実践的な組織づくり戦略やエンゲージメント解析ツール「wevox」の活用方法を紹介する「DIO PLAN」。今回は、鹿児島県鹿児島市に本社を構える株式会社現場サポートの事例をお届けします。建設業向けクラウドサービスを提供する同社は、GPTWジャパン「働きがいのある会社」ランキング小規模部門2位、九州初の厚労省ユースエール企業認定など、組織づくりにおいても高い評価を得ています。そんな現場サポートは、2019年からwevoxを導入しエンゲージメントを軸にした組織づくりにシフトしました。その真意や、今の経営者に求められる組織づくりについて、代表取締役福留進一さんに伺いました。
「社員の満足」で終わっていいのか?
―「働きがいのある会社」ランキング小規模部門2位をはじめ、現場サポートは外部からの評価も非常に高いです。そうした企業にwevoxを活用していただくのは大変光栄なのですが、導入のきっかけは何だったのでしょうか?
以前は社員満足度調査を行っていたのですが、この「満足度」という指標に少し物足りなさを感じていました。社員からの満足度自体は高かったのですが、満足してもらうことがゴールでいいのか。満足のさらに先を目指さないといけないのでは、というぼんやりとした考えはあったのです。

そんなときに、wevoxを手掛けるアトラエの新居社長の「組織の未来はエンゲージメントで決まる」(英治出版)がAmazonでレコメンドされまして、買って読んでみたところ、「そうか、これからは満足度ではなくエンゲージメントなのか」と腑に落ちたんですよ。ですから、まんまと御社のマーケティングにハマった形ですね(笑)。
―いやいや、ありがとうございます(笑)。どういった点で、エンゲージメントという考え方が腑に落ちたのでしょうか?
私の中で「満足の先には社員の幸福がある。さらにその先には社会への貢献がある」というイメージを抱いていたんです。「それを実現できている社員は、エンゲージメントが高い状態にある」とあの本を読んで分かりました。だから、エンゲージメントを指標とし向上させていくことで、社員の幸福と社会への貢献を実現することができる。こういった考え方が腑に落ちたんです。
そのエンゲージメントをサーベイによって数値化してくれるwevoxとはどういうサービスなのかを知るためにwevoxチームのみなさんにいろいろとお話を聞いたうえで、納得ができたので導入を決めました。
―どういった点に納得できたのですか?
一番良かったのはスコアを他社と比較できる機能ですね。井の中の蛙になってはいけませんし、自分たちの会社の状態を客観的に把握できる点がとてもすばらしいですし、面白いプロダクトだと納得できました。

wevoxの分析機能の1つである「バランス分析」では、同業同規模企業とのエンゲージメントスコアの比較を確認できる。
あとは、エンゲージメントを高めるヒントとなるコンテンツが豊富に用意されていることも決め手となりましたね。
―現在、wevoxはどのように活用されていますか?
会社としてwevoxの運用ガイドラインを制定して、目的意識を社員にしっかりと共有して活用しています。具体的には、「wevoxは社員が幸福に働き、社会や仲間に貢献できているか、会社側は貢献意欲を醸成するための環境を整えられているかを数値化して計測するために運用する」といった目的をガイドラインに記載しています。
そして、もし環境に不備があれば社員と会社で話し合いをして改善策を講じていきます。サーベイは年に4回実施をしていて、計測したデータをもとに各部門での分析、検討を経て改善案やリクエストを経営会議で報告してもらう、という形を取っています。
実際にやってみると、各部門から主体的に組織を変えていこうという意見が出てきて、満足度調査のときとは大きく雰囲気が違いますね。
―雰囲気ですか?
