INTERVIEWEE

株式会社福井 専務取締役 福井基成氏

大手タイヤメーカー勤務を経て、2006年株式会社福井に入社。
入社後は、営業として新規取引先開拓を推進する一方、物流センター新設プロジェクトや採用活動など内部業務にも幅広く携わる。2014年より現職。現在は社員の力の最大化と、働きやすい職場環境構築に日々奮闘中。

株式会社福井 営業2課 課長 岩森英喜氏

証券会社、広告代理店、不動産会社を経て、2014年に株式会社福井に入社。
入社後は一貫してインターネット市場(EC)への卸営業を担当。その後、EC市場に特化した営業2課を新たに起ち上げ、2017年より現職に昇格。
本人曰く、「伸長著しいEC市場に置いて行かれないよう」悪戦苦闘の日々を過ごしている。

創業100年を超す老舗企業、株式会社福井が今、大胆な組織改革にチャレンジしています。新たな企業理念、行動指針の策定、分析ツールの導入など積極的に組織改善施策を実施。離職率の低下やエンゲージメント向上などの効果を出しています。施策を主導する専務取締役の福井さんに、改革に至る過程や理想とする組織について伺いました。

30人の社員がいたら、30人の個人事業主がいるような会社

― 株式会社福井では現在、創業106年目にして、これまでにない規模で組織改革を行っているそうですね。

はい。株式会社福井は刃物、DIYツールの総合商社として今年で106年目を迎えます。この106年間を振り返ったときに「社員に十分向き合えていなかったのでは」という反省があり、4年ほど前から組織改革に乗り出しています。

― 本日は、どういった経緯で改革に至ったのか、どのような取り組みをしているのかお話しをお聞かせください。

それにはまず、弊社の事業内容や沿革を理解していただいた方がいいかと思います。

弊社は明治45年に創業しました。大阪府堺市の地場産業である包丁をメインに、製造と卸から事業をスタート。昭和25年ごろに個人商店から株式会社へと組織化されました。当時は、ホームセンターもスーパーもない時代です。お客様は商店街の金物屋が中心で、刃物以外にも手袋やノコギリなどの商品を同時に卸していました。

1970年代が金物屋の全盛期で、その後ホームセンターや大型スーパーが台頭し、量販店がメインの取引先になっていきます。その後2000年代に入ってからはインターネットの時代。EC関係の取引先が増え、現在ではECと量販店が半々ぐらいです。この辺りから、お客様の業種や需要も一気に多様化し始めていきます。

― 株式会社福井は代々家族経営をされていて、福井さんの父親が現在の社長ですね。

はい、私が6代目として社長に就任する予定です。私が入社したのは、先ほどのインターネットの時代に入って少し経った2006年。それまでは、別の大手企業で働いていました。

― 入社された当時の会社はどういう状況だったのでしょうか?

業績面で、非常に厳しい状況でした。このグラフを見れば分かるのですが、2000年に入って前半の業績が低迷を続けています。私が入社した2006年が、業績が一番悪いです。ですので、まずは事業の回復に専念するために、自ら得意先を持って、営業活動を行いました。そして、業績が上向きになった4年前ぐらいから、さらに業績を伸ばすために徐々に組織改革にも乗り出したのです。今は、自分では営業活動をしないで、管理業務に専念しています。

― 組織としては、入社当時はどのような状況だったのでしょうか?

我々のような問屋業に多いのかもしれませんが、30人の社員がいたら、30人の個人事業主がいるような状態でした。つまり、全く組織化がされていなくて、業務が極端に属人化していたんです。それぞれがそれぞれの得意先を持って、10年20年担当が変わらない、なんてこともありました。組織体制も「営業部」という大きなまとまりがあるだけで、お客様の業種や個々の役割などでのセクション分けがされていませんでした。

― なるほど。2006年はAmazonが急速に訪問者数を増やし、ECショッピング市場が拡大していく時期ですが、まだ古くからの体制が色濃く残っていたんですね。

業務の極端な属人化は得意先と深くつながれるいい面もあるのですが、柔軟性が欠けやすく今の時代には合わなくなってきていました。インターネットの登場以降、お客様の需要も多様化してきていて、組織にも柔軟性と素早い対応力が求められてきていた。ですので、4年ほど前に課を設けて、お客様の業種などによってセクションを分けました。そこで、創業後初めて機能分化がされたのです。

― それは、大きな変革ですね。まず、組織構造から変えたのはどういった狙いなのでしょうか?

