INTERVIEWEE

at Will Work 代表理事/株式会社ストリートスマート 代表取締役 松林大輔氏

「働き方」が見直される中、旧態依然とした体質から多くの企業が変化仕切れていません。
特に、トラディショナルな大企業は古くからの制度や習慣が尾を引き、変われない状況が続いています。

こうした状況がなぜ起きているのか? 働き方に関する情報発信を行う「at Will Work」代表理事の松林さんに疑問をぶつけてみました。大企業が抱える問題点、変わるために必要なことなど、自身が経営する株式会社ストリートスマートの先進的な取り組みも交えていただきながら考察します。

変化しようとしていないのではなく、変化のスピードが追いついていない

― 今日は旧態依然とした働き方から脱け出せない企業について、その理由や改善案について、松林さんにお話を伺いたいと思います。まず、松林さんご自身は旧態依然とした企業体質はまだ残っていると感じますか?

感じますね。まだ、変化しきれていない。特にトラディショナルな大企業に多いですね。

― 変化しようとしていないのでしょうか?

いえ、変化はしようとしているはずなんです。そもそも、長く続く企業は厳しい競争を勝ち残っているわけですよね。サービス、製品を時代の流れに合わせて、市場価値を常に更新しながら生き残っている。

― 確かに。

だから、問題は「変化しようとしていない」のではなく「変化のスピードが追いついていない」ことなんです。

― なぜ、変化のスピードを上げることができないのでしょうか? 大企業を例に取ると、意思決定のスピードが問題視されています。意思決定にかかる時間が多すぎて、社会環境の変化についていけなくなったり、無駄な残業に繋がったりと様々な弊害が生まれている。

それも大きな要因でしょうね。例えば火事が起きて、現場に消防隊員が行きますよね。そこで、「今、2階まで火が上がっています。どうします?」と本部に電話する。そこから地区の消防署、県のトップに電話がいってようやく放水の判断が降る。そいういうことが今起きているんです。

そうした意思決定のフローを変えるためには、何と言っても経営者の意識改革が必要でしょう。

― やはり、トップが変わらないといけない、ということですね。トップが率先して意思決定のスピードを上げていく。

そうです。ただ、単に意思決定のスピードを上げていくだけでは足りないのでは、と最近は思うんです。

働き方を変えることの本質的な意味

― なぜでしょうか?

意思決定のスピードを上げる、ということは要するに現場に意思決定権を与えていく、ということなんですね。これまで現場からミドルマネージャーに、ミドルマネージャーから経営陣に情報が上がっていたのが、ある程度は「現場で判断してください」となる。

― はい。

そうなると、どうなるか。大企業で言えば、ミドルマネージャーがすごく困るんですよ。現場の部や課には裁量を与えて判断を求めながら、今までと変わらない営業報告を経営陣にしなければいけない。

多くの企業の利益算出方法は労働集約型を基準としているので、何人の社員が何時間働いて、どれだけの利益を出したか、という考え方になりますよね。これは日本が製造業が強いからこそ生まれた習慣でもあります。

― 今でもほとんどの企業がタイムカードで勤務時間を管理しています。

でも、現場に裁量を与えれば、それぞれ働く場所や時間を自由に決める動きも当然出てきますよね。そうやって自由を与えると、労働時間の管理だけで生産性を測れなくなってしまいます。既存の収益構造に当てはめようとすると、売り上げが落ちる可能性すらある。

― 同じ場所、同じ時間に人を集めることが前提の働き方と、現場に裁量を与えることに矛盾が生じてきます。

そうなんですよ。だから、簡単に「意思決定のスピードを上げよう」って言うんですけど、労働集約型を前提とした構造では限界があるんですよ。意思決定のフローを変えるには、ビジネスモデルから抜本的に考え直す必要があるんです。それぐらい、ドラスティックに考えないといけない。そういった”認識”を経営者がまず持つことからがスタートでしょうね。

― そうした背景を知らない経営者が多いということでしょうか。

”世の中の変化を知っている”だけの経営者は多いはずなんですよ。知らないわけがないんですよね。時価総額ランキングを見たって、昔と今じゃ上位にきている会社はビジネスモデルから組織構造まで全然違うんですよ。ただ、それを見ても自分たちの会社もそうしなければいけない時期に来ていると”認識”している人は少ない。

