INTERVIEWEE

株式会社グロービス 法人研修部門ディレクター 福田亮氏

慶応義塾大学経済学部卒業。コロンビア大学シニア・エグゼクティブ・プログラム(CSEP)修了。総合化学会社での機能性素材の開発営業、クライアント企業との東南アジアにおける合弁事業の設立、新興企業の経営支援・人材育成に携わる会社設立・立ち上げに従事。現在は法人研修部門ディレクター・大阪法人部門責任者として人材育成に関するコンサルティング、プログラムコーディネーター、講師など、企業内の人材育成全般に携わっている。

実践的な組織づくり戦略や組織改善プラットフォーム「wevox」の活用方法を紹介する「DIO PLAN」。今回お話を伺ったのは、経営者、リーダーの育成を目的とした「グロービス経営大学院」の母体である株式会社グロービスで講師やコンサルタントを務める福田亮さん。長年、さまざまな経営者の育成に携わってきた福田さんは、ここ数年で求められるリーダーシップが変化してきている、と言います。同時に、組織のあり方も変化し続けている中で、今の企業にはどのようなリーダー、そして組織運営が求められているのか? グロービス自身の組織づくりの取り組みと共に、たっぷりと語っていただきました!

 リーダーシップに求められるものが変わってきている

今回は、リーダー育成や組織づくりのポイント、またグロービス自身が「wevox」を活用してどのような組織づくりを行なっているか、お聞かせください。

我々は企業のこれからを担うリーダーの育成を20年以上携わってきました。私も講師として関わっていますが、ここ数年で求められるものが変わってきていると感じています。そんな視点から、いろいろとお話させてもらえればと思います。

よろしくお願いします!

最近特に感じるのは、リーダーに求められる・期待されているものが変わってきていることです。その背景には2つのポイントがあると思っています。

1つ目が、非常に複雑で変化が早い時代になっていること。VUCA(※)と表現されますが、変化がずっと常態化している状態で、グローバライゼーションとデジタル化がどんどん加速し、止まらなくなっています。

Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉

もう1つは、この変化に伴うパラダイム、つまり前提にある物事の見方・考え方も変わっていることです。現在の特徴は古いパラダイムと新しいパラダイムが並存していて、円滑に次に移行せず2つのパラダイムが重なりながら変化している複雑さが現在の特徴です。

この2つを踏まえたリーダーシップに求められるポイントは、簡単にいうと「いかに自分自身がスピード感を持って変化に適応できるか」ということです。

パラダイムの話でいうと、違う考え方が重なっているときは、「2つの考えを取り入れられるか」も重要です。実はこの状況は、開国によって東洋文明の中に西洋文明が入ってきた明治時代と同じ状況です。福沢諭吉が『文明論之概略』で「我々はあたかも東洋と西洋の2つの人生を持っている」と書いていますが、まさに異なるものを取り込みながら、同時にどんどん自分を変えていく必要があるのではないでしょうか。

そのためにはどうしたらいいのでしょう?

1つは学習です。従来は要素分解された科目を体系的に学んで知識を1つずつ積み上げていくのが当たり前でしたが、変化が早いと学んでいるうちに状況が変わってしまう。だから、ラーニングアジリティ、つまり速く学ぶ必要があります。スイッチバック学習と言ったりしますが、行動しながら学び、試してみてわからなければ止まって、戻って修正するような学び方が求められます。

もう1つが、経験則が生かせず、「何が正しいのかわからない」という中でアクションや決断をしていかないといけないわけですから、「主観」が大切になっているということです。「私はこう思うから」「私がこういう時代認識をしているから」「私がこうやりたいから」というように物事を決めていく重要性が非常に高まっていると考えています。

グロービスのプログラムでも、そういった内容を意識されていると。

そうですね。「主観」については、知識を習得することに加えて「自分自身をよく理解すること」が大事になりますから、自分についての理解を深めるプログラムを取り入れたりしていますね。普段自己理解の為に時間を使うことはなかなかないですから、多くの方にその効用を実感頂いています。

 

「余白」を意識した働き方改革を

「何を学ぶか」という視点でのポイントはありますか?

