上司と部下のコミュニケーション課題を解決する手段として近年1on1が注目されています。実際に導入を検討したり、導入を開始した大企業の方も多いのではないでしょうか。ただ、よく聞くのは「実際に導入してみたけど、成果に繋がっている気がしない」「やり方がイマイチ分からない」という声。そういった声を解決することを目的に、今回の記事では1on1にまつわる疑問を3人のプロフェッショナルが解決していきます。

【疑問①】そもそも、なぜ1on1は必要なの?

コミュニケーションが難しい今の時代こそ、1on1

エール株式会社 代表取締役 櫻井将氏

なぜ1on1が必要なのか

上司と部下の間で求められるコミュニケーションが形を変えています。1on1が必要とされるのもその1つだと思いますが、その背景には大きく2つの変化があるのではないでしょうか。

  1. コミュニケーション量の減少

総プレイングマネージャー時代とまでは言いませんが、部長職でさえ95%以上がプレイングマネージャと言われています。管理職は業績も人材育成もどちらも求められる上に、働き方改革で残業時間は削減。業績が右肩上がりの組織でない場合は、メンバーとのコミュニケーションは業務に寄った内容になりがちです。かつて飲み会や喫煙所、深夜残業で主に行われていたようなちょっとした雑談を含めた業務以外のコミュニケーションをする場面がどんどんと減っています。米ギャラップ社の調査では、上司部下のコミュニケーション量とエンゲージメントが相関するというデータもありますが、このような背景の中で、メンバーのエンゲージメントを高めていくには、意図的にコミュニケーション量を増やす仕組みを検討する必要があります。

  1. 価値観の多様化

終身雇用前提で1つの会社で育ってきた40代の管理職と、ずっとその会社にいるつもりのない20代の若手。世代間の価値観の違いは多くの人が感じているのではないでしょうか。例えば、「成長」という言葉を1つ取っても、1社で20年を過ごした40代の管理職と、ミレニアル世代の20代では全く異なる捉え方をしている可能性があります。

さらに、若者世代の価値観は画一的ではなく、多様化しているのが特徴です。「最近の若者って◯◯だよね!」と一括にして理解することが難しくなっているのではないでしょうか。そのような背景下で、一人ひとりの「働く上で何を大切にしているのか?」「働く上での動機は何か?」といった個別の声に丁寧に耳を傾ける必要が出てきます。

本質的な1on1とは

人が変化をしていく上では、「気づき」が必要です。そして、その「気づき」の作り方には2つのベクトルがあります。

1つは外的刺激による「気づき」。人事施策で言うと研修やジョブローテーション、評価やフィードバックがそれにあたります。その人の知らない情報や新しい視点を外部から与えることで「気づき」が生まれます。1on1の時間をこちらの目的で活用する企業や管理職の方もいるのではないでしょうか。

もう1つは内的刺激による「気づき」です。日々の経験を丁寧に内省することによって、自分のこと(価値観・ビジョン・思考パターンなど)を抽象化、言語化します。「新しい施策に納得感がなかったのは、施策内容が納得できないんじゃなく、事前に施策の背景の説明がなかったからなのか。自分は行動の裏側にある背景を大切にするタイプなんだな。」というような自分自身への「気づき」が生まれます。デービッド・コルブ氏の経験学習モデルは非常に有名ですが、内的刺激による「気づき」は通常の仕事の中で十分に得ることは難しく、ここに1on1が果たす役割は大きいと思います。

1on1の目的はずばりこの2つ

以下は、1on1を内的刺激による「気づき」を得るための時間として活用する場合の1on1の目的を記載します。

1.行動/思考の言語化

友人と一緒に映画を観た後のカフェでの会話で、「あのセリフが良かったよね〜」「えっ、そんなセリフあったっけ?」と驚くことがあります。それぐらい人は自分の目の前で起きていることを、自分の色眼鏡を通して見ています。メンバーからすると「お客さんからのいつものメール」が、上司から見ると「お叱りのメール」だったりするのです。1on1では、出来事や行動を客観的に振り返り、思考を丁寧に言語化していく時間をサポートします。「あれはお叱りのメールだろ!なんで分かんないんだ!」ではなく、「あのメールいつもと違うところがあるとすると、どこだと思う?」というような関わり方をすることで、外的に気づくのではなく、内的に「自分自身で」大切なことに気づくための時間を一緒につくりあげていきます。

2.感情レベルのマネジメント

2020年代のリーダーは、行動・思考レベルのマネジメントに加え、感情のマネジメントをする必要が出てくると感じています。人間は、思考の前に感情が動いていることは様々な研究からも分かっています。「こんまりメソッド」は「ときめく」という感情を活用して片付けをしますし、マーケティングであれば感情を動かすことが先で、論理的な説明は後です。決して逆では人はモノを買いません。前述の通り、価値観が多様になってきた背景の中では、タスク管理のような行動レベルや、ロジカルシンキングのような思考レベルのマネジメントに加えて、「楽しい」「嬉しい」「悲しい」という感情レベルを扱うマネジメントが必要な時代に入ってきています。心理的安全性が確保された場所でないと出せない感情を扱うのが、1on1の1つの役割かと思います。

【疑問②】1on1で相互理解が深まるの?