そうです。満足度調査のときよりも前向きな意見が増えました。今振り返ると、満足度調査をしていたときは、経営側に対して“要求する”スタンスが大きかったな、と思うんです。そうした要求に対して、会社として制度を整えるなどしていろいろと改善はされていきました。ただ、経営者としてはもっと社員に主体的に組織づくりに向き合ってほしい思いはありました。
ですので、wevoxをきっかけに主体性を意識して、先ほども言ったようにデータをもとに各部門からどうすれば組織が良くなるか、意見を出してもらうようにしたんです。
毎日毎日、「ありがとう」を社員に送り続ける
―なるほど。とはいえ、いきなりそうした仕組みを取り入れても主体的に意見が出てくるとも限りません。
おっしゃるとおり、そもそも主体性に乏しい社員ばかりだったら、すぐには機能しなかったと思います。ただ、そこは私もずっと試行錯誤をして、主体性の醸成や活き活きと働ける組織文化の形成に努めてきた成果が現れた部分でもあります。手前味噌にはなりますが、現場サポートの社員だからすぐに適応できたと自信を持って言えますね。
―となると、そうした主体性や組織文化をどのように形成してきたのでしょうか?
いろいろと続けている取り組みはありますが、いくつか代表的なものをお話します。
まずは「ありがとう掲示板」。これは、社員同士で「ありがとう」を送り合う社内向けの掲示板のことです。大きな仕事の成果だけでなく、「シール貼りを手伝ってくれました」といった小さな支援などに対してもしっかりとありがとうと伝えようと、9年前からずっと続けています。
―9年間はすごいですね。こうした取り組みはどうしても自然消滅しがちですが、ずっと続けるコツはあるのですか?
コツと言っていいか分かりませんが、自分は毎日必ず1つは投稿するようにしているんです。宣言したのは自分ですからね(笑)。何千回になるでしょうか、もう数えられないくらいの「ありがとう」を投稿しています。
こうした取り組みは立ち上げた本人、社長であれば社長がどういう想いを持ってやるかがとても大事だと思います。
―この「ありがとう掲示板」はどのような想いで始めたのですか?
経営者という立場だと、社員のできていない部分がどうしても気になってしまうんですよね。あれもできない、これもできない。そうしたことばかりに意識がいっていると、せっかくの社員のいい部分が見えなくなってしまうんですよ。だから、ちゃんと社員のいいところを見よう、そのためにありがとうを毎日伝えようと思い、この取り組みを始めました。
自分や会社の理念も、指摘や押しつけではなくて、ありがとうを通じてメッセージを送るほうが社員にも伝わります。それを毎日繰り返すことで、社員も私の考えを理解してくれるし、ベクトルも揃ってくる。
それに、不思議なもので、ずっとありがとうを伝えていると、会社に来てくれるだけでありがたい気持ちになるんですよ。自分の気持ちもスッキリするし、社員もうれしい。毎日歯磨きするのと一緒で、今ではもうすっかり習慣化していますね。

―すばらしい取り組みです。
もう1つ代表的な取り組みが社長勉強会です。弊社には毎年バージョンアップを繰り返している「GS Policy」という130ページほどの冊子がありまして、これを教科書代わりに私が勉強会を実施しています。勉強会であればどこの企業も行っていると思いますが、特徴は年間で80回という実施回数の多さです。その80回の内、20回出るとちょっとしたインセンティブが出ます。だから、結構参加の割合は多くて、最低でも10人、多くて30人集まる回もあるんです。例え動機がインセンティブでも、誰も参加しないで形骸化するよりはいいかな、と思っています。
内容は、毎回30分ぐらいで、冊子を確認しながら私から話をします。ただ、聞いて終わりではなく、最終的にはグループワーク的にみんなで感想を言い合い、ちゃんとアウトプットまでします。このアウトプットが実は重要で、話の内容をしっかり理解できていない人も中にはいて、周りからツッコミを受けたりするんですね。でも、そうやって恥をかく、つまりさらけ出す機会があることで、「あ、ここの仲間の中では失敗しても平気なんだ」と心理的安全性が生まれる。なんでも言い合える風土づくりにも、この勉強会は機能しているんです。
そうした風土を生みつつ、社員一人ひとりの「コンセプチュアルスキル」を高めることがこの勉強会の目標です。全員が経営的な視点を持ちながら、個々の仕事に取り組むことでより高い成果を出す。
他にもいろいろな取り組みを行っていますが、こうした取り組みを通じて、主体性を高めてきたので、wevoxも個々の社員がすぐに活用してくれたのだと思います。
企業理念ではなく「私たちの理念」へのバージョンアップ
―お話いただいた取り組みは、エンゲージメントを高めるうえでもかなり効果的だと感じました。今までエンゲージメントという言葉を使っていなかっただけで、考えとしては通じるものは持っていたのですね。そうした考えは経営者になった頃から持っていたのですか?