世の中がどう変わっていくのかを的確に捉えるのはなかなか難しいですよね。ただ、わからないものを見ようというときこそ、モデルや理論があれば整理が進みやすくなります。それを教えてくれるのが、経営学や経済学ではないでしょうか。その土台がしっかりしていれば、少し複雑なものであってもシンプルに捉えられるようになります。

汎用性のあるモデルや理論を学んでおく、ということですね。

注意が必要なのは、企業に所属していると特定の職種・職務を全うしながらポジションを上げていく方が多いため、持っている知識や理論が限定的になりやすい点です。経験が固定的で限定的だとどうなるか。ものの見方・考え方がそこに支配され、変化に対して「それは自分たちには関係ない」と思ってしまうことが実はよく起こります。

そうならないためには、仕事に限らず様々な機会を通じて経験の領域を広げていく必要があります。そのときにキーワードとなるのが「余白」です。いかに余白を作り、そこに新しい学びを入れるかが重要です。

余白を作るといっても、難しそうなイメージです。

1つは、能力開発をして自分の箱を大きくするという極めてシンプルな方法がありますよね。もう1つ、一定の経験を積んでいる方に有効なのが「手放す」ことです。

経験したことを「捨てる」ということですか?

それもありますし、優先度を下げていったん別のところに置いておくのでもいい。とにかく余白を作ることができれば、その分、新しいものが入れられます。特に一定の習熟した経験がある人ほど、「手放す」力がとても大事だと思いますね。そこには当然、その人なりのこだわりが絡んでくる。手放す勇気をどう育むかは、1つのポイントになるでしょう。

実はこれは「働き方改革」とも繋がる話だと私は考えています。これまではどんどん仕事が増えていくことが喜びだったし、そのたくさんの仕事をなるべく効率的に処理して成果をあげる人が昇進をしていくのが日本のモデルでした。しかしながら、働き方改革というものはこのモデルを変えようとしている。長時間労働が自分にとっての成長に繋がることでしたが、これからの時代はその考え方を手放さないといけない。

なるほど。

多くの人は頭では理解していても考え方を変えていくことに少なからず抵抗を感じているのが現実です。当然ですよね、それが常識であり、良い側面もあったわけですから。一つ例を挙げると、顧客接点を多く持っているプレイング・マネージャーの方などは、「自分はお客様に最高のクオリティ、最高のサービスを提供したい。」という強いコミットメントを持っている方が大変多い傾向です。日本のビジネスパーソンはよく「エンゲージメントが低い」と言われますが、顧客に対してのエンゲージメントは非常に高くあります。

だからこそ、顧客へのクオリティを下げたくないと考え、誰かに任せるることに不安を感じてしまう。つまり、自分から業務を手放すことで、自分のイメージとは異なる状態になることについて、心理的抵抗が生じます。さらに言うと「自分は楽をしてしまったのではないか」や、「手を抜いている」と悩んでしまいがちです。実際はそうではないのに、です。

確かに、そうやって悶々としている人はたくさんいると思います。

だから、働き方改革が目指す「残業をやめて労働時間を一定以下にし、その次は生産性を見直す」というサイクルだと人は本当の意味で幸福にはならない。本当に重要なのは「余白」の問題で、余白の作り方を知っておかないといけません。労働時間が短くなって自分の時間が空くのであれば、その余白をどう使うか考えればいい。そこで経済的豊かさや自分自身の幸福を求めていこうとすると、最終的には間違いなく自分の成長という話になってきますから、そこにどう向き合っていくのか、ということです。

日々の仕事に集中しすぎる人ほど、余白を意識する必要がありそうですね。

「リーダーの器以上に組織の器は大きくならない」という言葉があります。これまでは、「器」とは人格のイメージで使われていましたが、最近は「リーダー自身が成長する様子を示すことが組織のケイバビリティを広げる」という質感に変わっていると考えています。

リーダー自身が「見本になる」ということですか?

そういうことです。結局はロールモデルが必要なのです。正解が見えにくい今のような時代だからこそ、人は見えるものを信じる。そのときに「あ、隣にこういう振る舞いをする人がいるのであれば、自分もやってみようかな」と考えるのが人間の素直な感情でしょう。

 

100人の天才のかけらを集め、1人の天才を作る!

そういうリーダーシップが求められる中、組織はどうあるべきなのでしょうか?

まず、リーダーは偉くない方がいい、というのが今の考え方ではないでしょうか。これまでは組織をピラミッドと捉えて、その一番上にリーダーがいるという発想でした。でもその考え方を変えて、組織は別にピラミッドではなくて丸かもしれないとか、リーダーはその円の中心にいなくてもいい、みたいな柔軟さを持つ必要はあるでしょう。

例えば変化が早くてデジタル化による影響が非常に高い仕事だと、リーダーは羊飼いのように後ろから人を導くスタイルが良い場合があります。1人の天才が100人の組織をマネージするという考え方ではなく、リーダーが100人の天才のかけらを集めて1人の天才にすれば組織が良くなる、という考え方なのです。

そうなると、メンバーの足りない部分を認識させて強化するという発想ではなく、メンバー一人ひとりの「強み」を最大化するアプローチが求められるようになる。「何かが1つできたら、もう1つ強みを探そう」というコミュニケーションができるリーダーの方が、メンバーからの信頼も集まるし、組織のクリエイティビティも高めていけると考えています。

