7月5日(金)、渋谷ヒカリエで行われた世界最大規模のチームカンファレンス「PxTX」。業界を越境し、豪華ゲストたちが多様な視点で「これからのチーム」を語り合ったこのイベントでは、数々の記憶に残るセッションが行われました。この貴重なセッションをもっと多くの人に届けるべく、今回特別にDIO編集部がセッションの内容を“ほぼ”完全レポートしちゃいます!第1弾は、スポーツ界を率先するリーダーたちによる、「勝つチーム」を巡るディスカッション。スポーツチームとビジネスチーム、両方の視点を行き来するトークから、どちらにも共通する勝つチームの秘訣とこれからのリーダー像が浮き彫りになってきました。セッションの幕開けに相応しい、読めばなぜかやる気が湧いてくる充実のトークをどうぞ!

SPEAKER

株式会社今治.夢スポーツ代表取締役会長 岡田 武史氏

1956年大阪府生まれ。ユース日本代表やユニバシアード日本代表などの経験を経て、日本サッカーリーグで幾度と優勝を勝ち取る。現役引退後は、指導者の立場として複数のチームでコーチを務める。 コンサドーレ札幌や、横浜F・マリノスなどで優勝を経験し、2004年にはJリーグ史上初の3ステージ連続優勝を果たす。2007年には日本代表の監督に就任。2010年のFIFAワールドカップ南アフリカ大会 にてベスト16の成績を残す。現在は株式会社今治.夢スポーツの代表取締役を務める。 ほかに、デロイトトーマツコンサルティング株式会社特任上級顧問や早稲田大学総長室参与 など。著書に『勝負哲学』(サンマーク出版)など多数。

 

日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター         株式会社チームボックス代表取締役  中竹 竜二氏

1973年福岡県生まれ。早稲田大学卒業、レスター大学大学院修了。三菱総合研究所を経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任し、自律支援型の指導法で大学選手権二連覇を果たす。 2010年、日本ラグビーフットボール協会 「コーチのコーチ」、指導者を指導する立場であるコーチングディレクターに就任。 2012年より3期にわたりU20日本代表ヘッドコーチを経て、2016年には日本代表ヘッドコーチ代行も兼務。 2014年、企業のリーダー育成トレーニングを行う株式会社チームボックス設立。2018年、コーチの学びの場を創出し促進するための団体、スポーツコーチングJapanを設立、代表理事を務める。 ほかに、一般社団法人日本ウィルチェアーラグビー連盟 副理事長 など。最近の著書としては『FCバルセロナ 常勝の組織学』(解説担当)など多数。

 

株式会社千葉ジェッツふなばし代表取締役会長 島田 慎二氏

1970年新潟県生まれ。日本大学卒業後、1992年株式会社マップインターナショナル(現・株式会社エイチアイエス)入社。 1995年に退職後、法人向け海外旅行を扱う株式会社ウエストシップを設立し、2001年に同社取締役を退任。 同年、海外出張専門の旅行を扱う株式会社ハルインターナショナルを設立し、2010年に同社売却。 同年にコンサルティング事業を展開する株式会社リカオンを設立。2012年より現職。 株式会社ジェッツインターナショナル代表取締役、特定非営利活動法人ドリームヴィレッジ理事長、公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)理事、2017年9月より、Bリーグ副理事長(バイスチェアマン)就任。 2018年3月15日をもって同職退任。 2018年3月19日、一般社団法人日本トップリーグ連携機構 理事就任。

 

株式会社フットボールクラブ水戸ホーリーホック 強化部長 西村 卓朗氏

1977年東京生まれ。 現役中は浦和レッズ、大宮アルディージャ、コンサドーレ札幌、アメリカ2部チームでプレー。 2009年にはFリーグの湘南ベルマーレでもプレーを経験。2004年(大宮)、2011年(札幌)では2度のJ1昇格に貢献。 引退後は浦和レッズハートフルクラブで普及部コーチ、2013年~2015年は地域リーグのVONDS市原では監督兼GMを歴任。 2016年よりJ2の水戸ホーリーホックで強化部長を務めている。

 

 

勝つチームと勝ち続けるチームの違いとは?

