INTERVIEWEE

株式会社ミナジン 取締役 経営戦略本部長 野崎友邦氏

慶應義塾大大学卒業後、株式会社京都銀行に入行し、約10年間、法人融資営業、新規顧客開拓を中心にを行う。その後、株式会社ミナジン入社。人材サービス営業部マネージャー、営業部部長、管理部部長などを歴任した後、取締役就任。現在は経営戦略部長を兼任し、HRクラウドシステム部門、顧問サービス部門の事業部統括を行い、システムと人事のプロとを組み合わせたサービスの構築、事業提携などを推進している。

「組織内での感情の衝突」に頭を悩ませる中小企業は多いはず。勤怠管理システムや給与計算アウトソーシングなどの人事労務サービスを提供する中小企業、株式会社ミナジンも同様の課題を抱えていました。そうした中、取締役の野崎さんはこの課題に向き合い「wevox」(※)の導入を契機に様々な施策にチャレンジし、一定の効果を出し続けています。中小企業が抱えやすい組織開発の課題に、経営者はどう向き合えばいいのか、野崎さんに伺いました。

※企業の組織課題を独自のサーベイを用いて定量化及び特定し、働き方改革を促進するサービス

悪い意味で「他人のやるべきことについて熱心に話す」状態

− 昨年(2017年)から「wevox」を導入して、様々な組織改善の取り組みを行なっているミナジンさんですが、導入前の組織はどのような状況だったのでしょうか?

悪い意味で「他人のやるべきことについて熱心に話す」ことが多くなってしまっていると感じていました。つまり「自分がやろう」ではなくて、「あの人がやればいいのに」というネガティブな意見が多く出ていたのです。野球で例えると、ポテンヒットになった時に「なんでお前が取らないんだよ」といさかいが起きるような状態です。新たな取り組みのために柔軟性が求められる状況で「もう少し自分の役割を広くとらえられないか、他の人の仕事に敬意を払えないか」と感じることが多く、危機感を抱いていました。

− どうしてその様な状況に陥ってしまったのでしょうか?

「感情の衝突」が起きている状況とも言えるのですが、我々のような30年程度の社歴、50名程度の人数規模の中堅的な中小企業に特に多い問題ではないでしょうか。大企業は組織管理の仕組みができているので、個人間で問題が発生しても部門、職種単位の範囲内でシステマチックに解決することが多い。スタートアップであれば、仕組みができていなくても、ビジョンへの共感や勢いのあるサービスがエンジンとなって一体感が生まれやすい。だから、問題があっても前向きな形で解決できることが多いはずです。

− 確かに、ある程度の社歴がある中小企業が抱えやすい課題かもしれません。

もう1つ、中小企業には業務の属人化が起きやすいことも原因として考えられます。人数が少なければ業務をマニュアル化せず、属人化させた方が効率的です。ただ、業務が属人化しているせいで、都度社員同士が調整する必要があり、仕事における考え方の違いが個人同士の感情の衝突にまで発展しやすい傾向にある。こうしたことが組織全体の生産性の低下につながっていると思っていました。そこで、これらの課題を解決する1つのツールとして「wevox」を導入し、社内のエンゲージメントを計測することにしたのです。

− wevox導入後、全社集会で計測したエンゲージメントスコア(※)をもとに、組織が抱える課題の共有を行ったそうですね。社長がいる前で、取締役である野崎さんご自身から「経営陣への信頼」スコアが低い、という話をされたと聞いています。

「組織に対する自発的な貢献意欲」や「主体的に仕事に取り組んでいる心理状態」を表すエンゲージメントをwevox独自の分析・テストを通して数値化したもの。

実際に低いスコア(59/100点)でしたから。まずはそれを言わないと、この先何を言っても説得力がないだろうな、と思っていましたので。それから、新規事業をやっている部署は比較的平均スコアが高くて、長くやっているサービスの部署は平均スコアが低いという結果も共有し、「これは、新し物好きの社長の性格が出ていますね」ということまでハッキリと言いました。他にもどの項目のスコアが低いのかを共有しながら、組織が抱えている課題を社員に伝えました。

− 経営陣の非を認める発表というのはやりづらくなかったですか?

