エンゲージメントが高いチーム(※)の秘訣を探る、DIO STORY。
今回は、「感動を持ち歩け!」を合言葉に、モバイルサービス事業を行う株式会社モバイルファクトリー コーポレート・コミュニケーション室(CC室)室長の小泉啓明氏にお話を伺いました。「自分がいなくても回る組織を作りたい」と語る小泉氏に、これまでに進めてきた施策の数々や、チームビルディングのこだわりについて語っていただきました。
※ エンゲージメント計測サーベイwevox(ウィボックス)にて測られたエンゲージメントスコアが81点以上(100点満点)のチーム。(wevoxにて計測されたエンゲージメントスコアの上位1%に当たる。)
個に依存しない組織作りで、チームとして安定した成果を出す
− 初めに、小泉さんが室長を務めるCC室の業務内容について教えてください。
社内のコミュニケーションを強化するのがミッションの部署で、具体的には、採用、広報、育成、ブランディングや、総会などのイベント企画なども行っています。
− 小泉さんがチームづくりにおいて心がけていること、意識していることはどんなことでしょうか?
元々、私自身が採用の仕事をやっていた名残もあって、最初はとにかく優秀な人を採用してデカい仕事をしようと思ってやっていました。
実際にいいメンバーが採用できて、その人は2年連続で社内表彰されるような優秀な人だったのですが、2年ほどで退職することになったのです。その時に考え方が大きく変わりました。これって逆に弱い組織だな、と。
− それはどういうことでしょう?
そもそも優秀な人がいつも採用できるとは限りませんし、これからはもっと難しくなるでしょう。チームとして安定した成果を出していくには、誰でも継続的に成果を出せるチームにすることが大事だなと感じました。
− 個人の力に頼らない組織、ということでしょうか?
そうです。そこからはメンバーの育成や仕組み化に力を入れて「チームとして成果を出す」方向にマインドチェンジしました。つまり、今までのような優秀な人に依存するやり方ではなく、チームとしてモチベーションをいかに上げるか、チームとしての生産性をいかに上げるか、そういうところを私自身が大事にしようと。究極は「私がいなくても回る組織」をどうつくるか。そのために試行錯誤しようと考えるようになりました。

メンバー自ら「行動する」「考える」ための施策とは?
− 「小泉さんがいなくても回る組織」を作るために、具体的に取り組んだことは?
まずは、メンバーの一人ひとりが自分の頭で考えて行動し、周りを巻き込んで成果を出すような集合体をつくらないといけないと思いました。そのためには、前段階の「行動する」とか「考える」というところを強化すべきだと考えて、部署全体で「クリエイティブフライデー」という独自の取り組みを始めたんです。
第二領域、つまり「緊急ではないが重要度が高い仕事」にいかに注力するかがクリエイティブフライデーの狙いで、毎週金曜はノーアポ、ノーミーティング、ノー残業という決まりにしたのです。普通に仕事をしていると、第二領域ってあまり意識しないじゃないですか。しっかり考えないと出てこないところなので、意図的にそういう機会を設けたのです。
− メンバーからの反応はいかがでしたか?
最初は困っていましたね。自分の第二領域が何か、まったく出てこないと。じゃあそれを考えるための会議を月1でやりましょうということで、「第Ⅱ会議」という場をつくりました。
さらに言うと、クリエイティブフライデーを実践するには、木曜までに第一領域が片付いていなければいけません。そこもなかなか大変だという声があったので、じゃあ集中して仕事をする時間をつくろうと、「精神と時の部屋タイム」という時間を設けたんです。この時間内は会話もSlackも電話も禁止で、離席もNGです。
そうやって試行錯誤しながら、1つ1つ改善策を考えていきました。
− それらはどうやって浸透させたのですか?
ここはトップダウンでやりましたね。物事を進めるのにはトップダウンとボトムアップの交互のサイクルを回すことを意識しています。ボトムアップでやり続けても進まないし、方向性も定まらない。ならば一回トップダウンでやって、ある段階でボトムアップにしてドライブをかけていく、そういったサイクルを回すことが大事かなと。それに、最初にトップダウンで指示を出すのが、私の役割だろうと考えましたね。
− 結果、組織作りの手応えはどうですか?
