INTERVIEWEE

株式会社グロービス 法人研修部門ディレクター 福田亮氏

慶応義塾大学経済学部卒業。コロンビア大学シニア・エグゼクティブ・プログラム(CSEP)修了。総合化学会社での機能性素材の開発営業、クライアント企業との東南アジアにおける合弁事業の設立、新興企業の経営支援・人材育成に携わる会社設立・立ち上げに従事。現在は法人研修部門ディレクター・大阪法人部門責任者として人材育成に関するコンサルティング、プログラムコーディネーター、講師など、企業内の人材育成全般に携わっている。

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、テレワークを実施する企業が増えています。メンバー間の距離が離れ、先行き不透明な不安が募る中で、どのように組織づくりを行えばいいのか? この大きな課題に対して、エンゲージメント解析ツール「wevox」を活用して奮闘する企業にスポットを当てる連載シリーズ「weテレ」。

第3弾は、「創造と変革」をテーマに、経営大学院の運営や企業向けの人材育成・組織開発コンサルティングなどを通じてリーダー育成に力を入れる株式会社グロービスの取り組みを紹介します。新型コロナウイルスへの対応でいち早くテレワークを取り入れた同社に、困難な時代におけるリーダーシップのあり方や、今だからこそ大切にしたいエンゲージメントの意義などについて伺いました。

エンゲージメントサーベイを使ったコミュニケーションが組織に与えた影響とは

―まずは、グロービスさんのテレワークの実施状況について教えてください。

日本で緊急事態宣言が出された4月7日以降は、全社員が原則テレワークで活動をしています。ただ、これまでもテレワークは原則可としていましたので、全社員への移行は比較的スムーズにいきましたね。

―これまで、テレワークについては制度化されていたのですか?

特に週の内何日在宅などの明確なルールがあったというわけではないのですが、元々遠方の研修会場や顧客訪問、研修や大学院の講義などで講師を務める場合には、各自でテレワークを取り入れていました。

その一方で、研修のオペレーションを担当するメンバーは、業務内容的にどうしてもテレワークがしにくかったので、昨年の夏くらいからデーターの利用権限を付与したり、携帯電話を支給したりして、少しずつ在宅で働ける環境を整えてきていました。ですので、コロナによって働き方を転換は比較的スムーズにできたと考えています。

ちなみに、それを進める過程ではエンゲージメントサーベイがすごく役に立ったんですよ。

―それはどういうことでしょうか?

wevoxの運用の中で「KPT」のフレームワークを取り入れているのですが、ちょうど去年の夏くらいから、テレワークに向けた色々な声が出始めてきました。そういった声を基に環境を整えることを推進していくことができました。

―具体的には?

例えば、入社間もないメンバーや育児中のメンバーから「事前申請などの手続きが煩雑でわかりにくい、テレワークの適応する条件にフレキシブルさがない」といった声が上がっていました。そういった声を聞いて、リーダーが柔軟な運用を取り入れたり、条件を緩やかにすることで活用する人が増えていったのです。

―働き方の柔軟さを求める声が、今回の移行にも大きく影響しているということですね。

そうですね。メンバーの声がきっかけで活用度合いを高めていったということだと思います。そして、その流れを作ったきっかけの1つが、サーベイを使ったコミュニケーションだったということですね。

全社テレワーク後のwevoxの調査ではスコア全体には大きな変動はないのですが、9つのドライバーの推移を見ていくと気になる変化は起こっています。例えば、働き方の自由度を高めていったことでワークライフバランスにもいい影響が出ているようで、「環境」のスコアはだいぶ上がってきました。一方で「支援」については下降傾向になっています。活動全体が止まってしまったことはもちろんですが、テレワークが中心となったことで、知りたいことを気軽に相談できるような機会が減ったことも要因として考えられます。

―それは確かに仕方がない部分かもしれませんね。

又、「会社の方針や事業戦略へ納得感」「経営陣への信頼」のスコアも若干下がっています。これは先行き不透明な将来に対する不安が顕在化していると同時に、私も含めたリーダー陣には如何にこの状況でポジティブな方向性や顕在化している課題に対して迅速に手が打てるか?を問われていると解釈しています。いずれにしても、状態把握サーベイを使いながら引き続き変化は見ていこうと思っています。

―テレワーク前と後とで、wevoxの運用は変えたのでしょうか?