西村:今日はこれだけの豪華メンバーのセッションということで、会場のみなさんも非常に楽しみにしているのではないでしょうか。1時間では足りないかもしれませんが、今日は「勝つチーム」「優れたリーダー」について話をしていきます。さっそくですが、まずは岡田さんに、我々が携わっているスポーツビジネスにおいて「強いチーム」とは何なのか、ということからお聞きかせください。

岡田:あれ、さっき自己紹介から始めるって言ってなかった?(笑)。

西村:そういえば…(笑)。すいません、これだけのメンバーで緊張しています。

島田:自己紹介は飛ばしていいんじゃないですか? 岡田さんの話聞きたいでしょう(笑)。

岡田:ああ、それが分かってたから、すぐ話を振ったのね(笑)。

中竹:我々もチームなのでね、フォローしていきましょう。

西村:はい、ありがとうございます(笑)。では、岡田さんお願いします。

岡田:勝つ、ということだけを考えれば確率論を突き詰めていけば“勝てるチーム”はつくれます。でも、それだと長続きしない勝ち方になってしまう。かつて、横浜F・マリノスを率いていたとき、僕は強いリーダーシップで引っ張るタイプでした。戦術を考え、サッカーで勝つためには真ん中ではなくサイドから攻めるのがいいという結論に至り、それを選手に教え込みました。というのも、サッカーの得点のうち3〜40%がセットプレイ、残りの5〜60%がカウンターアタック、後ろから崩していく得点は実は10%程度しかないんですね。

だから、なるべくカウンターアタックを受けないように、真ん中ではなくサイドから攻めるようにしたんです。選手は最短距離で攻めたいから真ん中を通そうとするんだけど、僕が「外に出せ!」と言って徹底的にサイドから仕掛けるようにしていました。選手は内心「うるせーなぁ」と思いつつもサイドにボールを出す。でも、そうすると勝つんですよ。勝つようになると選手はどうなるかというと、大事な真ん中を見もしないでサイドにボールを出すようになったんです。監督の言うことを聞いていれば勝てる、という意識が根付いてしまった。そのとき、「あれ、俺はチームを育てているのか?」とめちゃくちゃ悩みました。

戦術を叩き込めば短期的に勝つことはできる。だけど、それだけでは“勝ち続けるチーム”には育たない。だから、監督が戦術を教えるだけではダメなんです。もっと大事なのは、理念や哲学といったものが選手たちの中から出てくること。上から与えるのではなく、メンバー個々の中からそういったものが出てくると“勝ち続けるチーム”になるのかな、と思っています。中竹さんはどうですか?

中竹:私は、早稲田大学ラグビー蹴球部の監督が最初の指導者経験です。それまではサラリーマンでしたので、全くの未経験からの監督スタートでした。岡田さんのような強いリーダーシップで引っ張るということが全然できませんでした。練習や試合中で指示も出せないので、選手を支える、見守るという究極のフォロワーシップの考えで選手と接していたのです。選手たちに自ら考えてもらう、という環境を最初から作ることをしていました。

その結果、時間は掛かりましたが「自分たちがやらなきゃ」「この監督を勝たせなきゃ」という意識が選手から生まれました。最初のころは、グラウンドで私自身が指導をしているときに「(指導が)つまらない」「分かってない」と言われるときもありました。でも、彼らからすればそれは「自分たちが引っ張っていく」という思いの芽生えでもあったわけです。監督就任2年目には大学選手権で優勝できたんですけど、「監督、勝たせてやったぞ」と肩をバンバン叩かれるような、そんな雰囲気でしたね。つまり、私は岡田さんとは真逆のタイプでしたので、リーダーとしてのやり方はいろいろあるんだと思いますね。

 

 

選手、社員同士が折り合いをなす「生物的組織」

岡田:僕は強烈なリーダーシップを発揮するタイプから、選手の自主性を引き出すタイプに変わっていった。中竹さんは逆に選手の自主性を引き出すタイプから始まっていて、お互い違う方向から同じような指導者になっていったね、ってさっき話してたんですよ。

西村:面白いですね。リーダーシップの発揮の仕方、リーダーとしての歩み、それぞれ人によって全然違う。島田さんはどうですか?