守備範囲の明確化をして、業務の効率化を図りたかったからです。以前は、新しく人が入ったときに何をすればいいのか分かりづらい状況でした。機能分化がされていないので、どこからどこまでの得意先が自分の守備範囲なのか、何が自分の役割なのか、が明確でなかったんですね。それでは、入ったばかりの人は戸惑ってしまいます。

― 何かモデルにした組織はあるのでしょうか?

前職で働いていた大手企業は、しっかりとした組織管理の仕組みができていましたから、その経験を活かしました。管理がすごくて、社員を番号で呼ぶんですよ。そこまでやるのがいいかどうかはさておき、効率化という点だけに着目すれば参考になる点は多々ありました。

100年以上できていなかったことを「基本方針・行動指針」に

― 業績をより伸ばしていく必要がある中で、効率化のために組織構造から抜本的に変える必要があったということですね。

その通りです。そして、組織構造の変革後、少し落ち着いたタイミングで「基本方針・行動指針」の策定をしました。これも、100年以上経って、初めての取り組みです。以前からある経営理念『共に喜ぶ』にひも付ける形で、私が作りました。

― 何を基準に基本方針・行動指針を策定したのでしょうか?

昔からの社風で、経営者サイドが社員を褒めるのが苦手で「男は黙って」というような風潮があったんです。そうした空気を変えるために「社員、家族」を基本方針の上に持ってきています。「これからは、共に働く社員や社員の家族を最重視する」という意思表示です。でも、それだけではダメなので、行動指針の最初には『儲けよう』という言葉を持ってきています。これは、長期低迷していた時期の反省から掲げました。ここに書かれていることは、106年間を振り返っての反省すべきこと、できていなかったことの裏返しでもあるのです。

― それは、とても勇気のいる反省ですよね。社員の方の反応はどうでしたか?

これまでも口頭で伝えていたことの集約ではあったので、抵抗はなかったようですが…岩森さんどうですか?

(ここから、同席していた岩森さんが参加。岩森さんは3年前に中途採用で入社し、現在は営業課長を務めています)

岩森:この指針に沿っていろいろな施策や判断が行われているのは実感します。家族が2番目の項目にあるのですが、実際にクリスマスの日に「家族でケーキを食べてね」と商品券を渡してくれるんですよ。小さいことですけど、うれしいですよね。奥さんも、とても感動していました。

― 基本方針がなければ生まれていない取り組みかもしれませんね。

岩森:それから「社員を大切に」ということに関連して印象的だった出来事があります。私が入社して1年ぐらいで、担当しているお客様からの発注が一気に増えたときがあったんですね。ありがたかった反面、それまでの物流機能では出荷が追いつかないという危機に面しました。そのことを、社長と専務に相談したら「物流倉庫を買おう」とすぐに言ってくれたんです。会社としての本気を感じました。

福井:大きな決断ではありましたが、そのままにしていてもお客様も社員も誰も幸せにならないのは明確でしたから。それに、大きな売り上げの話が社員から上がってくるということは、組織が成長している証拠。そうしたタイミングで、事業をより加速させるための判断です。

― なるほど、御社の勢いを感じるエピソードです。岩森さんは、組織の雰囲気についてはどのように感じていますか?