― 過去と違っているという情報をどう認識しているか、という問題ですね。

アメリカを例に取ると、現在時価総額上位のGoogleやFacebookの社員数は数万、十数万人規模です。一方で、90年代前半に時価総額上位だったエクソンモービルやGEは数十万人規模で社員を抱えていた。さらに、時価総額自体も年々大きくなっていて、社員数が減っているにも関わらず、数倍の時価総額を持っていたりするんです。

このように、全く違う市場環境になっているにも関わらず、ビジネスモデルが旧来のままなのが、日本企業の本質的な問題なのではないでしょうか。

― お話を聞いていると、変わるのも容易ではないのが伝わるのですが、日本でうまくいっている事例はあるのでしょうか?

エイベックスさんはとてもいい例ですね。まずCDを売る、というビジネスモデルが限界に来ていると分かり、イベントを売り上げの主軸にしようとした。それでもまだ足りず、今度はサイバーエージェントさんと組んでサブスクリプション型モデルのサービスを展開し始めた。さらに、最近ではFintech事業にも乗り出すなど、テクノロジーとエンターテインメントの融合を積極的に図っています。

同時に、組織づくりも変えていて、ピラミッド型からプロジェクトごとにチームを組む、分散型の組織体系に変化。それに伴い、フリーアドレス制を導入したり、シェアオフィスを自ら運営して外部のリソースをうまく活用するなど、多くの人事施策を打ち出しています。

  1. ビジネスモデルが変わって
  2. 組織構造が変わって
  3. 社員の働き方が変わっていく

という流れで、根本から企業体質を変えていった好例です。

― 会長の松浦勝人さんは最近よくメディアに出て、エイベックスの変化について話していますね。

経営者の意識が変わるということは、社内外に対するメッセージが変わってくるんですよ。そうすると、社内の人もだんだんと意識が変わっていく。それまで会社を”空気”のように覆っていた古い制度や習慣を「変えた方がいいんじゃないか?」と思えてくる。

働き方の”選択肢”の重要性

― なるほど。でも、仮にビジネスモデルや組織構造が変わると現場の社員にも大きな変化が起きますね。

そうですね。多くの人は戸惑うと思います。極端な例として「決まった時間、場所に会社に来なくてもいいから、週1回仕事の進捗や成果をスカイプで報告してね」となったとしますよね。ほとんどの人は、何をしていいか分からなくなるんじゃないでしょうか。

― 上司から指示されて動いていたのが、急に「自分で考えて」となる。

だから一人ひとりが今よりもっと経営マインドを持って、どうすれば組織の利益を生み出せるかを考えて働く必要があります。ただ、それを望んで能動的に動ける人はいいと思いますが、そうじゃない人にはものすごいプレッシャーになる。それが原因で、心理的負担が大きくなって精神に支障をきたしてしまっては元も子もないんです。

― 経営者が変わるだけでいいのか、ということでもない。

社員に対する成長支援もガラッと変えなきゃいけないでしょうね。大企業であれは、多くの研修プログラムが用意されていると思いますが、今までは「どうオペレーションするか」「どう生産性を上げるか」というミクロなことだったと思います。それが数字に対する意思決定の仕方を教えなきゃいけなくなります。「この案を実行した場合の費用対効果」とか経営的視点を個々の社員に持ってもらう必要があるんです。

― 意思決定をするというのはそういうことですもんね。

社員にとっても求められることがどんどん変わってきているので、厳しい時期だとは思います。

― 過渡期と言えます。

そうですね。でも、「働き方」についてここまで根本的に見直されているのは、過去になかったのではないでしょうか。そうした中で、もっといろいろな働く選択肢が生まれてほしいと思って「at Will Work」という団体を立ち上げた背景があります。

― 選択肢は重要ですね。

先ほども話したように、裁量を与えられた中で、伸び伸びと仕事ができる人ばかりかと言えばそうではない。裁量のある中で、自分で意思決定をすることには慣れが必要なんです。実際、私が経営するストリートスマートでも、意思決定に慣れてもらうためのトレーニング期間は設けています。

― どのようなトレーニングを行うのですか?