実際は、役員という自分の立場を利用すればとてもやりやすい発表でした。「経営陣への信頼」については、本当は自分も当事者になる項目です。しかし、あえて当事者としてではなく、「経営者」と「社員」の間の第三者が客観的に話しているような伝え方をしたのです。この「個人の意見を消して、客観的に伝える」というのは、「感情の衝突」を避けるうえでも大事なポイントになってきます。経営者の立場から全社に向けて組織課題について伝えると、うまくいっていない時はどうしても「経営者の主観」対「社員の主観」になりがちですから。その結果、経営者と社員間の「感情の衝突」に行き着いてしまいます。エンゲージメントは個人の問題ではなく組織の問題なので「個人にフォーカスしない」ということを常に意識しています。

− 社員の反応はどうでしたか?

何人か個別にメッセージをもらい、ある社員からは「野崎さんの本気を感じました」って言われました。いつも本気だったんですけどね(笑)。それから、シンプルに「話が面白かった」という反応も多かったです。それだけ、自分の会社を見つめなおすことは社員にとっても新鮮だったのでしょう。

− その全社集会では、経営者の信頼を高めるために「社長と飲む会」の開催も発表したそうですね。

はい。「我々経営陣への信頼が当社では低いです。だから、まず社長と皆さんが飲みながらコミュニケーションを取る場を設けます。皆さんの話を聞きながら、信頼を高めていきたいと考えています」と伝えました。普通だったら信頼関係がない中で「社長と飲もう」と経営陣が言っても反応は微妙だったはずです。ですが、「経営陣への信頼」を組織的に改善していく必要がある、と共有した後だったので、社員からも特に反発はありませんでした。実際に「経営者への信頼」スコアも回を重ねるごとに改善されたので、効果的な施策だったようです。

エンゲージメントを高めること≒業績を伸ばすこと

− 中小企業のなかには、同じような組織の課題を抱きつつも、ビジネス面にリソースを割くために組織改善を後回しにせざるを得ない企業もあります。そんななか、なぜ取締役自ら組織改善に臨もうと思ったのでしょうか?

「エンゲージメントを高めること≒業績を伸ばすこと」だと思っているからです。社員のエンゲージメントが高まれば、仕事により集中でき、個人の生産性が向上します。さらに、業務が属人化している中小企業は、仕組み化された大企業と比べ、「個人の生産性向上」が「会社全体の生産性向上」に影響しやすい。中小企業こそエンゲージメントを高めるべきで、私はそうした思いから組織改善に臨んでいるのです。

− 業績を伸ばすための1つの施策として、組織改善をしてエンゲージメントを高める。会社としても直接的なメリットがあるから、取締役自らが率先してツールの導入から施策の立案まで行ったということですね。

エンゲージメントを指標として追うようにしてから、様々な施策を実行し、3カ月ほどでスコアが上がったんですね。エンゲージメントを3カ月で上げられるということは、生産性を3カ月で向上できることとほぼ同義です。これだけ短期間で生産性が高まるんだから、中小企業こそエンゲージメントを高める取り組みに注力すべきではないでしょうか。個人のスキルを高めようとしても、3カ月で全員が効果を出すのは難しいでしょう。それに比べたら、全社のエンゲージメントを高める方が効率的です。

− とはいえ、「組織のエンゲージメントが低い」という現実を受け入れながらも施策を続けるのは大変ではないですか?

大変ですね、スコアが悪いとへこみますから。でも逆にスコアにフォーカスすることで、メンタル的にも安定して改善施策の検討に集中できるようにもなりました。例えばwevoxを使い始めたころは、フリーコメントも全部読んで対応しようとしていたのですが、途中からはあまり気にしないようにしたのです。

− どうしてですか?