島田:私は経営者なので、ビジネスのチームという観点でお話しします。私が代表に就いた7年前、千葉ジェッツふなばしは経営状況がとても悪く、潰れかけと言ってもいい会社でした。「スポーツで儲かるはずがない」、「バスケというマイナースポーツにスポンサーがつくわけない」というネガティブな雰囲気が漂っていた。ですので、まずはマインドセットするところから始めなければいけませんでした。当時は栃木の宇都宮ブレックスに追いつけ、とがむしゃらにやって、なんとか5年程度で追いついた。

追いかけているときは私がリーダーシップを発揮したけど、今は1番になってまたチームづくりが難しくなってきたと感じています。危機感を持て、と言ってもどこか慢心が生まれる。上がっていくチームのつくり方と、上がった後の勝ち続けるチームのつくり方は別。そこをチェンジできないと、チームは崩れ始めます。我々は今、勝ち続けるための戦いに挑みながら、勉強しているところです。

西村:スタートアップで考えると避けては通れない混乱期があると思います。みなさんそれぞれ、混乱期を経験されていると思いますが、どのように乗り越えてきましたか?

岡田:FC今治は今も混乱していますよ(笑)。島田さんのお話にもありましたが、我々は今5年目で、時期によって組織のあり方、リーダーシップのあり方を変えていかなければいけないと感じています。この3人ともそれぞれリーダーとしてのタイプは違いますが、行き着く先は同じ絵を描いていると思っている。何かというと、僕なりの言い方をすると「生物的組織」。

以前、生物学者の福岡伸一さんから「岡田さん、知っていますか。日々、人間の体では細胞が生まれ変わっているけれど、脳は何も命令してないんです」という話をされたんです。僕は「え? どうやって細胞は生まれ変わるんですか?」って聞いた。すると「細胞同士が折り合いをなして、形をつくっている」って言うんです。その話を聞いて、細胞が選手、脳が監督だとすると、選手同士が話し合って何かしらの形をつくっていく、そういう「生物的組織」という考え方もあるな、と思いついたんです。監督、経営者が引っ張る時期も必要だけど、ある程度安定したら選手、社員が自ら折り合いをなしてチームをつくっていけるようにしなければいけない。

木の年輪は成長につれて幅が広くなって柔らかくなります。成長が早い木ほど、年輪の幅が広くて倒れやすいんです。逆に、じっくり成長した木は年輪の幅が狭くて倒れにくい。そうした倒れにくいチームは僕ではなくて、選手や社員たちがつくっていくんだ、とこの前社員に話をしました。自分自身はそういう考えを持って、今チームづくりに取り組んでいますし、伸びる時期、混乱期、安定期など時期に応じていろいろなリーダーシップの取り方があると思います。

 

勝つリーダーは「ベストを尽くせ」と言う

西村:せっかくなので、ぜひワールドカップの話もお聞きしたいです。1997年、急遽日本代表の監督に就任。あの時期のマネジメントで大変だったこと、どう選手と接していたのかお聞きしたいです。

岡田:カズのこと聞きたいの?(笑)。あのときは、まさか自分が監督になるとは思っていなかった。41歳のおじさんが突然監督をやっても無理だと思ってました。脅迫状も届くし、家族にも迷惑をかけていました。ワールドカップの最終予選でジョホールバルに向かうとき、「これで負けたら日本に帰れない」と思って、「負けたらしばらくこちらに残る」と家族にも連絡していたぐらいです。そのくらい考え込んでいたときにふと「でも、ここまでやったんだから、明日は自分の最大限を出し切るだけだ。それでもダメなら、国民みんなに謝るしかない。それに、俺のせいじゃなくて俺を選んだ会長のせいだ」って、吹っ切れることができたんです。それは、「遺伝子にスイッチが入った」感覚と言ってもいい。今から振り返ると、あそこから自分の人生が変わり始めたんです。

その後、采配がどうだ、経験のないやつが監督をやってどうなんだ、カリスマ性もない、いろんなことを言われました。確かにあのとき、自分には理論しかなかった。今振り返って、あのときやっていたことが正しかったかどうかは分からないけど、自分の中でできうる限りのベストを尽くしました。その結果のあの人選で、もちろんカズを尊敬していたけど、勝つためのベストを選択しよう、とただそれだけでした。