成長を待つよりも、いいところを見つけてあげる方が、スピードも早いですよね。

それも当然メリットです。リーダーというのはメンバーの実行を後押しするとか、方向を迷ったら示してあげる存在である方が早く前に進めるということでしょう。そのためには組織がオープンにならないといけないし、フラットで、フェアで、なおかつフレキシブルでなければならないのです。

お互いの理解も必要ですよね。

おっしゃる通り。だから心理的安全、つまり「何を言ってもいい状態」をつくることがす非常に大事です。最近、ティールやホラクラシーといった組織のあり方が注目されているのは、明らかにオープン・フラット・フェア・フレキシブルな組織への社員・社会環境からの要請が強くなってきているということと関係があると考えています。

そこに組織としてどう対応していくか。

そうですね。ただ、組織を変えるのは簡単ではありません。だからこそ、リーダーという存在によって変化をもたらすという考え方が重要になります。

 

グロービスが「wevox」に求めたこととは?

グロービスのコーポレートソリューションチームでも「wevox」を導入していただきましたが、導入の背景を教えていただけますか?

私自身が今の組織の組織開発を任されるようになって2年ほどになるのですが、大前提となる理想の組織像は持っていました。これは「グロービスウェイ」という当社の理念に基づいたもので、オープン、フラット、フェア、フレキシブルなシステムをもとにチーム運営ができる組織です。加えて、個々の可能性を信じ、個の成長を支援する状態をいかにつくれるかも考えていました。

それらが実現すれば、メンバーが存分に個々の力を発揮できるだろうと考えていたのですが、では何から始めようかとなるとそこが悩ましかったのです。理想から見たときの現状の課題が私の中ではっきりとしていなかったのです。

同じ時期に、高い意欲・目的意識を持って入社してもらったにも関わらず、結果として違う道を選択しメンバーが去っていくという経験もしました。もう少し早く何か手を打てれば、そのような状況にならずにすんだのではないか?という私自身の反省も背景にありました。

そのために、まずは組織のコンディションを把握しようと考えました。理想に向かって現在はどういう状態なのかを全体観を見つつ客観的に把握できる方法はないかと考えていたのです。

その手段として「wevox」を選んでいただいた理由は?

wevox」の「9つの指標」が、我々の理想とすごくマッチしていたのです。エンゲージメントはグロービスウェイを実現する上でも最適の指標でした。又、UIも運用も極めてシンプルでしたので、すぐにトライアルを実施しました。

その結果を4月の全体合宿でリーダー全員にオープンにしたのですが、それが良かったと考えています。理解が進んでいない状態でいきなりこういうデータを公開するリスクは確かにあるとは思いましたが、サーベイの背景や目的、これを活用して如何にコミュニケーションしていくのが良いかをしっかり対話したことが、チームづくりにおいて非常にいい方向に進んだと考えています。

数値を見ての感想は?

データの前では皆が事実を素直に受け入れられるという点です。データの前では立場に関係なく主観を語り出すので、そのような状況をつくり出せたことが一番良かったですね。

これまでは個別で上がってくる課題に対して、上司とメンバーが話をしてきましたが、全員が一同に介して「こういうところを良くしていくべきじゃないか」とフラットに会話できたことは、理想とする組織づくりに向けて大きな手応えを感じました。

加えて、業務の屋台骨を支えてくれているにバックオフィスの方とコンサルタントとの接点がどうしても限定的になり、なかなか一緒に話す機会を持ちにくかったのですが、サーベイを機に会話をする機会が増えました。会話を通じてバックオフィスの人の役割が重要であることや、そういった皆さんが非常にやりがいを感じながら仕事をしてくれていることを皆で理解できたのは、本当にやって良かったと思えたところです。

ちなみに、出てきた数値は予想通りのものでしたか?

成長に関連する部分、例えば「承認」「評価」といった指標は、だいたい想像していた通りでした。逆に思ったより良かったのは、「やりがい」とか「理念」「戦略」のところ。極めて共鳴度が高かったのです。あらためて、「理念・戦略への共鳴度がこれだけ高いのであれば、まだまだ向上の余地はあるな」と楽観的に捉えるようになりましたね。

 

「サーベイをしたら何かがわかるだろう」は大間違い

現在の運用について教えてください

4月から本格導入し、現在は2回目のサーベイが終わったところです。初回はリーダー層の関心を高めようと閲覧権限をある程度絞りましたが、今回からは全てを全員にオープンにしようと考えています。良いカルチャーをつくるためには、組織の限られた人だけが取り組むのではなく、「全員が良いカルチャーつくるモード」にすることが本来のあるべき姿ではないか?ということを、wevoxに気づかせてもらいましたね。

