INTERVIEWEE

株式会社メルカリ People Experience Manager 奥野浩平氏

大学卒業後、総合コンサルティングファームに入社し、人事コンサルティングに従事。人事制度や人材開発プログラムの設計・導入、M&AのPMIなど様々なプロジェクトをリード。その後、ITメガベンチャーにてGlobal HR、各種の制度設計、HRBP、人事労務マネージャー、外資系小売業のCulture&TalentDevelopmentマネージャーなどを経て、2018年より現職。

GoogleやFacebookが導入していることで注目集めている組織マネジメントの手法「OKR」。国内でも導入企業が増えてきている中で、それぞれどのようにOKRを活用しているのでしょうか? そんな疑問に答えるべく、導入企業にOKRの運用方法や効果など“リアルなハナシ”を聞く本シリーズ。今回は国内におけるOKRのパイオニアであり、今最も注目を集める企業の1つである株式会社メルカリに話を伺いました!

 3カ月スパンで全体OKRから設定する

―OKRの導入企業として真っ先に名前が挙がるメルカリですが、実際のところどのように活用しているのか、伺いたいと思います。

はい、よろしくお願いします。

―まず、奥野さんがどのような役割なのか教えていただけますか?

People Experienceという人事系の部署のマネージャーを務めています。主に私のチームでは、評価報酬制度の運用・設計、労務や福利厚生関係、給与業務などを担当しています。メルカリではOKRを評価制度と結びつけているので、私のチームでOKRの運用も担当しています。私がメルカリに入社したのが昨年、2018年7月でそれまでは人事コンサルタントの仕事や他社で同じように人事業務を行なっていました。

―では、奥野さんが入社された時にはすでにOKRが運用されていたということになりますね。導入はどういう経緯だったのでしょうか?

2015年に導入をしました。GoogleやIntelなどが取り入れて大きな成果を生み出している「OKR」に着目して導入を検討したと聞いています。当時、導入を担当したメンバーは、日本にほとんど情報がないので、英語の文献をあたってリサーチしたようです。

     ―まだ、日本では名前すら聞かない中で、導入を始めたのですね。現在の運用状況について教えてください。

クォーター毎に上図の順序でそれぞれのOKRを設定しています。グループ全体のOKRは四半期が終わる少し前に設定され、期をまたぎながら徐々に個人OKRまで落とし込んでいくという形です。

設定したOKRは、原則個人レベルまで共有しています。以前はスプレッドシートを用いていましたが、1年半ほど前に独自の人事管理システムを構築し、そこにOKRについても入力する形をとっています。

そして、四半期毎にOKRの進捗をベースにした評価を行い、また次のOKRを設定するというサイクルです。このサイクルは導入当初からずっと続けているものです。

―全体から個人までを短いサイクルで回しているのですね。

我々としては3カ月のスパンでも短いとは感じていません。これは、会社のフェーズも大きく関わってくると思いますが、我々は今創業から7年目ですが、この間、スピード感を持って事業・組織を成長させ続けてきました。そうした環境で働いていると、3カ月前のことですら、ひと昔前のように感じるものです。変化が激しいので、振り返ってみると「あのタイミングでもっと力を入れておけば状況は違ったのに」ということも少なくありません。出来るだけそうした機会損失を減らすために、クオーター毎にOKRを設定しているのです。

―OKRの進捗確認はどのように行なっているのでしょうか?

個人やチーム、部署のOKRについては、MTGや1on1の場で適宜進捗確認を行なっており、やり方は各マネージャーに一任しています。事業部毎のOKRについては、事業部の全社員が集まる全体会議の冒頭に必ず振り返りの時間を設けています。それぞれのOKRの進捗についてグリーン、イエロー、レッドといった表現を使いながら達成度合いを共有します。全体会議は事業部によって週一回ないしは隔週で行なっているのですが、毎回必ずOKRの振り返りは行なっています。 

振り返りだけでなく、ディスカッションをする時間になると、「その部署のOKRが本当に適切なのか」「そのKRの意味合いについて、もう少し具体的に聞きたい」などOKR自体の内容について、話し合いがされる場合もあります。

このように、メルカリではOKRが経営における重要なマネジメントツールであるという認識を、全ての事業部が持っています。

 

OKR達成に向けたプロセスが重要な評価指標に

―カルチャーの一部になっていることがよくわかります。評価との連動については?