まだまだ、私の理想にはほど遠いと思っています。2〜3割程度です。
− 厳しいですね(笑)
これは私の力不足でもありますが、私がいないとまだまだダメですし、育成にも手が回っていません。チームとして課題はたくさんあるなと感じています。
− 改善を進めていく中で、「チームづくりの難しさ」とはどこにあるとお考えですか?
自分の頭で考えさせるのが、すごく難しいですね。正直、仕組み化するのは簡単だし、トップダウンのフェーズでは私自身そんなに苦労はしていません。
そんな中で私なりに工夫していることがあるとしたら、トライアンドエラーをするということでしょうか。例えば、1on1を毎週やっても伝わらないことがあれば、同じことを他のメンバーにかわりに言ってもらうとか。あとは、伝えたい内容が盛り込まれている記事を引っ張ってきて、それを送って見てもらうとか。いろいろやってます。

部署独自のミッション・ビジョン・バリューを作成
− ここからは、スコアが高かった項目について話を伺っていこうと思います。まずは「支援行動」ですが、具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか?
常に伝えているのは、「自分の成長、自分の市場価値を上げるために頑張ってほしい」というメッセージなんです。「会社のために頑張る」というスタンスでやるのは僕も嫌いですし、それは求めていませんから。どうしたら成長できるか、自分のありたい姿は何で、できること・できないことが何なのか、そういう話は定期的にしつつ、普段から「何か困ったことはある?」と聞いていますね。それらが積み重なった結果なのかもしれません。
− 「人間関係」についてはいかがですか?
あえてやっていることとしては、業務外のところでも、横のコミュニケーションをとれる機会はなるべく設けるようにしています。月に一回のランチ会、あとは新しいメンバーが入ってきた際は「ライフライン」という人生を振り返って発表するイベントをしたり。
半年に一度の振り返りも、真面目なもの以外に、「LT大会」という発表会を定期的に行っていて、プライベートのことも含めてライトに振り返る機会を設けています。業務の話をする人もいれば、プロレス好きなら延々とプロレスの話をしたり(笑)。そういうのを、ピザを食べながらやったりしますね。
「待遇・制度・環境」の部分については、私もまだ分析しきれていないのですが、会社としていいから高いのかもしれませんね。
− 「理念」の部分については、こだわりがあると聞いています。
そこは圧倒的に高いと思っています。というのも、2年くらい前に部署のミッション・ビジョン・バリューを独自に作ったからです。
特に我々のような管理系の仕事においては、ミッションやビジョン、バリューを自分ごとに落とし込むのは難しいなと感じていました。だから、あくまで会社のものに紐づくかたちで、CC室のミッション・ビジョン・バリューを作ろうと。それを守ることが、全社にとってのバリューにもつながるんだよ、ということですね。
− それは他の部署ではやっていないものなんですか?
はい。うちだけですね。
私一人で3カ月くらい悶々としながら考えて、役員や他の部長にも適宜見せながらフィードバックをもらって完成させました。メンバーは意外とみんなしっくりきていたようですね。会社の理念とつながっていたからだと思います。
半年ごとに部の目標や方針を出すのですが、その全ての上位概念にはCC室のミッション、ビジョンがありクレドが入っているようにしていますし、クレドは評価の基準にもしています。
− 行動目標に組み込むことで、より業務で意識できるようになったわけですね。
そうなんですよ。評価制度って、変えようと思っても大変じゃないですか。これは僕が管理職としていつも意識していることなんですが、何かを会社全体で変えるのが難しくても、自分の部署ならそこまでは難しくない。だから全社にあるものをアジャストして、部署に最適なものに落とし込む。それも一つの役割かなと考えています。
やっぱり、「あるべき姿」を目指してこういうものを作ると、目標を達成することが会社に貢献しているのをダイレクトに感じられるようになるんです。それができると、どこでも通用する力が身に付くし、何より自分の価値を高めることにも繋がるんです。

「完璧なチーム」よりも「改善し続けるチーム」を目指す
− 「目指している組織像」みたいなものはありますか?