今のところは特に変えずに、月一回のパルスサーベイを継続していこうと考えています。6月以降も一定割合でテレワークは続いていきますが、そこでは1on1の頻度を増やすことを意識しています。対上司だけでなく、私のような直接チームを持たないディレクターも、メンバー同士と1on1をしています。これはメンバーの業務の進捗だけでなく、心の在り方をリアルに把握するためであり、把握する以上に「何か力になれることはないかと働きかける」ことを大事にしようという考えからです。又、チーム間の人間関係やつながりも重要となりますので、チームミーティングも毎週1~2回程度実施しています。MTGの頻度を増やすことでメンバーがお互いの状況をシェアして相互理解を深めたり、チームがこれから大切にしていきたい仕事の仕方などを対話する時間が増えていくというメリットがあります。オンラインという物理的に離環境だからこそ「つながり」を育んでいく時間への投資は大切にしたいと考えています。

今の時代だからこそ求められるシェアド リーダーシップ

―対話を増やす以外に、「テレワーク後」のマネジメントにおいて意識していることがあれば教えてください。

元々グロービスが志向しているカルチャーは、個人の自由と自己責任に立脚した自律分散型の組織です。限られた立場の人が固定的にリーダーシップを発揮するのではなく、一人ひとりが状況に応じてやるべきこと・やりたいことを元に自発的に動いていき、リーダーシップをシェアしていくことを理想としています。

こういったカルチャーは、自律分散が進むオンライン中心の環境だからこそしっかりと息づいている必要があります。今の所は、Slack上で業務上の困りごとやアイデアを頻繁にシェアしていたり、オンライン飲み会を週2回程度、持ち回りで企画するなど、チームに閉じないで部署全体でつながりを維持していこうと各メンバーが自発的に動いてくれていて、大切にしているカルチャーがしっかりと息づいていると感じています。

―素晴らしいですね!こういう変化の時代においては、トップダウンよりも、シェアド リーダーシップの方がやりやすいということなんでしょうか?

そうだと思いますね。何が正解なのか誰もわからない中で、ポジティブにかつプロアクティブに動いていかなくてはいけない時は、それぞれの状況に直面している人が自ら働きかけられる方が、活動の効果は間違いなく上がると思います。

そのうえで、もう1つ私たちが大事にしているのが「シェアによる学習サイクルの循環」です。変化は誰か一人のアクションから始まります。その活動をやってみて、良かったこと・悪かったことが気軽にシェアされていくと、他の人がそのアイデアを取り入れてみようと思う。取り組む人が増えれば、知恵と情報が増え、学習が進んでいく。結局は、先がわからない時や変化が激しい時は、みんなで知恵を出し合って繋がって、アクションして時に失敗しながら学んでいくしかないんです。その時に、各々が能動的に動くことと、シェアして閉じないことがとても重要だと思っています。

―自律分散型の組織を、どうやって作っていったのでしょうか?

繰り返しになりますが、グロービスの理念の中に「自由」と「自己責任」という言葉があります。これには「可能な限り個人の邪魔をしない方が組織のパフォーマンスは上がる」という考え方が前提にあるのでこういった理念の影響は大きいと思います。

ただ、そうはいっても私たちのようなBtoBのコンサルティング事業においては、経験の多い方の声の影響力が大きくなり、経験多寡によるヒエラルキーが強くなりがちな慣性もあります。wevoxを導入してメンバー一人一人が感じている組織のコンディションを可視化したことで、ビジネスの慣性よりも自分たちがカルチャーを重視する方向に変わってきているように感じています。

―その変化のおかげで、今のような事態でも柔軟に対応できていると。

その通りですね。サーベイを実施したことで、個人の可能性を阻害していた重石のようなものが取り除かれ「個人の可能性が開放された」という感じでしょうか。その結果として、メンバーの自発的な行動が増えていったのではないでしょうか?

