2017年6月“目の前のアイテムが一瞬でキャッシュに変わる”アプリ「CASH」をリリースし大きな話題を呼び、2018年6月には、“あと払い専門の旅行代理店”アプリ「TRAVEL Now」をリリースし、話題に事欠かない株式会社バンク。

ここ半年で社員が急増する中、新たな組織づくりへの挑戦が始まっています。その一環としてスタートした「シンガリ」という役割の話を中心に、バンク独自のカルチャーや次世代型リーダーシップの形に迫ります。

INTERVIEWEE

CASH マネージャー/PM 齋藤 祐介氏

1991年生まれ。早稲田大学卒業後、2016年にランサーズ株式会社に新卒入社し、PMとして従事。2018年6月から株式会社バンクに入社し、現在は「CASH」のPMとしてプロダクト方針の策定、組織マネジメント、大規模リリース時のプロジェクトマネジメントなどを担当する。

CASH エンジニア アリクイチーム所属 遠藤 隼氏

1993年生まれ。中央大学卒業後、2015年にDMM新卒入社。DMM.E, TixeeBox, Dmm Okanの開発に従事。2017年11月にバンクにジョインし、Android版「CASH」の開発やスクラムマスターとしてチームビルディング等を行う。認定スクラムマスター。

CASH エンジニア 斑鳩チーム所属 松川 佳弘氏

  2018年5月にバンクにジョイン。主にサーバーサイドを担当。

>CASH エンジニア 斑鳩チーム所属 美谷 晋平氏

1991年生まれ。関西学院大学卒業後、2015年4月株式会社DMM.comラボに新卒入社しiOSエンジニアとして従事。2017年11月から株式会社バンクにジョイン。現在は主に「CASH」のiOSアプリの開発を担当。

CASH エンジニア うなぎチーム所属 高橋 拓也氏

2018年4月からバンクのサーバーサイド兼インフラエンジニア。
kubernetes が好き。Google Cloud Next ’18 in Tokyoセッションスピーカー

「人柄」重視で採用を行った結果のメンバー構成

― 本日はバンクの組織づくりについて、仕組みやカルチャーなどいろいろと伺わせてください

(齋藤)はい、お願いします。まずは現在のバンクの組織体制について、概要をお話ししたいと思います。

この図の通り、開発は大きく「CASH」チームと「TRAVEL Now」チームで分かれていて、ビジネスチームやバックオフィスは横断的にどちらのチームにも関わっています。今日集まった5人はすべてCASHチームのメンバーです。

(遠藤)CASHの開発チームには22人(2018年10月取材時)在籍しており、3つのチームに分かれています。それが、この図です。

― ありくい、いかるが、うなぎってチーム名なんですか?

(松川)そうです(笑)。最初にチーム分けをするときに便宜上「あ、い、う」と付けていたのですが、そのまま頭文字をとって、動物の名前にしよう、ということでこのチーム名になりました。

― なるほど、皆さんそれぞれのチームに属しているということですね。

(齋藤)いえ、私はプロジェクトマネージャーで、先ほどの図の真ん中にある「PM」と書かれたポジションにいます。3チームを横断的に見ながら、全体のプロジェクト進捗管理や企画立案を行っています。私以外の4人はそれぞれのチームに属するエンジニアです。じゃあ、この流れでみんなも自己紹介をしましょうか。

(遠藤)私はアリクイチームでAndoroid開発を中心にサーバーサイドの開発も行っています。アリクイチームは現在スクラム開発を行っており、「認定スクラムマスター」も取得しているのでスクラムマスターの役割も担っています。

(松川)私はいかるがチームでサーバーサイドをメインに開発を行っています。

(美谷)私もいかるがチームに所属しており、iOSの開発を担当しています。

(高橋)うなぎチームに所属しています。うなぎチームはSRE(Site Reliability Engineering)を行っており、CASHの安全性を担保することをミッションとしています。ですので、うなぎチームは全員でサーバーサイド開発やクラウドインフラの構築、開発環境の改善などを行っています。

― ありがとうございます。どのような経緯で現在のチーム構成になったのでしょうか? 

(遠藤)はい、順を追って話すと、まずCASHが最初にリリースされた2017年6月の段階では社員数は5人、そのうちエンジニアは2人でした。

― え! それだけしかいなかったんですか?

(美谷)はい。エンジニアが自ら施策立案を行い、社長の光本が「いいね、やろう」といった感じでスピード感を持って開発が進んでいったと聞いています。バンクはエンジニアが積極的に施策立案を行うカルチャーがあるのですが、その土壌はCASHの開発初期の頃に培われていったのだと思います。

― そうだったんですね…。じゃあ、リリース後にいったんサービスをストップしたり、というドタバタのときはかなりの少人数で対応されていたんですね。

(高橋)そういうことになりますね。

(齋藤)CASHが軌道に乗り、人員採用を積極的に進め、現在は50人程度に増えました。

(遠藤)半年で約5倍です。ただ、人が増えていく過程ですんなりと今の組織体制になったわけではなく、そこも紆余曲折がありまして…。

― ぜひ聞かせてください。

(美谷)一度、人がある程度増えた段階で組織化がされたのですが、全社をあげた大型プロジェクトが動き出したタイミングで、組織体制が一度バラバラになったんですね。

(高橋)スクランブル体制で対応が必要となったミッションがあって、個々人でひたすらタスク対応に当たる、という毎日を繰り返していました。チームの枠を超えて対応が必要な場面も多々あり、自然とチームがなくなっていったんです。