評価に関しては、2つの軸があり、1つがメルカリのバリューである「Go Bold (大胆にやろう)」「All for One(全ては成功のために)」「Be Professional (プロフェッショナルであれ)」を実践できているかどうか。もう1つが、OKRを達成するプロセスの中で見られた成果やパフォーマンスです。この2つの評価軸で、クオーター毎に評価をしていきます。     

―OKRの達成度合いではなく、プロセスを見ているのですか?

そうです。OKRでは、基本的に難易度が高いチャレンジングなゴールを設定することが推奨されています。ですから、100%達成できたらいいのか、あるいは50%しか達成できていないからダメなのか、というものではありません。達成に向けてどのような働きをしたか、それが全体OKRの達成にどのように貢献できたか、というプロセスの部分が重要な指標になってくるのです。

―なるほど。具体的な評価のフローも知りたいです。

四半期の終わりに、まずは自己評価を行ってもらい、その後マネージャーとの振り返り面談を行います。そして、各マネージャーが集まり、メンバーの評価について共有しながら目線を合わせる「キャリブレーションMTG」を行い、最終的な評価を設定します。このキャリブレーションMTGは非常に重要で、マネージャーの評価が妥当か、他のチームではどのようにOKRと向き合っているかを共有する貴重な場となっています。

―かなり丁寧なプロセスで評価を行っているのですね。OKRを評価と関連づける上で気をつけるポイントはありますか?

ポイントになってくるのが「適切なOKRを設定できているかどうか」です。ここがうまくいってないと、評価も適切に行えません。ですので、キャリブレーションMTGでは、「そもそも、そのOKRはチャレンジングなのか?」「全体OKRとの関連づけはどのように考えているのか?」といった会話もされます。プロセスを正当に評価するには、それに価するチャレンジングなOKR設定が大切になってきます。

―なるほど。では、設定において気をつけるポイントについてもぜひ教えてください。

設定においては、「達成確率が50%程度のOKRを設定しよう」「ワクワクするOKRにしよう」というコンセプトを持っています。全体や事業部のOKRは高い目線で設定がされるのですが、個人に落とし込んでいくとどうしても目の前の業務に意識がいってしまい、現実的なOKRになりがちです。

ですから、個人OKRについては設定の際にマネージャーと1on1を行い、そのOKRが適切なのか擦り合わせを行っています。こうした過程で、ワクワクする、チャレンジングなOKRを設定できるかどうかはマネージャーの腕の見せ所ですね。

ただ、KRを考える上で全て50%ぐらいの確率のものを設定する必要はないとも思っています。現実的に考えてほぼ達成できそうなものから、50%あるいは20%ぐらいの難易度のものまで、差をつけることも意識しています。難しいものばかり並べても良くないですし、現実的すぎてワクワクしないものもふさわしくない。バランス感覚が重要になってくると思います。

 

OKRを活用すれば、チャレンジングなカルチャーが生まれる

―上のレイヤーのOKRとの関連性についてはどのように考えていますか?

KRの優先度を意識してもらうことで、上のレイヤーのOKRとの関連性を明確にするようにしています。上のレイヤーのOKRへの影響度合いによって、優先度を決めていくのです。ですので、個人OKRの設定を擦り合わせしていく中で、「優先度、逆じゃないかな」とKRの優先度を変えていくこともあります。

ということは、当然ですが上のレイヤーのOKRの設定もきちんとチャレンジングで方向性が明確に絞られたものでないといけません。そして、この「絞り込み」がOKR本来の大きなメリットにつながっていきます。

―「絞り込み」がメリットにつながるというのは?