エンゲージメントは個人にフォーカスせず組織単位で考えないといけないのですが、コメントを読むとどうしてもそれを書いた個人の意見に意識がいってしまいます。私自身もそうですが、意外と経営者って個人から直接言われる意見に影響されやすいんです。例えば、マネージャーAさんから「マネージャーBさんは問題だ。部下がかわいそうではないか?」と言われたとします。すると、Bさんに対して無意識にネガティブな印象を持ってしまいます。でもスコアを見ると、Aさんの部署の方が、Bさんの部署よりスコアが低いこともあるんです。

このように、特にフリーコメントは組織のエンゲージメントスコアの推移とあまりリンクしない、主観的かつ感情的ものが多い。それを個別に対応していては、こちらも感情が入ってきますし、そもそも組織課題とは関係なかったりします。もちろん、クリティカルな問題だと判断したものは個別に対応しますが、意外と社内で起こる諸々への個別対応は労が多いわりに実りがないことも多く、お互いが疲弊する結果になりがちです。

「個」を消す重要性

− 個別の感情的な意見の対応に終始していては、結局はどこかで社員同士、あるいは社員と野崎さんの間での「感情の衝突」を誘発してしまうということですね。全社集会での発表でもそうでしたが、「組織改善の継続」においても「個を消す」のが重要ということでしょうか?

そうですね、組織改善を継続するうえでも「個」を消して客観的に進めるのは重要です。個人の話に左右され過ぎず、あくまで組織の状態にフォーカスする。つまり、社員1人ひとりの声もマネジメントレベルに引き上げてから組織課題として取り組むことが大事だと思います。それから「個」の中には経営者も含まれている、という意識を持つことも大切です。実は、私はお酒が飲めなくて「飲みニケーション」には懐疑的なタイプなんです。でも、まずは社員と社長で話をすることから初めることが大事だろうと「社長との飲み会」施策を始めました。

− 「飲みニケーション」施策は野崎さん個人の考えでは絶対に実行しないけど、客観的な視点で考えた上で実行しようと判断ができたということですね。スコアの改善にともなって、組織の変化は変わりましたか?

最も感情的な壁が生まれやすい部署間の連携が強くなりました。ミナジンでは、給与計算アウトソーシングや勤怠管理システムなど様々な人事労務サービスを提供しています。しかし、各サービスを担当する部署間の連携が弱く、お互い何をしているのか把握できていないこともあった。それが、半年ほど前から社員が自発的に、各部署が持ち回りで他部署にサービスを説明する会を開催し始めたのです。

− それは、大きな変化ですね。それも、トップダウンではなく社員から自発的に始まった。

今までも社長から「クロスセールスをしよう」と口酸っぱく伝えてきたんですけどね(笑)。エンゲージメント向上のための施策を始めてから、自然とリーダーシップを発揮する社員が出始めました。エンゲージメントが高まった効果を表す、象徴的な動きの1つだと思います。クロスセールは目に見えて成果も上がりだし、エンゲージメントの向上が業績向上につながることを実感しています。

− 「他人のやるべきことについて熱心に話す」状態から改善されているように感じます。

まだまだ、改善の途中です。先ほどの他部署間の連携も発展段階。それに、今までは私が主導して組織改善に取り組んできましたが、これからは各マネージャーにも少しずつ施策を考えてもらったり、エンゲージメントを高めるための取り組みをしてもらいたいと考えています。エンゲージメントスコアで言えば、平均60点を平均70点にするところまでは、経営者がリードして上げることができた。でもここから平均80点くらいに持っていくには、各マネージャーのチームでの日々の取り組みが必要不可欠になってくると感じています。ホームパーティーにチームメンバーや新入社員を招くマネージャーや、部下と1on1での目標達成のサポートをウィークリーで行うマネージャーが出てきたりポジティブな変化が表れています。そんな風に施策やルールではない形で組織のエンゲージメントが上がっていくのが理想ですね。

− 赤裸々に語っていただいた部分もあり、多くの中小企業経営者の参考、励みになるはずです。本日は貴重なお話ありがとうございました。