サーベイ実施で高まった「帰属意識」と「当事者意識」

―ただ、「重石を取り除く」だけで済んだのは、元々自律性が高い組織だったからですよね?そうではないチームの組織づくりに役立てられるヒントをいただくことはできますか?

おっしゃる通り、僕らにはグロービスウェイという理念の存在やその理念に共鳴して入ってくれた仲間などの恵まれている部分があったとは思います。しかしながら、こういった環境が十分でないと「人は変われないのか?」というと私は変わることができると信じています。

組織心理学者であるロバート・キーガン氏の「成人発達理論」では、人間の成長を、知識の拡大・スキルの向上という「水平的成長」と、認識をアップデートさせることで人としての器を拡大させる「垂直的成長」の2つの側面で説明しています。昨今の日本企業は社員の垂直的な成長にあまり関心を払っていなかったように思います。垂直的な成長に意識を向けてその機会を増やすことが個人の自律性を高め、ともすると同調性を重視しすぎてきたこれまでの組織のバランスが変わっていくことで、変化は生み出せると信じています。

―あらためて、福田さんが考える「エンゲージメントの重要性」とは?

エンゲージメントは自然にある生態系のようなものだと捉えています。みんなが状況を把握して共有・共感し、行動によって反応することで変化の兆しが見えてきて、その兆しが見えれば見えるほど更に自発的に繋がって新しい進化が生まれる。サーベイとはその動きを加速するためのツールであり、これからの組織にとって重要な指標だと思います。

―サーベイを実施することで、組織への帰属意識や当事者意識の高まりを実感することはありますか?

それはあります。実際に数字でも出ていますね。サーベイを継続してアクションが増えていくと、先ほどお話ししたように、チームに閉じない、全体に向けた提案が増えていくわけですが、なぜそうなったのかをメンバーに聞いてみたんです。すると、「自分たちのチームは悪くないと思い始めたからじゃないですか」と言うんですね。つまり、自分たちの組織は悪いと感じていると、隣の芝が青く見える。逆に自発的な活動でより良い方向に向かっていくと周囲との比較で良い悪いを考えるよりも、もっといいものを他者から学びたい、自分たちのいいものをシェアしたい思うようになったり、チームに閉じずに部門や他部門へも活動を広げていきたいと自然に目が向くようになるのではないでしょうか?

― 面白いですね!

だから、自分たちのことがわかっていない状態は、組織全体の活力を削ぐことにつながるといっていいと思います。そして、チームに閉じないオープンな動きは、上の立場の人が働きかけただけでは絶対に起こらないんです。現場主導で「自分たちで決めたんだからやってみる」という状態が活力になるのだと思いますね。

wevoxは誰のためのツールなのか

―正直なところ、コロナの影響でエンゲージメントどころじゃないという組織は少なくないと思います。それについて、福田さんはどうお考えでしょうか?

捉え方を変えれば、今こそが自律分散型の組織を作っていける大チャンスだと思いますね。私はエンゲージメントを制度とかルールだとは思っていなくて、自分の健康を測る体重計であり、結果がどうこうよりは、いい状態を目指して絶えずトライし続けることが大事だと考えています。つまり、やめてはいけないと思っています。

その時に、誰のためのツールにするかがポイントではないでしょうか。「管理者のためのツール」だけで終わらせるのは、もったいないと思いますね。

―それは「現場主導の組織に変えていけるツール」なのに、上長が組織状態を調べるだけのツールで終わってしまう、という意味でしょうか?

おっしゃる通りです。現場主導に変えていくには、透明性、メンバーへの情報の開示が必要になってきますよね。リーダーからメンバーに伝えていくことも組織によってはベストなのかもしれませんが、私はそこから自発的な行動は生まれにくいと思っています。全てを可視化するのは、すごくシンプルなことでありながら、組織にとってものすごく大事なことだと思います。 

―結果、当事者意識にもつながると。

そうです。データを見ると人は何かを感じ、考え、語り出します。誰かの解釈が入っていないデータに触れることによってはじめて自分事になるんです。普段自分たちに見えていること以上のものを教えてくれるのがデータだからこそ、それに対して率直な対話ができる環境を作ることも、セットで大事ではないかと思いますね。

―そうした環境づくりで進めてきたことは?