「自分の頭で考えられる人」というのは、一言でいうと市場価値が高い人間のことだと思っています。だから、メンバーにはそういう人になってもらいたいですね、そして、そういう人を一人でも増やすことが会社にとってもハッピーになることなので、そこは一つ目指しているところです。
最初から私の中にあったのは、「完璧なチーム」ではなく「改善し続けるチーム」を作ろう、ということでした。
− それはどうしてですか?
完璧なチームは、トップがいないとダメなんです。その時は完璧でも、その状態を維持し続けるためには常にトップが手を入れ続けないといけません。時代も外部環境も中にいる人も変わるわけですから、それを最適化することがトップの役割になってしまいます。だから完璧なチームは維持が大変だし、そのリーダーがいなくなった瞬間に組織が崩壊してしまうんです。
あと、もう一つ大きなポイントだと思っているのは、完璧なチームはそのリーダーの能力以上の成果は出せないんですよ。逆に、改善するチームだとメンバーが改善してるわけなので、変化の中にあっても安定するし、個々の能力が高まっていくし、何より一番のポイントは、リーダーの能力以上の成果が出せると思うんです。
− なるほど。
私は自分自身は能力が高いとは思っていないので、後者を目指すべきだと思っています。何より、そういうチームの方が仕事も楽しいはずなんです。
あとは、私たちがやっている採用とか広報のような仕事は、「人」に関わるものなので、どんなに仕組み化しようと思ってもうまくいきにくいんです。絶対に属人的な領域が発生します。だから、属人的なら属人的でもいいと割り切って、そのかわり「属人化する業務を回せる人をつくる仕組みをつくればいい」と考えるようにしました。
改善し続けるための仕組みや、人が育つ仕組みを作った方が、私もゆくゆくは自由になれるし、チームのレベルが上がっていけば、私自身が怠けない限り私個人のレベルも上げられる。つまり、お互いがハッピーになれるんです。それが私の中で理想としてあるので、そう考えると今のチームはまだまだ2〜3割、理想には道半ばかなと。
だから、今の組織を一度ぶっ壊してもいいかな、と思っているんです。
− ぶっ壊す?
今の延長でこのままいっても、理想とするところまで行き着かないと思うんです。だからあえてwevoxの点数が下がってでもいいから、一回壊してより強い組織を作り直したいなと思ったりしています。
確かに「人間関係」のスコアは高いですが、業務で成果を出すために本当に適切なコミュニケーションがとれているかというと、仲が良すぎる反面、言えていないことはあると思います。あとは、これは1on1のやりすぎの弊害なのかもしれませんが、私との縦のコミュニケーションはとれているんですが、横のコミュニケーションが足りていないように感じています。ここはまだまだ課題ですね。
そんなことを考えていると、少なくとも一度1on1をやめようかなとも思ったり。遠慮せずもっと何でも言えるような関係を作っていくためには、今あるものを守るのではなく、一度変えてみてもいいのかなと。あくまでより良くするためにですが、そういうことも必要かなと考えていますね。

「完璧なリーダーが指揮を取るチーム」の脆さをうけ、「改善し続けることができるチーム」の強さに徹底的にこだわり続けている小泉氏。
個がしっかりと目標設定できるようにサポートすることで、自分の頭で考える楽しさからくる仕事へのやりがいを生み出すサイクルを作れています。
実際に、エンゲージメントの高いチームとしてwevox(ウィボックス)スコアにも顕著にあらわれています。
ミッションやバリューをきちんと会社の方針とズレないところで言語化し浸透させること、属人化する業務を回せる人を生み出せる仕組みを作るというところにフォーカスした取り組みなど、チームの強さを求めるからこその生まれた概念なのではないでしょうか。
一方で、「そういうほうがチームとしても楽しい」という言葉に人間味を感じた心温まるインタビューでした。
今あるものを守ることばかりを考えず、一般化していることを壊して、どんどん良く変化していこうという小泉さんの強いスタンスで、チームにとどまらず、ますます強い組織に進化していくのだろうと感じます。 ありがとうございました!