中竹:「ベストを尽くす」という言葉が出てきましたが、この考え方はまさに勝つリーダーの考え方なんです。私は、リーダーやコーチをコーチングする仕事をしているのですが、「勝つ勝つ」と言っているリーダーは勝てません。そうではなく「とにかくベストを尽くそう」と言っているリーダーが勝てるんです。これは、脳科学にも大きな違いが見られるようです。「勝つ」ということは結果論なので、相手ありきでコントロールができないからどうしても脳が萎縮してしまう。一方、「ベストを尽くす」は自分の話なのでコントロールできる。私も同じで、32歳で監督になって岡田さんと同じように「これで勝てなくてもしょうがない」という気持ちがあった。だから、「私は戦略も分からない。ごめんね」と選手たちに言いながら、自分はひたすら選手が自ら考えて、行動する環境を作ることに集中していました。それしかできないと腹を括っていました。

西村:これから初めてリーダーになる人も多くいると思いますが、2人の経験はとても勇気づくと思います。島田さんは、混乱期を経営的な視点でどう改革していったのか教えてください。

島田:私も覚悟を決めて経営には携わりました。最初は親会社から「困ったときは援助するから」と言われて、それならいいかと始めたんですけど、状況が変わって支援を受けられなくなってしまった。話は違ったんですけど、辞めるか、それでもやるかと二択になったときに「自分でやるしかないな」と腹を括って、土下座でもなんでもして1円でも多く集めてやる、という覚悟を持ったんです。そこから行動も変わったし、たぶん迫力、思いやパッションも違ってきたんじゃないかと思うんですよ。経営者の覚悟、監督の覚悟はどんなレベルであっても必要だと思います。

ここにいらっしゃるみなさんも「部下と向き合ってる?」と聞かれたら、多くの人が「向き合ってる」と答えるはずです。「本気で?」、と聞いてもまだ多くの人が「はい」と言うでしょう。では、「死ぬ気で?」と聞かれたらどうでしょうか。すんなり「はい」と言える人はどれくらいいるでしょう。それほどの強い気持ち、覚悟を骨身に染み込ませて持っているかどうか、が重要だと思っています。

リーダーとしての覚悟と本当の“幸せ”

西村:もう少し具体的な視点で、みなさんは選手や社員一人ひとりとどのようなコミュニケーションを取っていましたか?

岡田:代表、クラブ、会社、それぞれで選手、社員との接し方は違いがあります。代表チームは、僕が1回選んで、それでダメだったら次は選ばない。ある意味突き放して接します。2010年のワールドカップでは、今の力では勝てないと思って「球際で勝つ」、「一人ひとりが1km多く走る」、「中距離パスの精度を上げる」この3つを高めると目標を立てました。選手からすれば、普段はクラブチームで練習をするなかで、代表に求められるこの3つの目標にもチャレンジしなければいけません。しかも、2年後に選ばれるかどうかも分からないワールドカップに向かって、です。クラブでもいろいろ要求されて、その後に代表に向けた練習をしなければいけない。どうしたらみんな代表のためにやってくれるかと考えたときに、「本気でベスト4を目指すやつと俺はワールドカップに行く」と決めたんです。そう決めてから、選手に対して手紙も書いたし、直接会って話もしました。遠藤保仁は当時お腹がぷよぷよだった。「お前、それでベスト4いけるか?」って聞くと「ダメかもしれません…」って言って、必死になってトレーニングしてくるんですよ。

いろんな事件も起きますから、「もう二度と来るな」って言った選手もいます。そういうことを乗り越えて、ベスト4を目指していく。だから選手との関係は、ある種一線を引いていました。僕だって、みんなにいい人だと思われたいけど、23人しかワールドカップに連れていけないんです。だから僕は選手の仲人は絶対にしないし、お酒も一緒に飲まないと決めていた。

代表選手は自分なりの考えを持っているからいろいろ言ってくるんです。そういうときは聞いて、正しかったら受け入れる。だけど、違うと思えば「俺はこういう考えをもって代表チームをつくってベスト4を目指している。だから、お前の考えは受け入れられない。それが気に入らなかったら、代表を去ってくれ。怒りも何もしないから」。こういうスタンスを、どんな中心選手に対してもずらさない軸として持っていました。もちろん、コミュニケーションはその分めちゃくちゃ取ります。

