいとは思うんですけど、イメージにとらわれずに、データをきちんと取って歩みを進めていくのが大事だと思いました。

そういう観点から、島津さんにお伺いしたいです。心の状態をデータで取るとなると、様々な項目があって、百花繚乱じゃないですか? 私たちはどういった視点で項目を選んでいけばいいんですかね? 何かポイントはありますか。

島津:このモニタリングをやることで、何を予測したいか、何を見たいかを最初に考えておくことでしょうね。もう1つは、電通さんの働き方、価値観といった実態に沿っているかどうかが大事です。その両方の視点から考えるのが大事だと思います。

石川:なるほど。データを取ることは目的ではなく、データを取った上で何を目指すかが大事ということですね。和田さん、お話の続きを聞かせてください。

ストレスとエンゲージメントの密接な繋がり

和田:1万人に調査したときの話を続けようと思います。先ほどご紹介したバイタリティスコアの質問以外では、ストレスを測る項目や、仕事のパフォーマンスの状態がどうなのか、といったスコアを取り、バイタリティスコアとの相関を見ました。ストレスを測る項目というのは、いわゆる「ストレスチェック」で使われるものを活用しました。その結果、バイタリティスコアは、ストレスにも、仕事のパフォーマンスにも相関があったのですが、仕事のパフォーマンスの方が、より相関が高い、という結果でした。

石川: ストレススコアとパフォーマンスの相関よりもバイタリティスコアとパフォーマンスの相関のほうが強く出ているんですね。ということは、いわゆるストレスチェックでは捉えていない何かをバイタリティチェックで捉えていると考えていいんですか?

和田:そうなんです。ストレススコアとバイタリティスコアの間は、負の相関があります。ストレスが強い、つまりストレススコアが高いと、当然バイタリティが高まらないということなのかもしれません。

石川:なるほど。ここで永山さんにお伺いします。特に電通さんはクリエイティブなものを生み出すことが多いわけじゃないですか。そのときのストレスとの関係ってどうなんですか。ストレスが全くないとクリエイティブが生まれない、と聞いたことがあります。とはいえ、多すぎても辛いです。

永山:みなさんも知っているかもしれませんが、ストレスはありすぎても無さすぎてもダメです。特にクリエイティブについては、それが顕著です。

ストレスの原因って、例えばプレッシャーであったりとか、上司の聞き分けが悪かったりとか、自分がいる状況の制限から来るものです。その制限をどう越えていくかにクリエイティブが生まれると思いますが、そこで鍵になってくるのがリーダーの存在です。チームのリーダーが物事をポジティブに捉え、チームにいい働きかけをすることで、ストレスや制限がクリエイティビティに転換されると言われていますね。

石川:リーダーの強い意思や楽観性が大事なんですね。島津さんは、ストレスとエンゲージメントの両方を研究されていますが、組織へのマイナス、プラスをどのようにお考えですか?

島津:最近のエンゲイジメントの流れで言いますと、ストレス、いわゆる刺激の中身を分けていこうといった流れがあります。チャレンジングな刺激と、妨害的な刺激、つまり人間関係の辛さなどの「あったら嫌」な刺激を分けていこうとしています。

石川:ストレスを一律に捉えるのではなく、ストレスの中でもいい刺激と悪い刺激を分けようという話ですね。その話と、エンゲージメントやバイタリティといったプラスの話はどういった関係になるんですか?

島津:挑戦的な刺激はエンゲイジメントを高める一方、妨害的な刺激はエンゲージメントを下げてしまいます。

石川:そこは密接な繋がりがあるということなんですね。和田さん、すみません、続きをお願いします。

和田:バイタリティノートは、回答者に自分のコンディションを振り返ってもらうことも目的の1つにしています。また、匿名で実施していて、誰がどの回答をしたというのは会社は把握していません。ただ、リーダーがチームごとの状態変化を把握するために、組織単位では特定できるようにしています。

面白いことに、結果を溜めていくと、組織によって特徴が分かれていくんです。今後はバイタリティの項目それぞれの高低の要因がどこにあるのか、相関関係を特定できるように、データを溜めていきたいです。睡眠などの日常の行動を記録する活動量計と連携させて、何がバイタリティを上げるのに効果的なのかを探している最中ですね。また、バイタリティの高いチームには、どういう取り組みを行っているかをヒアリングするようにしています。

強いチームのコミュニケーションは“反応すること”が重要

石川:そういったチームは、何をやっているんですか?

