INTERVIEWEE

株式会社ワンキャリア 最高戦略責任者・執行役員 北野唯我氏

神戸大学経営学部。新卒で博報堂の経営企画局・経理財務局で中期経営計画の策定、MA、組織改編、子会社の統廃合業務を担当。その後、ボストンコンサルティンググループに転職し、2016年ワンキャリアに参画、最高戦略責任者。1987年生。作家としても活動し、デビュー作『転職の思考法』(ダイヤモンド社)は発売2ヶ月で10万部を突破。2作目『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版社)は発売1ヶ月で6万部を突破中。

著書「転職の思考法」(ダイヤモンド社)が発売2ヶ月で10万部、最新刊「天才を殺す凡人」(日本経済新聞出版社)が発売1ヶ月で6万部を突破するなどヒット作を連発。HR業界のみならず、幅広い領域で注目度急上昇中の北野唯我さん。キャリアや雇用などのテーマを中心に独自の視点で、問題点や解決案を次々に発信し続けています。そんな北野さんは、ワンキャリアの最高戦略責任者と、子会社の代表を務めながら、自ら部署をマネジメントする立場でもあります。舌鋒鋭い北野さんのリーダーとしての顔、組織づくりのポリシーはどのようなものなのか? 最新のリーダー論、組織論のエッセンスが詰まった、キラーワード連発のインタビューをどうぞ!

リーダーは「3つの邪魔を取り除く」ことに注力する

ー最初に、北野さんのワンキャリアでの立ち位置から教えてください。

肩書きは執行役員で、会社の全体的な経営戦略を考えることが主なミッションです。その他に、コンテンツ、マーケティング、経営企画の3つの事業部マネージャーを務めていて、合わせて数十名のメンバーがいます。2019年の1月からは、子会社の代表も兼務しています。

ー今日は、3つの事業部を束ねるリーダーとしての北野さんの一面をぜひ、いろいろと聞かせてください。

はい。早速ですが、リーダーができることは、私はとてもシンプルだと思っているんですね。それは、「3つの邪魔」を取り除くこと。邪魔、とは1つ目が「つまずき」、2つ目が「不安」、3つ目が「マンネリ」です。この3つの邪魔を取り除くことに、私はいつも注力しています。

3つの邪魔、ですか。まずは、1つ目の「つまずき」から詳しく教えてください。

そもそも組織づくりって、性善説で作るか、性悪説で作るかで180度考え方が変わりますよね。私は性善説で考えるようにしているのですが、メンバーの考えや自主性はできる限り尊重する。特に、「2:6:2」の法則で分けたとき、事業貢献度が高い2割のメンバーは「放置」に近い感覚で好きにやってもらっています。本質的に、優秀な人って放置するのが一番ですから。

ただ、どれだけスキルが高くても、人はミスをしてつまずきます。だから、事前に35カ月後あたり先のことを目安に「きっとこういうことが起きて、こういうでミスが起きやすいから、注意してね」とあらかじめ伝えておくのです。これが「つまずき」を取り除く、という意味です。

35カ月先というと、かなり先のことにも思えますが。

そのぐらいが、経験の浅い人がリスクを想像できなくなるラインだからです。事前に、それくらい長期的なスパンで先々のリスクを伝えておく。そうすれば、賢い人は事前回避してくれます。

ーなるほど。優秀なメンバーでもつまずきやすいポイントってあるのでしょうか?

ありますね。優秀な人が起こしやすいエラーは2つ。1つは、法律やガイドラインとか、誰かが強引に作ったルールの中で野放しにすると、結構引っかかったりします。だから、経験を積んでいたり、法律、ルールを熟知していたりする人が事前にリスクを伝えておく必要があります。

もう1つが、現場で業務にあたっていると、どうしても積み上げベース論になってしまうこと。目の前にあるタスクをこなしていく、という視点になりがちですよね。そうすると、終わってみたら辿り着くべき場所より、もっと手前までしか行けてなかったりします。だから、リーダーが要所要所であるべき論の話をしてあげて、到達できないリスクを取り除く必要があります。

ースキルが高くても、視野を広げるサポートをしないと、本来の目標にまで辿り着けないこともある、ということですね。確かに、そのサポートはリーダーだからこそできることでもあると思います。2つ目の「不安」についてはどうでしょうか?