よくJリーグの若い監督から「岡田さん、外国人選手が全然ディフェンスをしないんです」って相談されるんです。そういうとき僕は「外せばいい」って言います。そうすると大体「いや、外すとふてくされるんですよ」って返ってくる。そうしたら次は「じゃあ国に返せ。お前にそれぐらいの覚悟がないんだよ」ってアドバイスをしているんです。僕も、かつては個性的な外国人選手を何人も相手にしてきました。みんな、そういう選手を“どう扱えばいいか分からない”って言いますよね。まず、その“扱う”という考え方が違う。自分がどれだけ覚悟をもって接しているか、が大事なんですよ。自分が覚悟を持って接していれば、口に出さなくても相手にはそれは伝わるんです。そういう覚悟が特に代表には必要です。クラブチームは、代表と違って1年間はみんなでやっていくという違う環境なので、もっと綿密にコミュニケーションは取ります。

そして、会社で考えたときに一番の大きな違いは「社員を辞めさせられない」ことです。プロスポーツの世界であれば契約が切れて、いらないとなればチームから離れてもらうことができるけど、社員は違う。そうした環境では一人ひとりとの向き合い方も変わってきます。

実は、1つ大失敗をしたことがあって…。先程島田さんがお話した危機感にまつわることです。ある試合のとき、雨が降ったにも関わらず900人のお客さんが来てくれました。試合が終わると同時に、僕はだーっとお客さんのところに走ってタオルを貸しながら「また来てくださいね」と言って回ったんです。それなのに後ろを振り向くと、社員はのんびりと歩いてる。「なんでだ?」とそのとき思ったんです。「このお客さんたちにまた来てもらえなかったら、このチームはなくなってしまう。なぜ、社員は危機感を持ってくれないんだろう?」。そう考えたときに、僕が自分でやりすぎているんじゃないかって思ったんです。だから、1回社員に自分たちでやってみろ、丸投げしてみたんです。これが大失敗だった。

社員はいきなり丸投げされて、オフィスでずっと頭を悩ませて、なかなか動こうとしない。なぜだろう、とまた考えて、「そうか、丸投げされてすぐに動けるようなやつらばかりじゃないんだ」と気付くんです。そこからはいきなり丸投げじゃなくて、いろんな情報を共有したうえで「あとは考えてやってくれ」というアプローチが必要だと方向転換をしていきました。あの時期は「金儲けじゃなくて、みんなを幸せにするために会社を作ったのに、なんでみんな不幸せになっていくんだ」って悩んだりもしました。

でも、こうした失敗も必要だったと今は思います。幸せって全てが整って、うまくいっていることが幸せではないんです。何かを乗り越える、困難を突破することも幸せなんです。

だから社員満足度を高めて、福利厚生も手厚くしてってそれだけやっても社員は幸せじゃないんですよ。一緒になって何かを乗り越えるという経験が幸せなんです。じゃあ顧客満足度は、と考えたらお客様が何不自由なく…というのが幸せなんじゃなくて、お客さんも一緒になって乗り越える体験をしたら、その人たちは逃げていかない。代表、クラブ、会社、それぞれで選手、社員個々人との接し方も全然変わってきますね。

 

失敗から学んだフィロソフィーの重要性

西村:中竹さんも、何か失敗談があれば教えてください。

中竹:私の場合は、たくさん失敗があります…。その中からピックアップして話をすると、まず早稲田大学ラグビー部監督になった1年目、大学選手権の決勝戦で負けました。そのときは「私のせいだ、中途半端だったな」と思ったんです。その反省もあって、2年目からは1on1を初めて、選手の話を聞くことに徹しました。特定の選手だけではなく、スタッフを含めた全部員とです。人はそれぞれの可能性を持っているので、その人なりの力を出してほしいと考えました。思い返せば、前監督は強烈なリーダーシップのもと統制されていました。そこから突然「自分たちで考えて」というスタンスの監督に変わったわけですから、就任1年目は難しい部分があったと思うんです。先程の岡田さんの話と同じで、考えたこともない人間がいきなり考えてと言われても、難しいんですよ。そのお膳立てを自分がちゃんとできていなかったな、という反省がありました。そういう思いもあり、1年目で負けたときに、初めて人前で泣いて謝ったんです。