和田:ランチに行くなど、アナログな取り組みが多いです。コミュニケーションの重要性に気付きましたね。この気付きから、最近上司に言われて嬉しかったことをアンケートで回収して、その中で面白かったものや特徴的だったものを会社の玄関に貼る取り組みをしました。

石川:それは面白いですね。どういう声かけが嬉しかったのかを聞くんですね。先ほど永山さんがおっしゃった通り、上司、すなわちリーダーの役割はチームの中で大きいですしね。ストレスフルな状況の中で、かけられる言葉が嬉しいわけですから。

和田:「みんな褒められたいんだなぁ」と感じました(笑)。「よくやった」とか、「グッジョブ」といった言葉は大切なんだと思いましたね。

石川:私もこれを見させていただいて、それぞれの言葉にエピソードもついているんですけど、まとめると3つくらいになるなと思ったんですよ。

1つ目が、「頑張ってるな」。

2つ目が「いつも見てるぞ」。

3つ目が「期待してるぞ」。

これらが、言われて嬉しい言葉として多く挙がっていましたね。

和田:あとは「責任は俺が取るから」とかですかね(笑)。色々と出てきて、発見がありました。

石川:そうですね。そしてこの流れで、理想の上司像も聞いたんですよね。こういう振る舞いをする上司が最高、というのをこれもまた3つ特徴を見出しました。「任せてくれる」「見守ってくれる」「責任を取ってくれる」の3つでした。これは電通だけじゃなく、他の会社でもそうなのかなーと思いますね。こうやって一人ひとりの声を拾っていくのは、発見も色々あって面白いですよね。

和田:そうですね。あと、褒めているつもりでも、受け手はそう思ってなかったということもあるんだと改めて発見しましたね。

石川:永山さんはどうですか? ゼミで学生を接する立場としてお聞きしたいです。

永山:まさに、今非常に困っていることで。基本的に僕、ディスり気味なので、かなり学生のやる気を削いでいるらしいんです(笑)。こっちは普通に接しているつもりなんですけどね。

去年、新しくゼミに入ってくる子たちの面接を僕がやったんですけど、「圧迫面接である」という噂が学生の中で流れたらしいんです(笑)。相手がどう受け止めているかは、自覚的にならないとダメですね。自分の一言が相手をどう思わせるのか、事前に考えて話すよう、気をつけたいです。

石川:そこの配慮を大切ですよね。島津さんはいかがお考えですか?

島津:今日、うちの学生も見に来ています(笑)。先ほど石川さんが3つにまとめられたいい上司からの言葉ですが、全部ちゃんと上司が部下を見ていることが分かる内容なんですよね。

行動科学の中で一番よくないとされるのが、無反応です。一番困るんですね、無反応が。ポジティブなものであれ、ネガティブなものであれ、フィードバックがきちんとあるというのがまず大事です。逆にフィードバックがないことが人を不安にさせます。自分はどうすればいいんだろうかと迷わせてしまいますよね。その上で、ちゃんと見ているよというサインを出すことはとても大事です。

石川:なるほど。実際の現場で考えると、なんて声をかけたらいいかは人によって違うわけじゃないですか。

和田:同じことを言われてもね。効果が薄いこともありますし。

永山:玄関に貼られた言葉の一覧から選んでいったとして、「玄関に貼られていたやつだ」って思われても嫌ですしね(笑)。

石川:そうですよね(笑)。だからこそ個別性と一般的指針の両方が大事ですよね。和田さんは現場でやられていると思うんですけど。他にはどんなことをされていますか?