チームの相互理解を進める前にまず自己理解を

MIRACREATION株式会社 取締役 北川賢司氏

1on1の活用でメンバーとの関係性を深める

 1on1を活用することで、メンバーとの関係性が深まります。エンゲージメントを考えるときに、コーポレイトエンゲージメント、チームエンゲージメント、セルフエンゲージメントの3つに分けることができます。オフィス環境が良くなったり、給与が上がったりすれば、会社との関係性がよくなり、エンゲージメントが向上することがあります。これがコーポレイトエンゲージメント。チームエンゲージメントはメンバーとの関係性から生まれます。自分の仕事に関する支援があったり、一緒に働くメンバーから承認や期待が得られたら嬉しいですよね。自分自身との関係性が生むのはセルフエンゲージメント。健康に働いたり、自己成長が実感できていると、エンゲージメントは自ずと高まります。

 ただ最初のコーポレートエンゲージメントは、自分だけの力で変えるのは少し難しいです。自分の思い通りに会社全体を動かしてオフィスを変えることなどは、工数が大きくかかり、現実的ではありません。一方で下の2つ、チームエンゲージメント、セルフエンゲージメントは自らの工夫によって高められます。

自ら「選択」をすることで、行動の質が高まる

 各々が目標設定シートを使って、まずは自己理解を深め、シートを元に1on1を行うことで、メンバーとの関係性を強固なものにできるんです。まずは目標設定シートで、自分自身と対話をしてみてください。自分が本当にしたいことは何なのか、自分の理想状態はどのようなものなのか。

<目標設定シートの書き方は下部に記載>

 意味のある選択が、人の自主性を育みます。自ら選択することで、行動に意味づけがされます。自分自身で納得して活動できるんですね。そういった活動をしているうちに、自由意志の感覚が取り戻されるんです。なので、自らと向き合い、自己理解を進めることが1on1を行ううえでの大前提になります。

相手の未来を知り、人間関係を強固に

 人間関係とは、「過去の付き合いに基づいた互いの未来の行動についての一連の相互期待である」と学者エドガー・ヘンリー・シャインは言います。

 わかりやすく説明すると、例えば今夜飲み会を企画するとします。飲み会がどのような会になるか、未来の出来事なので誰も明確には予測できません。ただ自分と仲の良い参加者が下戸だったら、「お酒を飲めない彼も楽しめるように、ごはんが美味しいお店にしよう」という行動を取ることができます。これはお互いの嗜好に基づいた、短い時間軸での楽しい未来(飲み会)を見据えた行動です。おそらく職場の同僚であれば、これぐらいはわかり合えていると思います。

 これが例えば相手と1年後の理想、数年後の理想をお互いに把握できていると、長い時間軸で相手の未来を考慮したうえで自らも行動することができますよね。つまり、お互いの理想とする未来について理解が深いということは、人間関係が強固な証と言えます。これが本当の相互理解なんです。ですので、目標設定シートを使って、それぞれが自分と向き合い、1年後の理想をしっかり持つこと、そしてお互いのシートを見せ合いながらコミュニケーションを取ることで、関係性を深める1on1ができるようになります。一方ここまでの関係性ができていないのに、ビジネス上の目標設定や振り返りをしても、上滑りをした表面的な会話にしかならないと考えます。

<目標設定シートの書き方>

1. 目標設定シートの緑の枠Aに自分のありたい姿やビジョン、長期的な目標を記載します。

2.目標設定シートに1で記載したAを達成するために必要な目標を青い枠Bに8つ記載します。

3. 目標設定シートの目標Bに辿り着くための仮説を赤い枠Cに記載します。

目標設定シートの3つの色分けしたエリアは下記の関係性です。それぞれのエリアが全てつながっていることがポイントです。

<記入例>

 

【疑問③】メンバーの成長に繋げる1on1ってどうやってやるの?

短期と長期の2つの目線で行う1on1の目的設定

株式会社スペースマーケット 取締役兼執行役員CFO兼人事責任者 佐々木 正将氏

弊社は1on1を隔週で30分行なっており、3つの目的を設定しています。

・期待と評価のすり合わせ

・成果への支援

・成長への支援

 1on1ではまずアイスブレイク的に雑談を行ってから、その後1on1シートを使って目標の進捗に対する現状の評価、期間末での達成見込のすり合わせをします。最終評価時の社員と評価者の認識のギャップをなるべく減らし、「びっくり評価」をなくすのが目的です。

 弊社は会社として成長期にあるので、目標がクォーターの途中で変更になったり、また数字で測れない定性的な目標などがあります。期待と評価のずれが起こりやすいからこそ、毎週若しくは隔週で目標について1on1で話すのです。これが一つ目の「評価と期待のすり合わせ」です。

 また1on1を実施して、目標への進捗が芳しくない、このままでは達成できないとなった時に、1on1をする側は社員に達成までの道筋をアドバイスします。現状の評価、進捗を確かめるだけで終わりません。これが二つ目の「成果への支援」です。

 以上2つがどちらかというと、短期的な目線の目的ですが、三つ目の「成長への支援」は長期的な目線を持って行なっております。

 社員が将来どのようになりたいか、どのような成長をしていきたいかを聞き、それに向けたアドバイスや具体的なステップの歩み方などを伝えます。社内での実現方法を教えたり、また、社内で実現できない場合でも、どうやって叶えるかを一緒に考えサポートしています。

 

 

最後に

1on1の本質を理解したうえで、自社に合った目的設定、運用を行うことで相互理解、メンバー育成を進めることができます。ぜひ1つでも行動に移して、課題解決に繋がる1on1を実施してみましょう。

なお、DIOではあらゆる会社の1on1の取り組みについて掲載しています。今回の記事で興味を持って、もっと知りたい!と思った方は、ぜひ他の記事も読んでみてください!

どうする? 1on1--悩めるマネージャー必見! 1on1アクション一挙大公開!

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