岡田:一緒や! 僕も初めて社員の前で泣いた。何で前もって教えといてくれなかったんだ(笑)。

中竹:そうですね(笑)。でも、実は監督になる前にあるトークイベントで岡田さんのお話を聞いて、先程の「選手を突き放す覚悟で接する」という話も聞いていたんです。それを分かっていたのに、1年目はなかなかできなかった。それで、2年目は覚悟を決めなきゃいけないと思い、1on1で相手の話も聞き、自分からも要望を出すようにしました。「君はそういうタイプだよね。私は監督としてこういうタイプで、全然ダメだ。だから、君も一緒に成長していってほしい」とひたすら言い続けたんです。そうしたら、選手の方がどんどん成長して、最終的には「俺たちが監督を胴上げしてやる」となったんです。

面白かったのは、監督就任3年目のときですが、私自身がメディアから叩かれていた時期があり、選手たちが「メディアごときに言われたくない」って言うんです。彼らは普段から私の悪口をたくさん言ってるんですよ(笑)。「俺らが言うのはいいけど。せっかくだから、勝たせてあげようぜ」という発言が出たんですよ。あ、これってチームだなって思いました(笑)。そのとき、謝り続けてよかったって思いましたね。1年目は選手たちとは、そこまでの関係性の深さはなかったので、2年目で優勝したときに、1年目を共に過ごした選手にはひたすら謝りました。

西村:せっかくですので、島田さんからもぜひ失敗談をお聞きしたいです。

島田:私は少し前にGM(ゼネラルマネージャー)という役割でチームづくりにも関わっていました。先ほど話したように経営が少しずつよくなって、代表クラスの選手や監督を採れるようにまでなってきた。それで、能力の高い選手や監督を集めるんですけど、全然勝てないんです。なぜか、チームが噛み合わない。その時期は費用対効果の低いチームだ、と言われました。何でだと考えたとき、「会社は軸となる理念を打ち出して同じ方向を向いていたのに、スポーツチームには理念がなくて丸投げだった」と気付いたんです。「いい選手、いい監督を揃えて、あとはよろしく」…これでは勝てないんだと分かった。

それで、チームの理念を作ってカルチャーを築こうとしたんです。その後の監督選びでは、理念に共感してくれる監督を採用するようにしました。どれだけ能力があっても、理念に対する理解がなければ採らない。それで来てくれたのが今のヘッドコーチです。彼は監督経験がなかったけれども、理念に共感してくれたので抜擢しました。そして、チームの理念、ヘッドコーチの哲学に合う選手を揃え、合わない選手にはチームを去ってもらいました。

そうやって、会社、コーチ、選手の思いを一気通貫させていこうと変えた瞬間からベクトルが揃って、一体感が生まれたんです。みんなが共通認識を持ちチームが強くなった結果、天皇杯を優勝して3連覇し、毎年成長しています。カルチャーもようやく生まれつつあるように思います。1年ではなかなかできないけど、今は「千葉ジェッツふなばしと言えば?」と聞かれたときに「こういうバスケをするチーム」と言えるようになってきました。会社経営もスポーツも強いチームをつくるうえで、理念を大事にするというアプローチは共通しているんだな、と実感しています。

 

フィロソフィー浸透の鍵を握る「アティチュード」

岡田:それね、僕は気付く順番が逆だったんですよ。前にFCバイエルン・ミュンヘン(ドイツブンデスリーガの強豪サッカークラブ)の人に「お前のチームのフィロソフィーはなんだ?」と言われてびっくりしたんですよ。「なんでサッカーチームにフィロソフィーがいるんだ?」と思ったんですけど、話をするうちに、チームを強くするにはフィロソフィーがいるんだと分かった。だから代表チームの監督になったときに、フィロソフィーを作ったし、FC今治にもフィロソフィーはあります。その後、経営をし始めて、「そういえば企業ってどこも理念を掲げているよな。あ、会社もフィロソフィーが大事なんだ」と気付いたんです。だから、島田さんとは逆側から気付いていったんだけど、スポーツチームも会社も同じなんだとつくづく思います。