和田:とにかく寝てほしいという気持ちも込めて、希望者にウェアラブル計測機を貸与したり、睡眠講座をやったりしましたね。あとさっきの集中の話じゃないんですけど、人の雑談が自然と生まれるような導線の空間と、逆に孤独になり集中できる空間の2つを、ワンフロア使って実験的に設計しました。「コミュニケーションが増えた」「集中力が上がった」などの声をいただいております。

他には、朝ごはんを100円で販売してみたり、運動を促進したり、色々な施策の良し悪しを振り返って、継続、撤退を繰り返しながら、日々試行錯誤していますね。

石川:色々やられたんですね。ありがとうございます。島津さんにお伺いします。データを取るフェーズが最初にきて、その後にナレッジが溜まりますよね。この後、アクションをどう構築していけばいいか、何か指針になる考え方ってあるんですか?

データ分析の後にくる難関“アクション構築”のコツ

島津:以前、厚労省からアクション構築に関する研究を依頼されて、6人くらいのチームで研究をしてきました。医療・福祉(看護職),情報通信(システムエンジニア),卸売業・小売業の3つの業種の方に対して、こんなアクションを打つといいよっていうガイドラインをちょうど出したところです(註:「労働生産性の向上に寄与する健康増進手法の開発に関する研究」)。

石川:どんな内容か教えてもらってもいいですか?

島津:大きく分けて4つの手法を提案させていただきました。チームに向けたものが2つ、個人に向けたものが2つですね。

まずはチームに向けたものから。ストレスチェックを有効活用して、チームの強みを分析して、その強みを使って何ができるのか「参加型のワークショップをやりましょう」というのが1つ目。2つ目は、先ほど思いやりというものがありましたけど、お互いを尊重し合える環境を作るために何をしたらいいかというマニュアルを出しました。

個人に対しては、「ジョブ・クラフティング」という言葉が最近経営学でも言われていて、自分の仕事をやりがいのあるものにするための手法の実践を進めています。それからまさに思いやりのある行動、利他的な行動をどう増やしていくかですね。

石川:すごく面白いです。目の前にある仕事を意味のあるものにクラフトするって可能なんですか?

島津:難しいようで、実はちょっとしたこと工夫で可能になるんです。大きく分けて3つのやり方があると言われています。1つは仕事の手順を一工夫する。例えばディズニーランドのお掃除のスタッフは、時々ほうきに水をつけて地面にミッキーマウスの絵を描くというのは有名な話だと思うんですけど、ちょっと掃除に一手間加えることで、お客さんとの距離を縮めていく、変えていくというのが結果的にエンゲイジメントに繋がっていくんですね。

石川:面白いですね。より効率的にするのかなと思ったんですけど、そうではないってことですね。

島津:効率化ももちろん方法としてはありますが、逆に一手間かける工夫によってエンゲイジメントを高めることもできます。2つ目は人間関係ですね。やり方1つ変えることでお客さんなど関わる人との距離を縮めていく。3つ目は認知と言われるもので、ものの見方を変えていくことです。レンガ職人に「なんでレンガを積んでいるの?」と聞いたときに、「それが仕事だから」と答える人もいるし、「教会を建てるためです」と答える人もいる。同じレンガを積み上げるだけでも、教会を建てる見方のほうが、仕事の意義を高めていくということですね。

石川:なるほど。ちょっとした視点の違いですよね。永山さん、クリエイティビティの観点から言うと、もちろん孤独は大切だとは思うんですけど、どういうチームで組むとクリエティビティを発揮しやすいとかはありますか?

