「個人と組織」、「個人と仕事」などとの繋がりを示すエンゲージメント。近年経営指標としても注目を集めるエンゲージメントは、1つの決まった形があるわけではなく、10の組織があれば10通りの形が存在します。このシリーズでは、エンゲージメントサーベイ「wevox」と共に組織づくりを行う企業のストーリーを通じて、様々なエンゲージメントの形を届けていきます。
今回は、「世の中を、一歩先へ。」をビジョンに掲げ、ICTの力で人々の暮らしをより便利で豊かにするコンテンツを配信し続ける株式会社エムティーアイのエンゲージメントストーリーをご紹介します。同社のモバイルサービス営業本部では、部署独自のビジョンやコアバリューを策定することでメンバーや部署の「役割」を明確化し、さらには組織づくりへの関心・意欲を高めることにつなげています。プロジェクトの内容や取り組みについて、スペシャリストで組織開発担当の岡田博之氏に伺いました。
部署独自のビジョンを策定することで、自分たちの「役割」を明確に
― 岡田さんは組織づくりを担っていますが、以前からそうした仕事に関わってきたのですか?
いえ、実は全く違います。以前はサービスの企画や立ち上げの仕事に関わってきたのですが、組織づくりに興味があり、どうしても挑戦してみたかったので現在の部署に志願して異動してきたんです。
― そうだったのですね!組織づくりに興味を持ったきっかけは?
エムティーアイに入社する前はアーティストのマネージャーの仕事をしていて、「人をサポートすること」がずっと好きだったんです。それを踏まえて今の会社に入ってサービス企画をしていたのですが、組織づくりを通じて人を支える仕事への興味が大きくなり、何か「きっかけ」を作るような仕事ができたらいいなと思うようになりました。
― 人や組織を変えていくきっかけづくりとして、部署独自のビジョン・バリュー策定プロジェクトを立ち上げたということですね。どういうプロジェクトなのか教えていただけますか?
まず、モバイルサービス営業本部はエムティーアイの中でも一番大きな部署で、営業を中心に約160名が所属しています。ただ、従業員の入れ替わりが早いなどの課題があり、その原因をwevoxのサーベイで分析してみようと思ったのがプロジェクトの発端です。

― wevoxのサーベイによって、見えてきたものがあったわけですね。
はい。サーベイから見えてきたのは、ネガティブな結果でした。例えば社員からのコメントでは、「やらされ感が強い」とか、「営業としての役割がよくわからない」とか、「現在の活動が何につながっているのかわからない」「そもそも何を目指したらいいのかがわからない」といった声があったんです。
なぜそんな状況になっているのかを分析し、「戦略や戦術に納得・共感できていない」とか、「目標設定が疎かで、キャリアプランが描けていない」といった仮説を立てていきました。
― いろいろな課題が見えてきたんですね。
そうですね。そして、これらの課題の根底にあるのが「役割」ではないか、と考えました。自分たちの営業としての役割、部署としての役割などがうまく定まっていなかったことが一番の原因であり、対処すべきことではないかと考えたのです。
想像以上に白熱したマネジメント陣のワークショップ
― そうした課題に対して、どんな行動を起こしたのでしょう?
エムティーアイでは「世の中を、一歩先へ。」というビジョンを掲げています。まずはそこをきちんと理解しようと考えて、マネジメント陣、具体的には本部長、役員、各部門長を中心にワークショップを始めました。まずは上の層から固めていこうと思ったんです。
ワークショップでは、エムティーアイのミッション・ビジョン、そしてコアバリューについての議論を繰り返し重ねていきました。みなさん忙しいため、まとまった時間が取れないので、ワークショップを1時間30分ほどで設定して、何回かに分けて実施する形にしました。

― 突然そうしたワークショップを始めることに対して、負担に思われたりはしませんでしたか?