フィロソフィーに関しては、面白い経験もしてます。FC今治は中国のクラブにコーチを派遣しているのですが、シーズンの途中である1人のコーチがどうしても合わないから変えてほしい、と言われたんです。でも、シーズンの途中だし、外からコーチを探す訳にもいかず、我々のところから代わりを派遣しなければいけなくなった。どうしようか、という話を最初は限られたメンバーだけで内々で議論していたんですけど、オフィスの防音がちゃんとしてないから、みんなに話が筒抜けになっていたんです(笑)。そうしたら、あるコーチから電話がかかってきて「岡田さん、なんとなく聞きました。我々のフィロソフィーを読み直したら、『Our Team』という言葉があります。自分の会社だと考えたとき、僕が中国に行くべきだと思います」と言ってくれたんです。僕はその言葉にすがりたい気持ちでいっぱいでした。でも、違う日に別のコーチから「あの人はこっちに絶対必要です。代わりに僕が行きます」って言われて「ちょっと待て、犠牲心で行くのは違うぞ」なんて話をしていた。

このままでは収拾がつかないと思って、社員に対して全部情報をオープンにしたんです。「経営状況を考えると、中国に代わりのコーチを派遣しないといけないけど、どうすればいい?」とみんなで考える機会を作った。最終的には1番最初に声を上げてくれたコーチが中国に行くことになって、残ったメンバーが「僕たちががんばります」と言ってくれました。こうした状況は、フィロソフィーがなかったら生まれていないと思います。ただ権限を与えて、フラットな組織でやりましょう、と言っても機能しません。フィロソフィーを作って、情報をいいも悪いも含めて公開して、初めて機能し始めるんだということを痛感しました。

中竹:フィロソフィーに関する重要なポイントは、どうやって浸透させていくか、ということです。私は組織カルチャーを研究しているのですが、まだまだ未開発ですがいくつか分かってきたこともある。その1つが「勝ち続けるチームには必ずカルチャーがある」ということです。そして、カルチャーがどの部分に体現されているかというと、一人ひとりの“アティチュード(態度)”なんですよ。成果や結果ではなくて、フィロソフィーにもとづいた行動をしているかどうかで浸透度合いが変わってきます。岡田さんはリーダーとして、常に学ぶアティチュード、勝つぞというアティチュード、そしてダメだったらすぐに撤回するアティチュードがある。それらがフィロソフィーにも反映されているはずなんですよ。掲げているフィロソフィーとその組織のリーダーのアティチュードが違ったら、絶対に浸透しません。

僕は今、企業向けにリーダー育成プログラムを提供する「チームボックス」という会社の経営をしています。これは、リーダーとしてのアティチュードの醸成に特化したサービスです。例えば、「弱さをさらけ出しているか」「部下を本気で信じているか」「人のせいにしていないか」…などのアティチュードの醸成です。

こういった考えは、スポーツのコーチを育成するときにも大事にしていて、そうして育ったコーチがスポーツの現場で結果を出しています。私自身が、スポーツの現場で得た知見を、企業に取り入れることを行っています。島田さん、岡田さんの話を聞いていて、まさにリーダーがフィロソフィーを体現して、チームに浸透し、カルチャーが出来上がったということが、スポーツ、企業経営問わず起きているんだと思いました。

 

 

三者三様の自分らしいリーダーシップ

西村:ありがとうございます。そろそろ終わりの時間が迫ってきましたが、リーダーとして成長していくうえで、優れたリーダーとはなんなのか教えてください。

岡田:何度も言いますが、僕はかつて強烈に引っ張っていくリーダーでしたし、そういうのが必要な時期もありました。だけど、今会社で1on1をやりながら分かったことが1つあります。ある社員は外資の金融系企業から転職してきて、ここで経験を積んでいつか起業したい、と言う。ある社員は地元出身で、スタートアップには向かないかもしれないけど、FC今治が好きでずっとここで働きたいと言う。ビジョナリー・カンパニーはある種、そうした違う考えを持つ人のどちらかを排除する側面もあります。同じ考えの人が集まって、ある種宗教的になりながら突き進んでいく。でも、僕はそういうやり方は違うと思った。社員にはいろんな幸せがあり、それに対応できる会社でありたいんです。サイボウズの青野さんは「100人100通りの人事制度がある」と言っています。そこまでは無理にしても、一人ひとりの幸せを考えていきたい。

例えば、新入社員だったらある程度の管理は必要だと思うんです。自主性に任せたいからと、いきなり丸投げしても、どうしていいか分からず、最悪会社に来れなくなってしまう。そうした失敗は我々も経験しています。お客さんに会ったときにどういう挨拶をすればいいのか、など一定期間は管理をしながら教えてあげないといけません。こういった“守破離”でいう“守”の部分を教えることも確かに必要です。ただ、日本だと多くの場合で“守”だけしか教えないという課題もあります。“破離”も教えなきゃいけないんです。

リーダーシップのとり方も相手に対してどうするか、組織のフェーズに応じてどうするか、この会社のために次世代のためにどうするか、を考え続けないといけません。だから、「これ」というノウハウはないんじゃないか、と思います。

西村:島田さんはいかがですか?

