実施ポイント
週1回の頻度で心理的安全性を確保する
私は週に1回、30分〜1時間の1on1を行っており、場所はオフィスやカフェなどその時々で変えています。頻度としては多いと感じる人もいるかもしれませんが、心理的安全性の確保を最優先に考えた上でのペースです。我々のような仕事では、プロジェクトの状況によってチームの雰囲気が悪くなり、心理的安全性が損なわれることも少なくありませんでした。そうした機会損失のリスクを避ける上でも、頻度を高く1on1を行っているのです。
とはいえ、毎週1時間きっちりと下記に挙げるような、業務の話やキャリアの話をしているわけではありません。雑談のようなものが大半を占める日もあります。大事なのは必ず1on1を行い、マネージャーと話せる場を用意しておくことです。ですから、リスケは極力しませんし、マネージャーも優先事項としてスケジュールを調整しています。
3つの目的を意識した1on1
私は1on1の目的を大きく3つに分けて設定しています。
❶ 内省による成長の加速
日頃の業務の中での学びの効果をより高めるために、経験の中から学習を促進させ、成長を加速させるのが1つ目の目的です。
ステップとしては、「ヤフーの1on1―部下を成長させるコミュニケーションの技法」(ダイヤモンド社)を参考に、
「具体的経験」→「内省的観察(なぜそういった事象が発生したのか/思考プロセスの解剖)」→「教訓の抽出(どうすべきであったか/概念の言語化)」→「コミットメント(次にどう活かすかを部下自身によって発見させる)」
という流れを意識しています。
例えばプレゼンを終えたメンバーとの会話の例を挙げます。
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メンバー「プレゼンを行ったけど、うまくいきませんでした」(具体的経験)
↓
マネージャー「なぜ、うまくいかなかったと思った?」
メンバー「話し方が論理的でなかったかもしれません」(内省的観察)
↓
マネージャー「確かに、それも1つの視点だね。あとは、例えばクライアントのニーズをちゃんと把握できていなかったということはないかな?」
メンバー「その点に関しては、問題はなかったと思います」
マネージャー「あるいは、他のメンバーとコミュニケーションを取ったほうがスムーズに進んだかもしれない。何が一番の原因だろうね」
メンバー「そういえば、ある提案部分のすり合わせが足りないと感じるとこがありました。曖昧なまま話したので、論理的に話せなかったのかもしれません」(教訓の抽出、どうすべきであったか/概念の言語化)
↓
メンバー「次からは曖昧な部分をなくすように、メンバーと事前にすり合わせておくようにします。そのために、プレゼン前にメンバーを集めた最終確認のMTGを設けるようにします」(コミットメント、次にどう活かすかを部下自身によって発見させる)
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このように、マネージャーサイドからは断定的な答えを明示せず、視野を広げる、視座を高めるようなフィードバックを心がけます。そうやって、自分自身で考えながら、課題に対する改善策を気づけるように促します。何がうまくいかなかったか、どうすれば次はうまくいくか。一番実感しているのは本人のはずですから、様々なフィードバックからクリティカルな気づきを得られるようにして、次に活かせるようにする会話が重要です。
時にはマネージャーからのフィードバックが本人にとっては違うと感じることもあるでしょうが、「新たな視点」を手に入れることには繋がります。当たっているか、外れているかではなく「いろいろな視点をインプットできるか」という意識でフィードバックをすると良いでしょう。
時にはネガティブなフィードバックをしなければいけない時もあるかもしれません。その時は、ストレートに伝え「それでもあなたを信じているし、味方だよ」と伝えてあげるようにしています。これも、心理的安全性を確保する上で非常に重要なアプローチです。
❷ キャリア指針の明確化
弊社ではクオーターごとに成長目標を設定しています。その目標をベースとしながら、本人のキャリアアップの方向性を話しています。大事にしているのは「FICCじゃなくても通用する人間に成長できるかどうか」という視点です。そうした視点で、これからの方向性を話していくと、本人が何にテンションが上がるのか、どういう仕事にはあまり乗り気じゃないか、というのが見えてきます。
そうした本人の志向性と成長目標にズレがないか、一貫性があるか、ということを特に注意して見ながら話をするようにしています。メンバーが何かしらの要因で携わらなければいけないプロジェクトでの役割があったとして、本人が求めていないことであったら「本当にそれやりたいこと?」と伝えることもあります。
そうやって、自分の中のwillと会社として求める役割をすり合わせながら、自分のキャリアプランや方向性を言語化できるようにしています。それらをマネージャーが把握しておくことで、それぞれの専門性、得意分野を活かしたアサインも可能になり、よりチーム力を高めることに繋がっています。
❸ 価値観の相互理解
最近の会社の動きについてどう感じているか、漠然とでいいから何か悩みがないかといった会話を通して、お互いの価値観を理解し合うのも大切です。基本的に1on1はメンバーが主導で話をしてもらうようにしていますが、時には自分の経験や感じていることを話すことで、お互いの理解を促進することも大事です。必ずしも仕事の話じゃなくてもよく、個人的なニュースや社外での出来事などについても話す時があってもいいでしょう。
チームを横断したマネージャー同士の1on1のメリット
弊社では、自分たちのチームメンバーだけでなく、別チームのマネージャーとも定期的に1on1を行っています。そこでは、チーム状況や全社的な課題となりそうなポイント、2つのチームが同時に関わっているプロジェクトの状況などを共有し合うのです。
マネージャー同士のMTGを行うことで、情報共有が迅速に行えるのはもちろん、「全社的な共通言語」が生まれるというメリットもあります。我々のような仕事は明確なマニュアルやガイドブックが存在するわけではないので、傾向としてノウハウが属人化しやすいです。それが、共通言語が生まれたことで、ノウハウの共有や意思疎通の精度、スピードが向上し、全社的な組織力の向上に繋がっています。
それから、チーム間同士のコミュニケーションも活性化されています。それまではマネージャーも、他チームの状況がよく分からないこともあったのですが、1on1を通して、他チームの状況を知り、それがメンバーにも波及してコミュニケーションが取りやすい環境が生まれたのです。会社の雰囲気も、1on1を導入する前に比べて明るくなったように思います。このように、チーム内の1on1に加え、チーム間のマネージャー同士の1on1も組み合わせることで、その効果は飛躍的に高まるでしょう。