最初は負担にならないか、興味を持ってもらえるかなど懸念はありました。ただ、1つの「きっかけ」としてこういうことをやってみたいと相談したところ、「いいね、やってみよう」という反応が返ってきました。そしていざ始めてみると、回を重ねるうちに皆さんどんどん白熱していったんですよ。
― やってみるもんですね!
そうなんです。逆にいうと思いが強すぎて、それこそ意見が食い違ったりして議論が活発化する場面なども多々見られました。最初は3回程度の実施イメージだったのですが、白熱するあまりどんどん回数が増えていって、最終的には8回も行ったんです(笑)。
― それだけ白熱したということは、みなさんの中に「思い」があったというわけですね。
結果として、そこに火をつけることができたんだと思います。
― ワークショップのゴールはどう設定していたんでしょうか?
まずはモバイルサービス営業本部としての「ビジョン」や「コアバリュー」を策定しようと考えました。
2ヵ月半ほど議論を重ね、具体的なビジョンとして形になったのが、「市場を切り開く(育てる)」「顧客を育てる」「製品・サービスを育てる」です。この3つの「育てる」を、私たちのビジョン、つまり「役割」として持ち、前に進んでいこうと考えました。
ここに至るまでの中で、「そもそも営業本部としてのビジョンやミッションなんていらないんじゃないか」という議論もあったんです。というのも、各商材やサービス単位で部門が分かれているため、それぞれにちゃんとミッション・ビジョンがあれば、営業本部全体のものなど必要ないのでは、と。
― それでも「やっぱり必要だよね」となったわけですね。
それぞれの商材やサービスの思いを貫く、横串の統一感が全くないことへの議論になりました。エムティーアイの営業本部として皆でどういう方向を目指すのか、それをやっぱり定めようと。その議論を通じても、組織が1つになれたように感じますね。
― ビジョンを定めた後の流れは?
それに紐づくコアバリューを各マネジメント陣と話し合って作成しました。
「新しいことに挑戦して切り開いていく、最大限努力する」「お客様のためになることをやる」「自身や仲間を尊重し協力し合う」の3つで、これを策定した後に、全員が集まる四半期説明会という場で営業本部全体に発信しました。
― メンバーの皆さんの反応はどうでした?
アンケートをとったのですが、思った以上に良かったですね。「今までなかったものが新しくできて嬉しい」という声が多かったのと、「自分の役割と認識を照らし合わせてみて腹落ちできた」みたいな声もあって、9割以上の人が賛同してくれました。正直なところ、事前の予想では3〜4割が前向きに捉えてくれたら一歩目としてはいいかな、くらいに考えていたので、とにかく驚きましたね。先ほどもお話しした通り、そもそもみんな興味がないんだと思っていたのですが、全然そんなことはなかったんです。それにあらためて気付かされました。
― それは、言い換えると、これまでに議論する機会がなかっただけだったということでしょうか?
おっしゃる通り、そういうことだと思っています。事業についての進捗や仕事について共有する機会はあっても、組織に向き合ったり、「どういう組織を作りたいか」を真面目に考える機会がなかったので、今回はいいきっかけになったのかなと思っています。

新たなワークショップを実施して現場へのビジョン・コアバリューの浸透を図る
― メンバーへの浸透については、どのようなことをされたのでしょうか?
ただ策定して発表しただけだと「できたんだな、良かったね」程度で終わってしまうと思ったので、浸透させるきっかけづくりを考えた結果、近い将来にマネージャーになる層に働きかけようと思ったんです。
― 具体的には?