いえいえ、38歳でこの会社を立ち上げたときは売り上げのことばかりで頭がいっぱいでしたよ。だから、離職率も高かったし、経営のあり方はこれでいいのだろうか、という葛藤もありました。
それで、自分なりに何のために会社が存在するのかを考え続け、「会社はステークホルダーを幸せにするためにある」という結論に至ったんです。ともすると売り上げだ、利益だと考えがちですが、それは何かの目的を達成するための手段でしかない。その目的は何かと言えば、地域社会や社員、上場企業であれば株主を幸せにすることです。
今は働き方改革が盛んに叫ばれていますが、私はただ働き方を変えるだけでは足りないと思っています。働き方を変えた結果、社員や社会への貢献度が増えなければいけない。そうした意識から、働き方改革という言葉だけだと薄いのではないかと危機感を持っています。
その点、エンゲージメントは社会や他者に対する貢献意欲までを含めた考え方です。もっと多くの経営者が、この考え方を取り入れて、より良い組織を生み出せるといいですよね。
―本当にそう思います。
経営者がサーベイツールに及び腰になる気持ちは分かるんですよ。誰だって、自分あるいは会社がどう思われているか、知りたくないじゃないですか。でも、それを受け止めて、本質的に組織と向き合う覚悟を持ってこそ、本来の経営の目的であるステークホルダーの幸福が達成されるんです。
そうした覚悟を持たずにツールだけ導入しても機能しません。逆に覚悟さえあれば、wevoxは社員の主体性を引き出し、経営者や上司、同僚との対話を生み出す良きツールとして機能します。
―その言葉が多くの経営者に届くことを願います。最後に、今後の組織づくりの展望をお聞かせください。
実は、ちょうど2020年度は現場サポートが「Version3」として新たに始動する年なんです。創業から5年間の利益のみを追い求めていた時期をVersion1、理念経営を実践した10年間をVersion2。そして、ステークホルダーの幸福を目指すためのVersion3が今年から始まります。
このバージョンアップのために、2019年度は1年かけて社員全員参加のワークショップを重ねて、これからの会社の方向性についてじっくりと議論してきたんです。その結果、新たな理念やミッション、価値観が定まりました。新たな理念は「経営理念」ではなく「私たちの理念」と呼ぶようにしていて、「チームを活かす、だれもが活きる」としています。

この書は新入社員が記したもので、書体の違いによって多様性を表現している
この一連のバージョンアップは、冒頭にお話した満足のさらにその先を目指すための大きな変革の1つです。これまで、経営理念は私が1人で考えたものを掲げていました。これはこれで機能はしていたのですが、満足ではなく幸福を目指したときに、社員たち自らが理念を議論するところからコミットして、会社の方向性を考えることが必要ではないか、と考えたのです。
―「自分たちの会社なんだ」という高い当事者意識が芽生えますよね。
はい。1年間を通していろいろな意見が出ましたが、そうした過程こそエンゲージメントを高める大切な要素だと思っています。自分たちで決めた理念を、自分たちで実現していく。これこそ究極の主体性ですし、その結果ステークホルダーを幸せにする会社としてさらなる成長を遂げるはずだと信じています。
コロナ禍など世界的に不安定な状況、変化の激しい時代が続くと思いますが、そういうときだからこそエンゲージメントの高い組織が真価を発揮するはずです。Version3となった新生現場サポートの社員が高いエンゲージメントを維持し、社会や社員同士で貢献できる環境を生み出せるように、経営者として引き続き努力していきたいと思います。