方向性を絞り込んで「このクオーターはここに注力するぞ」とメッセージが伝わるOKRを、上のレイヤーでは設定する。そして、絞られた方向性を意識しながら個人OKRへ落とし込んでいく。そうすることで、経営側の目指すベクトルと個人が向かうベクトルが合いやすくなり、組織の力となって、会社の成長を大きく支えることになるのです。

我々は、OKRを単なる目標管理制度ではなく「組織として優先度の高いものを達成していくためのコミュニケーションツール」である、と捉えています。これがMBOと違う部分ではないでしょうか。ですから、「評価制度としてOKRを入れる」という発想だと、結局は従来と変わらないトップダウンの管理制度ができてしまう可能性が大きいです。全体として目指したい方向があって、そのために個々人で何ができるかをコミュニケーションする。そのためにOKRがあって、じゃあそれを評価とどう結びつけるのか、という順序で考えるのがいいと思います。

―なるほど。導入から4年以上が経ちますが、メリットとして感じていることはありますか?

今の話とつながりますが、会社がどのようなフェーズなのかがメッセージとして伝わりやすいと思っています。経営陣が「今はギアをチェンジするときだ!」と思っていても、個々人にまで伝わらないことは多々あります。クオーター毎にOKRと向き合うことで、そうした温度感の差がなくなっていくのは大きなメリットとして実感しています。

事実、メルカリのメンバーは目の前の業務だけでなく、プラスアルファで何かにチャレンジする人がとても多いです。私のチームメンバーも、定常業務以外で新たな制度設計やルールの明文化に取り組もうとしてくれています。これは規模が大きくなり、グローバル化の中で多様な背景を持った社員が増えてきている、という会社のフェーズをきちんと捉え、People Experienceとして何ができるかを考えた結果です。こうしたチャレンジングなカルチャーが生まれる背景の1つとして、OKRの存在が大きいと思っています。     

それから、横同士の支援が生まれやすい環境構築にも寄与しています。というのも、先ほど絞り込みが大事と言いましたが、絞り込むということは当然、フォーカスされた事業、業務に直接関与しないチームやメンバーも出てくるわけですね。じゃあそういう人たちはどうするかと言うと、「直接的に関与する他チームやメンバーの業務をサポートする」ためのOKRを設定するようになるんです。サポートするプロセスも当然OKRの達成においては重要になってきますし、評価にもつながっていきます。

 

何のためのOKRか向き合い、納得する意味づけを

―メルカリがなぜ短期間で大きく成長しているのか、その理由がよくわかります…。

早くから導入はしていますが、まだいろいろと試行錯誤をしながら、チャレンジしている側面もあります。例えば、評価のフローにおいて、これからより規模が大きくなっていったときに、キャリブレーションに時間がかかりすぎないか、次のOKR設定に支障が出ないか、という点は課題となっていくと思います。     

―会社のステータスに合わせて、OKRの運用方法もアップデートしていく必要があるんですね。最後に、OKRの導入を検討している人事や経営者にアドバイスをお願いします。

当然なことですが、OKRをどういう目的で導入するのか、を考えることが大切です。今取り入れている目標管理の仕組みと何が違うのかをしっかりと考える。我々の場合は組織マネジメントにおいて、全体から個人のベクトルを合わせるコミュニケーションツールという認識でOKRを活用しています。そうした意味づけを経営陣、個々のメンバー含めしっかり納得できて初めて意味が出てくると思います。OKRには「こうじゃなきゃいけない」というマニュアルが存在しない分、どういう意味づけで導入をするのかが、特に重要になってくると思います。

―具体的な実践事例を教えていただき、とても参考になりました。OKRが文化として根付き、そしてメルカリの成長を支える土台となっていると感じました。貴重なお話をありがとうございました!