岩森:入社して最初に感じたのは、この会社はベンチャー的な挑戦をする風土と家族経営的な温かさがいいバランスで両立している、ということです。私はこの会社が4社目で、スタートアップやトラディショナルな大手企業など様々な規模、スタイルの企業で働いてきました。その中でも、1番バランスがいいと感じています。

― 3年前に入社されたということは、課を設ける組織改革を行ってから1年ほど経過してからです。その時点ですでに、会社の雰囲気が大きく変わっていたということでしょうね。

岩森:専務とも非常に近い距離感で、事業について話ができるのもありがたいです。私からのいろいろな提案にも耳を傾けて、すぐに返答してくれる。「巧遅より拙速だよ」と専務はよく口にするのですが、本当にレスポンスが早い。

福井:どの業界もそうだと思いますが、何もしなければ業績は悪くなる一方ですから。「とにかく何かしらあがいて、人と違うことをしないといけない」というのが私の中で原則論としてあります。ただ、チャレンジする分、失敗も多いですよ。それでも、何もしないよりはマシです。

「子どもに自信を持って勧められる会社か」「自分がいなくても機能する会社か」

― 『wevox』も導入していただいています。100年を越す企業の導入は珍しいのですが、これも挑戦の1つであるということでしょうか。

福井:そうですね。これまでお話しした組織改革施策は、私が主導で行っています。それが正しいかどうか、私から社員に聞いても「はい」としか答えようがないですよね(笑)。だから、客観的に組織の状態を計測したくて、wevoxの導入を決めました。

岩森:普通は下からの意見を聞くのって、経営者は怖がると思うんですけど、専務はそういうの平気なタイプなのかなとは思っていました。だからwevoxを導入すると聞いても、「ああ、やりそうだな」と感じましたね。

― 実際に、社員の声を聞くことへの恐怖心はないのでしょうか?

福井:風船は小さいうちに割れ、というやつです。悩みや不満があっても、聞いてもらえるだけでスッと肩の荷が降りてストレスが減るものです。それに、コミュニケーションは質より量だと思っているので、密に社員の声を聞くことに抵抗はありません。1on1も、マネージャー層とは1カ月に1回必ず実施するようにしたんですよ。そこでは仕事についてあれこれ聞くのではなく、「最近どう?」といった形で、ざっくばらんな話をしています。そして、マネージャーは全ての課員と、同じ様に月1回必ず1on1をしてもらっています。その効果か、1on1を始めてから離職率が急激に下がったんですよ。

― これまでの話を聞いていると、福井さんの組織改革への並々ならぬ思いが伝わってきます。その思いを突き動かすものは何なのでしょうか?

福井:理想とする組織像というものが2つあって、それを実現したいという思いが原動力になっています。1つは「自分の子どもに自信を持って入社を勧められる会社」。我々がAppleやMicrosoftを目指しても彼らのような規模の会社にはなれないでしょう。しかし、彼らと同じくらい「働いてよかった」と思える会社は目指せるはずです。組織化して業務を効率化するのは業績向上のためでもありますが、働きやすい会社にするためでもあります。これまでのような、成果主義で長時間労働が当たり前といった価値観でいては、自分の子どもに入社してほしいとは思えませんから。社員やその家族を大切にするという基本方針にも、この理想が反映されているのです。

― 確かに、いい会社の1つの基準として「自分の子どもに勧められるか」はとても分かりやすいですね。もう1つの理想像は?

福井:もう1つが「自分がいなくても機能する会社」です。今は、まだビジネス面も組織づくりも私が主導しているところが大きい。これからはマネージャー層が主導して、取り組んでもらいたいと考えています。人がどんどん成長していって、各セクションのリーダーが、私の言っていることを部下に伝えてくれると最高ですね。変化の激しい時代には、そのようにしてリーダーを複数化していった方が、絶対に組織としての強さが出てくる。これまではトップダウン型の組織で100年以上やってきましたが、意思決定がうまく分散される組織になるよう、これからも失敗を恐れずに挑戦し続けたいです。

― 100年以上を越す企業、それに組織化もままならないトップダウン型の企業が、ここまでドラスティックに組織改革をしている事例というのはまだまだ日本でも少ないと思います。同じような境遇にいる経営者にとって、福井さんの取り組みはとても励みなるはずです。本日はありがとうございました。