永山:これは、腐るほどたくさん研究があるんですけど、その中で僕が今頭に浮かんだものを紹介します。もしかしたらご存知かもしれませんが、学術研究を行う1億のチームを調査し、既存の流れを大きく変えるような破壊的なアイデアを起こすチームと、これまでの研究の成果を一歩進めるような改善型のチームの違いを明らかにした論文があります。その論文によると、少人数であるほど破壊的なアイデアが生まれやすくて、大人数なほど改善的なアイデアが出やすいという結果でした。確固としたエビデンスとして、そういった傾向が出ています。

石川:なるほど。ということは、新プロジェクトでキックオフしましょうっていうときに、いっぱい人が集まったら、たいしていいものは出てこないということですよね。スモールチームの最適な組み方ってあるんですか? スモールだからこそ一緒に組む人は大事だと思うんですが。

永山:それはいい質問ですね。すごく深い、今でいう人工知能とかの、カッティングエッジなスキルを持っている若手と、手練れのベテランが一緒に組むとイノベーティブな結果が生まれやすいそうです。

石川:言い換えると、狭く深く知っている人と、広く色々知っている人の組み合わせってことですね。島津先生は、厚生労働省のガイドライン作成にあたって、チームをどう組まれたんですか?

島津:生産性と健康の両方を上げるために、理想状態となるキーワードとして「Work Engagement」を設定しました。このキーワードの実現のために、必要な領域から、必要なメンバーを選んだのです。領域は当然産業保健、そして行動科学が入ってきます。それ以外に面白かったのが労働経済学、それからAIなんかを扱う情報科学の先生ですね。そういった方々にも入っていただきましたね。

石川:研究というと、狭い分野の人がいっぱい集まるイメージなんですけども、そうではなかったと。

島津:「人が活き活きと働く」というテーマにおいては、いろんな分野の方が工夫していることが分かったんですね。結果的に「活き活き働く」というキーワードで、いろんな人と繋がれたプロジェクトでした。

石川:なるほど。では最後、和田さんにも色々聞いていきたいと思います。まず面白いなと思ったのが、問題が生じると、その問題の対処に追われるじゃないですか。それをしながらも、中長期を見据えてサステイナブルに、バイタリティプロジェクトというものをやられたと。やってみてどのくらいですか?

和田:バイタリティスコアを記録し始めてからちょうど1年くらいですかね。

石川:どうですか? ご自身のバイタリティの推移を見られて。

和田:見ていくうちにだんだんパターンが出てきていることに気が付きましたね。でも、みんながそういうわけでもないんです。

例えば、私の場合だと、月曜日は質問に関わらずなんとなくネガティブな回答になっています土日が終わって、月曜はやっぱりブルーな気持ちである。本人は一生懸命、空元気を出しているつもりでも、データを見て初めて気が付きましたね。

石川:もちろん人によっては月曜日にハツラツとされている方もいますよね?

和田:いますね、そういう方も。曜日に関係なく常にバイタリティが高い人もいますね。

サザエさん症候群の対処法

石川:今の話で島津先生にお伺いしたいのが、月曜日が辛い人って多いですよね。先ほどの「働くと休む」のテーマにもなりますが。

島津:そうですね、これは重要なテーマです。古くから産業保健では、サザエさん症候群といった言葉があります。サザエさんを見ているとだんだん次の日のことを考えて、メンタルがやられていくことを指します。このサザエさん症候群の研究が最近進んでいて、どのように土日でリフレッシュをすれば、月曜日からパフォーマンスを上げられるか、分かりつつあるんです。

石川:そうなんですか? つまり週末の過ごし方ってことですよね。

島津:そうです。これはディタッチメントと言うんですけど、どうやって仕事と適度な距離を置くかということです。その距離の置き方が重要であることが、研究によって少しずつ分かってきました。

休み方は、その人がどんなお仕事をしているかによって変わってきます。具体的に言うと、肉体労働が主となるお仕事なのか、頭脳労働なのか、あるいは気持ちや本音を隠さなきゃいけない保健医療職といった感情労働なのか、などです。頭脳、体、気持ちのどこを使っているかで、どこをディタッチすべきか変わってきます。体をよく使っている人たちだったら、少し体を休ませるディタッチメントが大事になってきますし、対人交渉など人に向き合っているようでしたら、週末は1人で家にこもってみるといいです。頭脳労働でしたら、頭を解放させる、つまりぼーっとしてみることが大事ですね。