毎月のスコアやコメントなどは可能な限り解釈を入れずに全員に公開することは続けています。加えて、リーダーがこういった声をどのように受け止め行動するかも大切な要素です。例えば、私の部門のトップは毎回wevoxのコメントに目を通して、変えようと思ったことは自らアクションを取ってくれています。トップがこういった声に真摯に向き合う環境があることは経営陣への信頼にもつながりますし、間違いなく「意見を出していいんだ」という心理的安全な環境をつくっていると感じています。

又、今年から年齢・性別・経験年数が多様なメンバーを10人程集めて、意見を出し合いながらより良い組織をつくるために何ができるかを自発的に考え提案をしていく取り組みも始めています。

それ以外だと…、正直に言うとよくわからなくなっている部分はありますね(笑)。最初の旗振りはしましたが、全部把握しきれていません。

―それはすごくいい傾向ではないですか?組織づくりのための動きが多発しているということですよね。

ありがとうございます。

今の時代だからこその「離れて繋がる」組織づくりを

―アフターコロナの時代におけるリーダーシップのキーワードがあるとするなら、どんなものだと思いますか?

 

1つは「信頼」だと思います。時代に合わせて変えていくことを「変革」と捉えてしまうと、リーダーは「自分が導かないといけない」と気負って考えがちです。でも、もっと仲間を信頼して任せていいのではないでしょうか。情報を開示して、組織の状態が見える化できたら、何かが動き出すんじゃないかという発想が大事だと思います。

もう1つは「謙虚さ」ではないでしょうか。有事が起こり、日常が戻って、また想定外のことが起こるような状態が続くと、人の心理は不安や恐れが上がっては下がりを繰り返します。その時に大事なのが、希望を見出すことで、「あそこに明るい光がある」と示すのがリーダーの役割の一つです。ただ、それだけでは長い旅は続けられません。途中で道に迷ったり、怪我をしたり、トラブルが起こったりした時に、「そういう日もあるよ」とか「一旦立ち止まって考えてみよう」とか、場合によっては「お互い今どんなことを考えているのか、一度話し合ってみようよ」というふうに、お互いの関係性を良くするリーダーシップも必要になってくる。

つまり、一人の力でヒエラルキーを作るのではなく、繋がりながら関係性を良くしていくという意味で、相手に関心を持つ気持ちが大事になってきます。そのポイントになるのが、一歩引いた「謙虚さ」だと思います。

その心が「今は厳しいかもしれないけど、私には仲間がいる」と思える状況作りにもつながり、組織のあり方も変わっていくでしょう。一人の影響だけでできるものではないからこそ、シェアして、役割分担して、目的意識の中で進めていくのがベストだと思います。

―「背中で語る」よりは、「メンバーの方を向いて関係を作る」リーダーシップですね。

そちらの方が今の現実に即していると感じています。

―最後に、組織づくりにおける今後の展望を教えてください。 

私たちが行っている人材育成・組織開発の仕事は、オンライン化によって更に大きな可能性があると考えています。特に、縦割りの組織や個業化などの組織の力学を超えて人が新しい関係性を組織内で創るといったことは、オンラインの方がリアルよりもハードルが低いと感じています。こういった可能性を形にしていく活動をもっと進めていける組織にしていきたいですね。

組織づくりのコンセプトは、「離れて繋がる」です。物理的な距離は取らないといけないですが、これまで以上に心と心、信頼関係などのつながりは強くなるような、そういう組織を作っていきたいですね。

ABOUT COMPANY企業情報

株式会社グロービス

主な事業:グロービス・マネジメント・スクール、グロービス・エグゼクティブ・スクール
グロービス・コーポレート・エデュケーション、出版 / 電子出版、GLOBIS知見録、GLOBIS Insights
設立年月日:1992年8月
従業員数:529人

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