会社で働いていて感じる大きな不安の1つが、「自分はこの会社にいていいのか、何か貢献できているのか」というものです。だから、この不安を取り除いてあげる必要があります。

その方法の1つが「必ずできる業務」をアサインすることです。確実に成果を出せる領域をリーダーが作ってあげる。これは「あなたはこの会社にいていいんだよ」というリーダーからのメッセージでもあります。

それから、もう一つ大事なのが「Why」に関する話をしっかりと聞いてあげることです。「なぜ、あなたはこの会社にいるのか。なぜ、この仕事をしているのか」こうした話を1on1や何気ない会話の中でもいいのでしてあげること。Whyを聞くということは、その人の存在を認めることでもあります。

ーいまだに、多くの日本企業で上司と部下のコミュニケーション不足が課題となっていますが、その原因はWhyを聞かないことにある、ということでしょうか。

そうだと思いますね。人間関係が悪化して、コミュニケーション不足に陥るのって「失敗したときの対応」に原因があることがほとんどだと私は思っています。チームメンバーが失敗をしたとき、多くの人が「何でそんなミスしたの?」「どんなやり方をしていたの?」とWhatHowの部分を聞きがちです。でも、大切なのは「何で、そうしたの?」とWhyを丁寧に聞いてあげることです。

本人には本人なりの考えがあって行動した結果のミスです。その考えをまず聞いてあげて、直すべきポイントを指摘する。こうしたフィードバックであれば、本人も納得しますし、やる気が削がれることもありません。「え?何でそんなミスするの?」と心の中で思うときもあるかもしれませんが、一息ついて、Whyを聞いてあげるようにしましょう。

ー確かに、何か失敗したときの対応一つで、人間関係が良くも悪くもなりますね。では、最後の「マンネリ」について教えてください。

これは、2つ目の話とも密接に関わってくるのですが、不安を取り除くために必ず遂行できる業務を与えたとします。しかし、人間はそうした業務だけをやっているとどうしても、「ルーティンばかりでつまらない」という気持ちが芽生えてきます。だから、私がメンバーに仕事をアサインするとき、6~7割は必ず遂行できる業務。残りは、成長を感じられるようなプロジェクトに従事してもらう、というバランスを心がけるようにしています。

エンゲージメントは「会社との関係」を示すものではない?

ーなるほど。どれか1つの邪魔を取り除くのに集中しすぎるのはあまり良くないのですね。3つの邪魔をバランス良く取り除くのも大切になってきそうです。こうしたマネジメントを行う成果としてはどのようなことがあるでしょうか?

まず、「wevox」のエンゲージメントスコアは高水準を維持していて、直近期は数字目標も全て大幅達成しました。そういったところで、目に見える定量的な結果は出ている。

定性的なことでいうとアルバイトの方が「北野さんのチームで働いていて、朝一度も『会社に行きたくない』という気分にならなかった」とか「仕事って楽しいですね」と帰り際にメンバーが声をかけてくれたりします。そういう会話が日常的に起きている。これは、リーダーとしてめちゃくちゃ嬉しいですね。

過去の話ですが、かつてマネージャーを務めていたチームでは、この3つの邪魔を意識していただけで、アルバイトが1年半一人も辞めませんでした。

ーすごいですね

リーダーって、何か特別なことや難易度が高いことをする必要ないですよね。今お話しした、3つの邪魔を取り除くことを意識するだけで、リーダーとしての役割は十分務められるのでは?と思っています。

ー非常に参考になります。少し話は変わりますが、先ほど、wevoxについて触れていました。「エンゲージメント」という考え方に対してはどのようにお考えですか?

エンゲージメントスコアの計測は、すごくいいですね。チームの状態を確認するのに役立ちますし、スコアを通じて経営陣と従業員がコミュニケーションできる。これまで、従業員側は何か不満があっても労働組合を通じてしか、モノを言えなかったですから。意見を表明するツールとして、wevoxを始めとするエンゲージメントスコアのサーベイサービスがある。経営陣からすれば、スコアは通知表みたいなものなので、必ず意識しなければいけなくなりますからね。ただ、一つ、エンゲージメントという言葉で注意しなきゃいけない点があると思っています。

ーなんでしょうか?