島田:私もかつては、生きるか死ぬかの世界でグイグイ引っ張ってきました。そうするしかなかった。そのなかで、1on1をパートやアルバイトも含めて朝から晩まで、毎週必ず丸1日を使う、ということを5年間やってきました。そうやって、個を上げることが業績の向上にも繋がると思い、スタッフが結果を出すためのアプローチをしていったのです。しかし、業績がよくなり、会社の規模が大きくなってきたとき、社員がいつもみんな自分を見るようになっていました。何をするにしても、私の方を見てくる。「俺が倒れたらこの会社どうなるんだろう…」と思いました。

それから、徐々に私以外のメンバーに権限を振っていくようにしたんですけど、そうすればしたで「あの部長とうまくコミュニケーションが取れません」「前の方が、距離感が近くてよかったです」などいろんな意見が出てくる。今は、それを修復している最中です。ある程度までは引っ張っていって、あとはどうやって権限委譲していくのか。社員一人ひとりキャラクターも違うし、そうしたキャラクターに頼ってリーダーシップを発揮する人もいます。ただ、キャラクターに依存したリーダーシップはどこかで疲弊してしまいます。じゃあ、会社としてそれぞれの管理職の人たちに何を求めているのか、そこで管理職として何をすればいいのか、を一つひとつ紐解きながら一緒に会話をしている最中です。

中竹:私の考えとしては“誰でもリーダーになれる”、です。私がつくる組織は、「全員がリーダー」という条件から始まっています。役職は関係ありません。それから、もう1つのリーダーの定義は「責任“感”を持っている」こと。「責任」ではないですよ。

そうしたリーダーの定義を持ち、それに対してどう組織をつくっていくのか、が大切です。ボールが落ちていたときに、みんなで拾おうとするかどうか。そういうカルチャーがウイニングカルチャーだと思います。

6月に発売された「FCバルセロナ 常勝の組織学」(日経BP)という本で解説を担当しましたが、その中で言っていることの1つとして、オーセンティックなリーダー、自分らしく誰のマネもしないリーダーがいるチームは必ず勝つと書かれています。また、非公式なリーダーがいるチームも強い。リーダー、副リーダー以外に、役職はないけど必ず「あの人リーダーだよね」という人がいる。全員がリーダーになればいいと考えます。

西村:3人の貴重な経験談をたくさんお話いただき、非常に有意義なセッションになりました。みなさん、ありがとうございました。

 

セッションの最後に、登壇していただいた4人に「明日からの行動変容」をテーマに色紙にメッセージをいただきました!

西村氏 「多様性」「交流」

業種や職種を問わずいろんな方と交流する。そこから見えてくるものがあると思います。

 

島田氏 「理念」「目標」「行動」

会場のみなさんは、リーダーの方が多いと思います。みなさんの組織の中での存在意義、つまり理念を考えてください。その中でチーム内の目標を明確にし、行動を考える。そうするとクオリティが上がっていくと思います。

 

中竹氏 「自分らしく(オーセンティックリーダー)」

やはり、この3人でもリーダーとしてのあり方は全然違います。それが、自分らしさ。みなさん、全員リーダーになってほしいので、人のマネをすることなく、自分らしく輝いてほしいと思います。人のマネをしたり、何か忖度しているときは絶対にバレます。相手が何も言わないだけで、絶対にバレている。どれだけみなさんが素直で自分らしくあるか、を追求してほしいと思います。

 

岡田氏 「自分が正義ではない!!」

自分が今気を付けていることです。今までは自分が正義だと思っていました。相手が何かを言ってきたときに「それは違うだろ」というスタンスだったが、今は「自分は正義じゃない」と言い聞かせながら、相手の意見を聞くようにしています。僕だけが正義じゃない。自分が「これでいけ!」と言った方が早いと思うときもあるけど、「それは違う、自分は正義じゃない」と言い聞かせるように努力しています。

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