石川:それは非常に面白い。つまり、自分の疲労度というものを頭と体と心で分けて、それに応じてリカバリーを図っていく。そういう時代になってきているんですね。こういうことってスポーツ界のトッププレイヤーがやってそうですよね。

島津:おっしゃる通りですね。この領域は石川さんも詳しいと思います(笑)。

石川:そうですね。スポーツ選手もグラウンドの中でのパフォーマンスよりも、グラウンドの外での時間が長く、そこでどういう過ごし方をするかが大事と言われています。

島津:そうですよね。ちょうど陸上の為末さんとお話ししたときに、試合以外のオフの過ごし方が重要だとおっしゃっていました。

石川:働き方と休み方というのは、分けて考える部分もあるし、接続をうまくしないといけないという話もあります。

永山さん、クリエイティビティの領域で最後にお話したいことはありますか?

永山:無茶振りですね(笑)。チームの組み方の話に戻るんですけど、この前、ある学者さんにインタビューをしました。研究グループにどういう人を入れるか聞くと、「いい人で独立している人」を入れるべきと言っていました。「独立」というのは、さっきの孤独とか、意義を自分で確立するとった話と同じなんです。「いい人」というのがポイントらしくて、そうでないとグループの雰囲気を壊してしまうっていうことだったんですね。

石川:それは面白いですね。独立心がありながらも、いい人って一見すると相反してそうじゃないですか。

永山:僕なんか1人でいると性格がどんどん悪くなってきます(笑)。それじゃダメで。いい人でいる努力をしないと、チームとしてパフォーマンスを発揮できないんですね。

石川:まさにバイタリティプロジェクトで言う、思いやりですよね。ここで話が繋がりましたね。ありがとうございました。

 

セッションの最後に、登壇していただいた4人に「明日からの行動変容」をテーマに色紙にメッセージをいただきました!

 

石川氏「ウェルビーイングとは“Mr.Children〜矛盾を超えて〜”」

ウェルビーイングな働き方をするには、矛盾を乗り越えないといけないと思いました。「健康とパフォーマンス」、「孤独とチーム」、「独立心といい人」など、一見すると矛盾する2つの価値観を乗り越えていく。これすればいいという正解よりも、矛盾を一つひとつ乗り越えていくことなのかなと思ったのでMr.Childrenで表現しました(笑)。ミスターなのにチルドレンみたいな。矛盾を超える歌が多いんですよ、Mr.Childrenって。だから僕は今日からもっとミスチルを聞こうかなと思います(笑)。

 

島津氏「主体的な朗働」

普通に働くんじゃなくて、朗らかに働こうということですね。仕事に向き合うときに、嫌々向き合うのではなく、その仕事にどんな意義があるのか、自分で見出していく。そういったことが大切だと思っています。

 

永山氏「孤独になろう 良い人になろう」

今日話した内容を簡潔に書きました(笑)。いい人についてもう少し解説させてください。「間接的互恵性」っていう言葉があります。自分がいいことを人にしたら、その人からいいことが返ってくるっていうのが「互恵性」。「間接的互恵性」とは、自分がいいことをしたときに、その人から返ってこず、別の人にいいことが回るかもしれないという意味です。自分には返ってこないかもしれないけど、それでもいいことをする。それが回り、結果チームが良くなるので、いい人であることは大切だと思います。

 

和田氏「雑談が職場を救う」

いい雑談をしていると実はバイタリティが上がることが、バイタリティノートの調査によって分かりました。職場って、必死になって効率を上げますよね。そうしていると、一見無駄と見られる雑談はないんです。一方で、非効率のように見えますが、雑談があることで、先ほど話した承認だったり、利他が生まれるのかなと思います。こればっかりしてちゃダメですけどね(笑)。

 

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