エンゲージメント、という言葉は昔から概念としてはあったものだと思っていて、この言葉があるからといって何かが解決する、というものではないこと。「スコアとして可視化され、コミュニケーションが活性化されることに本来の価値がある」と理解することが大切だと思います。それから、「個人と会社の関係性」を表すものではない、ということを意識する必要があると考えています。エンゲージメントというのは、あくまで「事業や人」に対して関係性があるものだと私は認識しています。というのも、会社というのはある種の「幻想」でもあるんですね。

ー会社は幻想ですか。

はい。「会社についてどう思いますか?」と聞かれても、私は「わかりません」と答えます。なぜなら存在しないに等しいからです。でも、「会社の事業」「会社のCEO」などについて聞かれたら答えられます。それは、間違いなく存在しますから。だから、エンゲージメントを考えるときも「『n対会社』ではない」という前提から始めないと本質的なディスカッションは生まれないと思っています。

ー確かについつい「会社が悪い」と言ってしまいますが、もっと具体的な問題点を考えないと意味がないですものね。北野さんは組織づくりにおいて、何か悩みはないのですか? 話を聞いていると、すごく順調で隙がない気がしますが

1つあるとすれば、社内での横展開をもっと行っていきたいと思っています。私の縦のラインでは、リーダーが育つ環境はあるのですが、他の部署などにどのように波及させればいいのか。もちろん、私のやり方が全てはないですが、エンゲージメントスコアを高め、いい組織を作っていこう、という動きを全社的なものにするにはどうすればいいのか最近は考えています。他の企業がどのように工夫しているのか、すごく興味がありますね。

株式会社の歴史から紐解く「仕事のワクワク」の本質

ーリーダーの育成は重要なテーマですよね。同じような課題間を抱えている人はたくさんいると思います。最後に、北野さんが考える理想の組織について聞かせてください。

「転職の思考法」でも触れていますが、「転職はいつでもできるけど、転職しない人が集まる組織」はものすごく強いと考えています。一番イメージしやすいのが、恋人や家族だと思うんです。恋人や家族って、シンプルに楽しくて、安心するから一緒にいますよね。人間の根源的欲求に近いものがあります。では、そうした組織をリーダーとしてどのようにつくっていくか。そこで重要になってくるのが、プロジェクトです。仕事の本来の意味ってプロジェクトなんですよね。これは株式会社の歴史を紐解くとわかります。

ー詳しく教えてください。

コロンブスが海を渡って、旅をしたい、大陸を探したいと言い出した。そんな彼にイサベル女王がお金を渡し、発見した土地や金の権利で返して、と言った。これが株式の原型です。コロンブスは「新大陸の発見」というプロジェクトを自ら進んで遂行していた。彼は、すごくワクワクしながら冒険をしていたはずです。こういう歴史を考えると、仕事の本質的な面白さ、ワクワクはプロジェクトからくる、ということがわかる。ワクワクは、会社が与えるものじゃないと思っています。

ー面白いですね。でも、じゃあ何で会社という共同体があるのか、という疑問も同時に生まれてきます。

会社という組織が何のためにあるかと言えば、帰る場所としての機能だと思っています。不安を取り除いて、安心できる場所。だから、リーダーはワクワクできるプロジェクトをメンバーにアサインしながら、「ここにいてもいい」と思える役割を与えてあげる。このバランスをいい塩梅で作るのがリーダーには重要です。その結果、楽しくて、安心する「ずっとここにいたい」と思える組織が生まれるはずです。

ーそんな組織ばかりになったらいいですよね

でも、今はまだ極端な話、10000人の社員をロボットのように働かせながらでも売り上げを上げる組織がいい組織として捉えられている現状があります。たとえ50人しかいなくても生き生きと働いている会社の方が価値があるという理論を、この資本主義の中で作っていきたい。そのために、私は将来的には経営思想家になりたいと思っているんです。そして、新たな理論を打ち出し、いい雇用の総量を増やす。結果的にそれがいい組織を生み出すことになるはず。これが、今の私の夢。まだまだ頑張らないといけませんが、今年は本もたくさん出す予定ですので、良ければ読んでみてください。

ー新たな理論の確立まで視野に入れているとは知りませんでした。ぜひ、経営思想家となって、社会の流れをいい方向に変えていってほしいと思います!本日は貴重なお話ありがとうございました!