彼らへのワークショップを実施し、マネジメント陣が策定したビジョンやコアバリューの内容を噛み砕いたり、目線合わせをするための議論の場を設けたりしました。これについても各自が組織について向き合う時間となり、議論が白熱したんです。マネジメント陣とは目線が違うので、策定されたものに対して認識のズレが出てきたりもしたんですが、そこを合わせていくことと、部署としてどういう解釈をしていくかをお互いに認識するための場になりました。
ここでの議論についても4月以降で次期リーダー層や若手社員のメンバーに落としていこうと思っていますし、同じようにメンバー向けに何かしらのワークショップを考えていくつもりです。
― レイヤーごとに細かく設計して議論の場を作っていったわけですね。プロジェクトを進める上で気をつけたことや、意識して取り組んだことがあれば教えて下さい。
10数人が集まって議論をしようとなると、意見を出せない人もいたりしますよね。そうならないように、僕の方で事前に参加メンバー一人ひとりと話して、どういう意見を持っているのかを聞いたりしました。そうすることで、自分がファシリテーターをする時に、うまく話が振れたり、引き出せたりできると思ったんです。
― 全員とですか?となると、当日に向けての準備はかなり大変だったのでは?
そうなんです(笑)。でもそれをやったことで議論の場が盛り上がりましたし、正直、何もしなかったら難しかったと思います。
― メンバーの声を聞くというところでは、wevoxも活用したのでしょうか?
そうですね。最初に組織の課題を見つけようとしたあたりで、それまでとは変えて実名での実施にしたんです。誰がどういう意見を持っていて、何に課題意識があるのかを知るうえではすごく参考になりました。
それに、実名になったことで質の良い回答が増えたように感じています。それでいて本音が語られているというか。ただ、その前提として、「こちらに対する信頼」と「丁寧なフィードバック」は重要かなと思っています。得た情報をどう施策に繋げるのかをこちらもちゃんと説明しましたし、その信頼があるからこそ、「本音で答える必要がある」と考えてもらえたのだと思っています。
組織に統一感が生まれると、同じゴールが見えてくる
― あらためて、組織においてビジョンやコアバリューがあることの意義・価値について、どのように感じていらっしゃいますか?
意識として1つにまとまれることで、組織に「統一感」が生まれると思います。その結果、同じゴールが見えるのかなと思いますね。もちろん、会社のビジョンがその役割を果たすわけですが、組織が大きすぎたり、役割みたいなもので迷っていたりする場合は、自分たちの組織に合ったものが必要かもしれません。それによって「目の前の大事にすべきこと」が見えてくるのかなと思います。
― 岡田さんご自身が、今回のプロジェクトをきっかけに得た学びがあれば教えてください。
一番は、「みんなが」もしくは「営業部メンバーが」、「実は組織を変えたい」と思っていることを知れたことです。普段のコミュニケーションや言動においては、みんなあまりそういうことを感じさせないんです。でも「場」を提供することで、それをきっかけにして「思い」が溢れ出てきたというか。本音を話せる場所は大事なんだなあと感じました。

― 逆に、組織づくりの難しさとは?
これまでの中で特に苦労したのは、マネジメント陣と次期マネジメント層、各メンバー間での意思の疎通と認識合わせのところです。レイヤーが違えばどうしても考えていることも違うので、ズレが生じてしまうのは仕方がありません。だからこそ、プロジェクトとしてどういう意思を持って進めるか、いかにファシリテートしていくか、が大事になってくるのかなと感じました。ただ、議論することでお互いに触発されるのは間違いないので、「組織開発って大事だよね」という発信をし続けることは必要だと思いました。
― そのうえで、考えるきっかけを提供したり、本音で議論できる場を作っていく。
そうですね。腹を割って話すというのは「毒を抜いてあげる」ことに近いと思います。大半の人が何かしらの不平不満を持っているはずだし、たとえ満足している人であっても、「もっとこうした方がいいんじゃないか」という意見は必ず持っているんです。それを遠慮なくぶつけ合うことができたら、それだけでも意味があることだと思います。
― 最後になりますが、今後、組織づくりのためにやってみたいことはありますか?
マネジメント陣向けに組織活性化のためのワークショップを試験的に始めたのですが、好評なので定期的にやっていこうと計画中です。それ以外だと、営業が多い部署ですから、営業としてのスキルマップの整備はやりたいと思っています。同時に、目標設定や評価制度の整備を進めていくことで、よりやりがいや働きがいを感じられる組織になっていくのかなと思っているので、そうしたところにも1つずつチャレンジしていきたいです