メンバーの方々の反応について教えてください。

大変印象的だったことがあります。4月の実施時にエンゲージメントスコアが相対的に低いチームがあったのですが、その後彼らはチーム合宿を実施し、サーベイの結果を素直に受け入れ、メンバー同士で何ができるか?について真剣に対話する機会をつくった様なのです。この対話を機に、メンバーたちの組織づくりへの関心が高まっただけでなく、メンバーの中から「こうしたらいいのでは」「こんな工夫ができる」と言うアイデアがあがり始め、皆でいいチームにしていこうという雰囲気が醸成されました。その結果、次のサーベイでは大きくスコアが向上していました。

すごくいい話ですね!

素晴らしいですよね。エンゲージメントとは「一人ひとりが仕事へやりがいと貢献意欲をどう感じているか」を測ることですが、加えて自分達は何ができるか?と自問し、アクションが伴ってくると自ずといい方向に向かっていくと実感しました。更にその行動によってスコアが上がれば、周囲が関心を持ちますよね。「隣のチームスコアが上がっているけど、何をしたの?」と意見交換をする人達も実際に出始めています。

私が実感したのは、wevoxは小さな努力の積み重ねが非常に効くということです。データで見えなければ、当たり前と思って意識しない事柄でも、数字で見えると俄然、関心が湧いてきます。

今後は、更にアクションの継続とそれらの活動がに見える化できる状態がつくれれば、組織のいいコンディションづくりのナレッジがこれまで以上に共有・浸透しやすくなると期待しています。例えば、WEDO機能の積極活用や、スコアが上がったチームへのインタビューをしての社内広報活動など、少しずつでも何かを積み上げていけたらいいなと考えていますし、今後の運用のイメージは大分湧いてきていますね。

後は、「理想の組織」のイメージをしっかりと持つことも大事だと考えています。どういう組織をつくりたいかという理想があるかどうかで、サーベイから得られる示唆は全く違ってくるでしょう。サーベイはあくまで「手段」であって、「サーベイを行えば何かがわかるだろう」というのは安易な考え方で実際は違うんだろうと考えます。

 

一人ひとりが「役割」で自分を語れる組織に

福田さんがつくりたい組織とは、どのようなものですか?

情報を可能な限りオープンにして、組織をフラットにしたい。そして皆の自発的な活動を更に促したいんです。

さらには、これからはロール、つまり役割を一人が複数持てるようにしていきたいですね。チームの仕事に閉じてしまうとチャレンジは限られますが、組織全体としてと新しいことを模索していけば、複数のロールを持てるはずです。

さらには、そのロールをもとに皆の仕事が規定されていくのが理想だと考えています。マネージャーやディレクターなどの立場ではなく、その人のロールと組織への影響力で自らを語れる組織というのが理想的です。

−wevoxの結果を受けて、自分のロールを意識するという流れはつくれそうですか?

できると考えています。サーベイをやり始めると、「ナレッジのシェアをどうするか」「お互いの承認を増やすためにどう活動するか」など様々なやるべきことを考えるようになりますが、それらも立派なロールだと私は考えます。そのような自発的な活動が増え、何かしらの結果に繋がると、意義・やりがいを感じるでしょう。組織のために貢献していきたい・役立ちたいという純粋な意欲からロールは生まれてくると考えています。

wevoxで一番良いのは、「パルス」、つまり短周期でサーベイを繰り返し行うことだと思っています。最初に申し上げた変化が早いことや、パラダイムが重なるところのジレンマは日々いろいろな局面で感じるものです。そういう変化に敏感になるのはとても大切です。又、意思決定においてはタイミングが非常に重要です。適切なときに適切なアクションが取れるのは、絶えず状況をモニタリングし、変化に敏感だからこそできることでしょう。

リーダーシップ開発という視点でも、こういったデータがあれば「いいチームをつくる意図的な経験」が養えます。リーダーシップの基本は、やはり「いいチームをつくる」とか「部下とのいい関係性をつくる」ことから始まります。どんなに本を読んで勉強しても、人がついてきてくれなければ組織として意味がないし、成果も生まれない。そういう意味では、自分の身の回りのところで変化を起こすために何をしたらいいのかを考えられることは、リーダーシップを絶えずアップグレードしていくことに繋がると考えています。

ABOUT COMPANY企業情報

株式会社グロービス

主な事業:グロービス・マネジメント・スクール、グロービス・エグゼクティブ・スクール
グロービス・コーポレート・エデュケーション、出版 / 電子出版、GLOBIS知見録、GLOBIS Insights
設立年月日:1992年8月
従業員数:529人

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