(齋藤)僕が入社したのは、その大型プロジェクトが終わりかけていたタイミングです。当時は、すごくカオスでしたね(笑)。誰がどういうタスクを行っているのか、まとまった情報がない。それなのに、みんなは能動的に動いている。

(遠藤)「スペインサッカーのバルセロナみたいなチーム」という内容のTweetを齋藤がしたら、軽くバズりましたよね(笑)。

(齋藤)本当に、そんな感じだったんです。

― みんなが能動的に動くいい面はありつつも、タスク管理の面で一定のデメリットも発生しますよね。特にPMという立場からすると。

(齋藤)そうですね。だから、ちょうど大型プロジェクトも終わりかけていたので、改めて組織化をしようということで今の体制を構築していきました。

(松川)組織化に当たっては「ヒエラルキーを設けない」「職能で分けない」の2つは守ろうと話していました。そのため、チームリーダーは存在しませんし、チーム分けも「iOS開発チーム」といった職能ではなく「事業成長」「サービス成長」「SRE」とそれぞれの目的ごとに構成されています。

(遠藤)2つともエンジニアの「自主性」を阻害しないためです。ヒエラルキーがあると、どうしても上からの命令を待つ受け身な状態ができてしまいますし、職能で分けると「iOS開発しかしない」といったように仕事の領域を狭めてしまう可能性もあります。

(美谷)こうした考え方は、バンクの「スピリット」が大きく関わっていますね。

(高橋)このスピリットを含めて、会社のミッションやビジョンをまとめたビジョンブックを社員は全員持っていて共通の価値観として大切にしています。採用面接時にもこのビジョンブックを渡していて、バンクのカルチャーを理解してもらった上で入社してもらっているんです。

― なるほど。このスピリットを体現する組織ってなんだろうと考えたときに、ヒエラルキーや職能で分ける従来の組織の仕組みが合わないんじゃないか、となったわけですね。

(齋藤)そうですね。すでにバンクではエンジニアの自主性はかなり確立されていたので、そうしたカルチャーを活かしつつ、進捗管理等を合理化できる形を模索した結果になります。

―  組織化し、プロジェクトの進捗管理が合理化されたとはいえ、齋藤さん一人がすべてを管理するのは大変ではないですか?

(齋藤)はい、最初の1ヶ月は1人ですべてを管理しようとしていましたが、途中からそれはやはり難しいということで取り入れたのが「シンガリ」制度です。

(遠藤)「シンガリ」は登山をするときに一番後ろにいて、体調が悪い人がいたら休憩を挟んだり、ペース配分をしたりする役割のことを言います。CASH開発チームにおけるシンガリは、誰か1人にタスクが集中して対処が必要なときや、急なトラブル対応が必要なときにPMや他のチームに情報共有をする役割です。

(齋藤)シンガリからの情報はPMである私が集約して、タスクの優先付けなどを行いながら全体の調整を行い、課題事項の解決にあたっています。

(松川)上長が存在しないと極端な話、誰かのタスクがずっと「進行中」というステータスになっていても、誰も指摘しない、ということもあり得ます。齋藤が気づけばいいのでしょうが、20人近くエンジニアがいる中で、つぶさにチェックするのは負担が大きすぎます。

(遠藤)だから、ある種チーム内の不具合を感知するセンサーのような役割としてシンガリを設けました。

(美谷)シンガリ、というネーミングは遠藤が付けました。確か、チャットの数回のやりとりで決まりましたよね。

(遠藤)上長ではないんだけど、まとめ役としての存在を考えたときに一番後ろにいながら、みんなの様子を見ているシンガリという言葉がしっくりきたんです。そのイメージを伝えたら、みんな賛同してくれました。

― 先頭に立ってみんなを引っ張っていく従来のリーダー像とは大きく違うものですね。

(齋藤)バンクのカルチャーを考えると、誰か一人が先頭に立つ、というリーダーはきっと合わないでしょう。とはいえ、誰か苦しんでいる人がいれば手を差し伸べる役割も必要です。そういう意味で、シンガリという言葉の持つイメージ、役割はぴったりだと思いました。

(遠藤)今日集まった我々4人のエンジニアは全員、それぞれのチームでシンガリを務めています。各チーム1~2人のシンガリがいて、毎週「シンガリ定例」というMTGで情報を共有しているんです。

(松川)例えば「あるタスクが集中しているから、誰かヘルプで入れないか」といった情報共有を行い、チーム間で人員の調整を行う、といったことをシンガリ定例で行っています。先ほどチームを「職能で分けない」とお話しましたが、それぞれのチームにiOSエンジニアがいたり、サーバーサイドのエンジニアがいたりするので、臨機応変に人員を調整しながら、プロジェクトを進行しています。