ストリートスマートはリモートワークを推奨していますが、最初の6カ月間だけは必ず出社してもらうようにしています。そうして、周りのメンバーがどうやってリモートワークをしているのか、肌で感じてもらい、徐々に慣れていくためです。

― 確かに、そういった働き方を自ら選んだとはいえ、いきなりリモートワークと言われても困惑しますよね。

そうです。自由な働き方を選択するということは、本人にとっては怖くもあるんです。言い訳ができないですから。だから、少しずつ慣れていける環境を会社が用意することが大切なんだと思います。細かいところで言えば、書籍を経費で自由に買っていいという制度も取り入れています。

― 直接的な業務に関わるものでなくてもいいんですか?

はい、自分の興味のある本であれば何でもOKです。「ディアゴスティーニでもいいよ」と言っているくらいです。読んだレポートも提出しなくてもいいですし、何を買ったかもいちいちチェックしません。会社が用意した参考書じゃなく、自分の意思で買った本から気付きを得て仕事に生かす、という経験をしてほしいのです。

不公平でもいいから、選択肢を作る

― 個人の興味をどう仕事に繋げるか、の訓練ですね。最近よく言われている「やりたいことを仕事に」という考え方に通じます。

そうした考え方は今後重要になってくるでしょうね。at Will Workの「Will」という言葉もそこからきています。これまでは個人が会社に合わせていたのが、会社が個人に合わせる時代になってきている。仮にビジネスモデルや組織構造の変化が実現したとして、もう1つ大事なのは個々人のWillをどれだけ会社が叶えられるか、だと思います。

― それもまた大変なことではあると思います。スタートアップであればビジョンが新鮮で共感を生み出しやすいですが、トラディショナルな大企業が全員のWillを叶えられるのか…。

「全員を同時に」は難しいでしょうね。そこが大企業が変われないもう1つの要因でもあって、どうしても「人事制度を変える」となったときに一律で変えようとしちゃうんですよね。不公平が生まれてはいけないと思って。

― どうすればいいのでしょうか?

不公平でいいんですよ。不公平でいいから、まず企業内に特区的な部署を作ってしまうんです。その特区は規制が緩くて、ある程度の裁量が与えられる。その代わり、意思決定は自分で行い、そうした仕事に対して評価がされる。

― 確かに、一部の部署であれば、すぐに規制緩和を行うことはできそうですね。

そうすると、その特区で働きたい人が他の部署から出てきますよね。そういう人はその特区で働けるように、スキルを身に付けて異動をすればいい。移りたくない人は、無理して移らなくてもいい。

これは同時に、部署間の異動を自分の意思でできる流れにも繋げられるでしょうGoogleが導入しているような、部署間の柔軟な異動制度が日本でも広まるかもしれないですよね。

― メリットは大きそうですね。

管理職のマネジメントスキルに対する健全な評価もされるようになるんじゃないでしょうか。部署間異動が柔軟に行われると、魅力のない上司の元からはどんどん人が減っていきますから。

だから、マネジメントスキルを測る指標として、エンゲージメントスコアはすごく有効でしょうね。これまでマネージャーを定量的に評価するのは営業利益でしたが、メンバーのエンゲージメントスコアも査定対象となれば、大きな変革になるはずです。

エンゲージメントスコアの高い上司の元には優秀な人が集まり、売り上げも上がっていく。大きな企業になればなるほど、エンゲージメントスコアの計測は有効だと思います。

― そうした変革が起きるには、まずは何よりも経営者の意識変革が必要、という話に戻ってきますね。

そうですね。ビジネスモデル、組織構造、個々人のWill、マネジメントに対する考え方、これらすべては同時並行的に変化していかなければいけません。

だから経営者は過去を捨てるぐらいの勇気が必要でしょうね。そうした経営者が増えるように、そして個々人の働き方の選択肢が増えるように、私もat Will Workやストリートスマートの活動を通して、情報発信を頑張っていきたいです。