(高橋)臨時的に他チームを手伝うこともありますが、メンバーが他のチームに移ってみたいという意見も比較的あるので、そうした声もシンガリが拾って実際にメンバーの入れ替えを行ったりしていますよね。

― 一度決めたチームメンバーが入れ替わる、というのは頻繁に起きないことだと思いますが、そこもシンガリが調整役となって臨機応変に行っているんですね。

(齋藤)そうですね。チーム分けも必ずしも「絶対これ」というつもりで分けたものではありません。実際に働きながら、「あっちのチームの方が自分に合ってるかも」と思えば、シンガリが間に入って調整をすればいいんだと思います。

(松川)そうやって「チームを動きたい」という声がすぐに上がってくること自体、バンクのエンジニアらしいところなんだと思います。まだ始まって間もないですが、シンガリという役割はバンクのカルチャーにはすごくぴったりだと感じていますね。

― シンガリを務めるみなさんはこれまでマネジメント経験があったりするのでしょうか?

(美谷)いえ、必ずしもそういうわけではありません。だから、マネジメントに関する本を初めて読んだりして、少しずつ勉強しながらやっています。

(松川)「シンガリとしてどう対応すればいいのか」ということも含めてシンガリ定例で話し合いをしていますね。あとは、遠藤が認定スクラムマスターの資格を持っているので、スクラム開発の知見も参考にしています。

(遠藤)カンバンに書くタスクの粒度ってどれぐらいがいいのか、といった話もしていますね。チームの不具合を察知するセンサーとしての情報共有もしつつ、不具合が起きないような体制をどう整えるか、という観点でも話し合いをしています。

― 他社がCASH開発チームの組織づくりを参考にしようとしたときに、気を付けた方がいいポイントはありますか?

(遠藤)最終的なタスクの優先付けは1人の人間が行った方がいいですね。我々の場合だと、それがPMである齋藤の役割になります。

(齋藤)「誰かにタスクが集中しているけど、他にヘルプに入れる人もいない」といった場面も当然出てきます。言ってしまえば、シンガリはそうした情報をPMである私へ共有するところまでで十分役目を果たしているんです。そこから先、各プロジェクト全体の進捗を俯瞰で見て、それぞれのプロジェクトの優先付けを行うのは私だけが行っています。タスクは付箋を使って「カンバン方式」で管理しているのですが、全体の優先付けを行う作業はある種私の「聖域」となっています。

(遠藤)だから、PMとの信頼関係は必要不可欠ですね。PMが決めた優先度に沿って、みんなが動いている。心理的安全性も「PMが見てくれている」ということでかなり確保されているんです。

(齋藤)「何かあったらPMが責任を取る」とメンバーには伝えています。責任のあるポジションですが、能力も意欲もあるエンジニアが気持ちよく働いてくれるためには必要不可欠なので、やりがいもすごくありますね。

― なるほど、本当にいろいろと試行錯誤しながら組織づくりに挑戦しているのがよくわかります。これからどのように組織を発展させていきたいですか?

(齋藤)この組織体制もまだ始まったばかりなので、ちゃんと機能しているかどうか常にチェックしながら運用していきたいですね。「すべては実験」というスピリットは、こうした組織づくりにも当てはまると思っています。

(松川)開発のスピード感の維持も大切にしていきたいですね。これからさらに人数が増えていくでしょうから、コミュニケーションをいかに円滑に行うか、は常に向き合わないといけない課題です。そうした中でシンガリは何ができるか、常にみんなで考えていきたい。

(美谷)そうですね、シンガリがどこまで面倒を見るのか、というのは常に考えていくべきでしょうね。「シンガリにまかせればいいや」という雰囲気ができてしまってはバンクのカルチャーが損なわれることになりますから。あと、今は我々がシンガリを務めていますが、将来的には例えば持ち回り制で「全員がシンガリになれる」組織になるといいと思っています。

(高橋)それが理想ですね。全員が周りの様子を見ながら、声を掛け合い、問題が発生すれば対応に当たる。それをずっと同じ特定の誰かがやっていたら、その人がいなくなったときに困ってしまいます。

(松川)シンガリ、というのはあくまで役割なので、誰でもなれるんです。チームリーダーという役職だとコロコロ変えられないけど、シンガリなら例えば月替わりで変えても問題ないですから。

(遠藤)まずは我々がシンガリという役割を「実験」しながら構築していき、次はみんながシンガリの役割を担えるようなスキームを作っていく、というのが近々の目標ですね。

(齋藤)エンジニアの自主性を活かしつつ、チームとしてのまとまりをどう作っていくか。その一つのアクションとして、今回お話した組織体制とシンガリをスタートしました。組織自体も成長していきながら、これからも世間を驚かすような機能やサービスをリリースしていけるように頑張っていきます。

― 何かと話題性のあるバンクですが、開発の裏には地道な組織づくりの努力があったんですね。シンガリ、という制度も新しいリーダーシップのスタイルとして、とても興味深かったです。本日は貴重なお話をありがとうございました!